交通事故の治療費

高次脳機能障害とは|交通事故で起こる症状と家族が気づくサイン

高次脳機能障害とは|交通事故で起こる症状と家族が気づくサイン

この記事のポイント

  • 高次脳機能障害は、交通事故の頭部外傷で脳が傷つき、記憶・注意・行動・人格面に支障が出る障害
  • 外見では分かりにくく、本人も自覚しにくいため、家族が「事故前と変わった」と気づくことが多い
  • 受傷時の意識障害の有無、頭部画像の所見、神経心理学的検査が診断と立証のカギになる
  • 症状が見えにくいぶん後遺障害の等級認定で対立しやすく、日常生活の記録が重要
  • 等級認定や賠償でもめたら弁護士への相談が有効

高次脳機能障害とは

交通事故の頭部外傷で生じる脳の障害

高次脳機能障害とは、交通事故などで頭部に強い衝撃を受けて脳が損傷した結果、記憶・注意・思考・行動・感情のコントロールといった「高次の脳の働き」に支障が出る障害です。手足の麻痺のような分かりやすい症状とは異なり、見た目には分かりにくいのが大きな特徴です。

この障害は、損傷した脳の部位や程度によって現れ方が大きく異なります。同じ事故でも、記憶の障害が目立つ人もいれば、感情の起伏が激しくなる人もいます。症状は一つとは限らず、いくつかが重なって現れることも少なくありません。

身体の傷が癒えても脳の機能の問題は残ることがあり、仕事や家庭生活、人間関係に長く影響します。だからこそ、早い段階で障害に気づき、適切な診断とリハビリ、そして賠償の準備につなげることが大切です。

なぜ交通事故で起きるのか

交通事故で高次脳機能障害が生じる典型は、頭部を直接打ちつけて脳挫傷を起こす場合です。歩行者や自転車、二輪車が車にはねられて頭を路面に打つ、車内で頭部を強くぶつける、といった状況が代表的です。

もう一つの典型が、びまん性軸索損傷と呼ばれるタイプです。これは、強い衝撃で脳全体が大きく揺さぶられ、神経線維が広い範囲で傷つくもので、外から見える大きな出血がなくても重い障害につながることがあります。高速での衝突や、はね飛ばされるような事故で起こりやすいとされます。

これらのケースでは、受傷時に意識を失う、しばらくもうろうとしていた、といった意識障害を伴うことが多いとされています。事故直後の意識状態は、後の診断や立証で重要な手がかりになるため、救急の記録などに残っているかどうかが意味を持ちます。

主な症状の分類

四つのタイプに整理して理解する

高次脳機能障害の症状は多岐にわたりますが、大きく分類して理解すると、家族も気づきやすくなります。代表的なものを目安として整理したのが次の表です。実際の現れ方には個人差が大きく、最終的な評価は専門医による検査と診断によります。

高次脳機能障害の主な症状の分類(目安・現れ方には個人差がある)
症状のタイプ 具体的な現れ方の例
記憶障害 新しいことを覚えられない、約束や予定を忘れる、同じ質問を繰り返す
注意障害 集中が続かない、二つのことを同時にできない、ミスが増える
遂行機能障害 段取りが立てられない、優先順位をつけられない、計画どおり進められない
社会的行動障害 怒りっぽくなる、感情を抑えられない、意欲が低下する、自己中心的になる

これらは単独で出ることもあれば、複数が重なることもあります。たとえば、注意障害と遂行機能障害が重なると、仕事の手順を最後までこなすことが難しくなります。症状の組み合わせによって、生活への影響の出方も変わってきます。

家族が気づくサイン

「事故前と人が変わった」という違和感

高次脳機能障害でとくに難しいのは、本人が自分の変化に気づきにくいことです。脳の働きそのものに支障が出ているため、「自分はいつもどおりだ」と感じていることも多く、結果として周囲の家族が先に異変に気づくケースが目立ちます。

家族が気づきやすいサインとしては、事故の前と比べて怒りっぽくなった、些細なことで感情を爆発させる、約束やしなければならないことをすぐ忘れる、といった変化があります。これまで普通にできていた家事や仕事の段取りができなくなる、というのも代表的なサインです。

また、すぐに疲れてしまう、やる気が出ず一日中ぼんやりしている、人付き合いが面倒になった、といった変化も見られます。こうした「以前のその人らしさが失われた」という感覚は、家族だからこそ気づける重要な手がかりです。

気づいたら早めに専門医へ

家族がこうしたサインに気づいたら、自己判断で様子を見続けるのではなく、早めに専門医を受診することが大切です。脳神経外科やリハビリテーション科、神経内科など、高次脳機能障害を扱う診療科で相談するとよいでしょう。

受診の際は、家族が日ごろ気づいた変化を具体的に伝えることが役立ちます。本人は症状を自覚しにくいため、本人の説明だけでは実態が伝わらないことがあるからです。いつ、どんな場面で、どんな様子だったかをメモにまとめておくと、診察の助けになります。

症状の現れ方には個人差があり、回復の見込みも人によって異なります。断定的な見通しを自分で決めつけず、医師の診断と指示に沿って、リハビリや生活の組み立てを進めていくことが基本になります。

診断と立証が難しい理由

外から見えないからこそ記録が要る

高次脳機能障害は、骨折のようにレントゲン一枚で示せるものではなく、診断と立証が難しい障害です。とくに賠償の場面では、症状が本当に事故による脳の損傷から生じているのかを客観的に示す必要があります。

立証のカギになるのが、三つの要素です。第一に、受傷時に意識障害があったかどうかの記録です。第二に、頭部のCTやMRIなどの画像で、脳の損傷を示す所見があるかどうかです。第三に、神経心理学的検査によって、記憶や注意などの機能の低下を数値などで確認できるかどうかです。

これらがそろっているほど、事故と症状のつながりを示しやすくなります。逆に、画像所見がはっきりしない場合などは立証が難しくなることがあり、専門的な対応が求められます。後遺障害として残った場合の等級の考え方については、後遺障害等級の基本もあわせて確認してください。

請求できる損害と揉めやすいポイント

請求できる損害の概要

高次脳機能障害の被害者が請求できる損害には、入院・通院やリハビリにかかる治療費、通院のための交通費、仕事を休んだことによる休業損害、精神的・肉体的苦痛に対する慰謝料などがあります。症状が残った場合は、後遺障害慰謝料も問題になります。

さらに、症状が重く、将来にわたって介護や見守りが必要になる場合には、将来介護費が問題になることもあります。また、障害によって以前のように働けなくなったことによる収入の減少は、逸失利益として検討されます。これらは金額が大きくなりやすく、算定も専門的になるため、ここでは概要にとどめます。

慰謝料には自賠責基準・任意保険基準・弁護士基準があり、弁護士基準で算定したほうが金額が高くなる傾向があります。ただし、必ず増額するわけではなく、障害の程度や立証の状況によって結果は変わります。

症状が見えにくいゆえの対立

高次脳機能障害で揉めやすいのは、症状が外から見えにくいために、相手保険会社との間で「本当に事故による障害なのか」「そこまで重い症状なのか」が争われやすい点です。とくに後遺障害の等級認定では、提出された資料の評価をめぐって見解が分かれることがあります。

家族から見れば明らかに事故前と変わっているのに、検査の数値や画像だけでは伝わりきらない、というもどかしさが生じがちです。本人が症状を軽く説明してしまい、実態より軽く評価されてしまうこともあります。

こうした対立に備えるには、日常生活でどんな支障が出ているかを、家族が継続的に記録しておくことが有効です。いつ何ができなかったか、どんな場面で困ったかを具体的に残しておくと、症状の重さを示す材料になります。

高次脳機能障害でもめたら

等級認定・賠償は弁護士に相談

高次脳機能障害は、診断や立証、後遺障害の等級認定が難しく、相手保険会社との間で見解が分かれやすい障害です。症状が見えにくいぶん、適正な評価を受けるには、医学的な資料と日常生活の記録を的確にそろえる必要があります。

提示された等級や賠償額に納得できないとき、立証の進め方に不安があるときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。早い段階で見通しを確認し、必要な検査や記録の準備を進めておくことで、適正な賠償につなげやすくなります。本人が自覚しにくい障害だからこそ、家族が早めに動くことが大切です。