全国の交通事故問題について
交通事故は全国的に減少しつつありますが、いまだに私たちの生活においてもっとも身近な「危険」と言えます。交通事故で犠牲となる方は平成27年の時点で年間4,117人に上ります。戦後、自動車が急速に普及し、経済が成長期に入った昭和30年代から交通事故発生件数、交通事故死者数は共に激しく増加し、昭和40年代半ばにピークとなりました。それ以降緩やかに交通事故発生件数、交通事故死者数は減少に転じましたが、昭和50年代半ばから再び増加しています。その後、交通事故死者数は平成5年を区切りに減少し続けていましたが平成27年には前年比+4人となり、大きな懸念を感じさせています。日本政府は平成15年に「これからの10年間で交通事故死者数を5,000人以下とする」「世界一安全な道路交通の実現を目指す」との目標を掲げました。死者数という点で見れば、目標は達成できていますが、超高齢化社会を迎えた昨今、高齢者の交通事故問題は深刻さを増しています。
私たちは、運転免許を取得したとき、「自分は決して交通事故を起こさない!」と誓ったことでしょう。しかし、ほんの少しの油断、考えごとや睡眠不足などによる漫然運転によってヒヤッとした経験は誰にでもあるでしょう。交通事故は一瞬にして私たちの幸せを奪い、加害者・被害者、またその家族を不幸のどん底に突き落とします。交通事故によって生じる法律問題、生活の不安など様々な悩みごとを一人で解決するには多大なエネルギーと時間を要します。もし交通事故を起こしたら、交通事故に巻き込まれたら、法律の専門家の力を借りて最善の解決をすることをお薦めします。
全国の交通事故問題の傾向を知る
交通事故発生件数は減少しているが死者数は増加に転じた
警察庁交通局が公表している「平成27年における交通事故の発生状況」によると、平成27年には全国で合わせて年間53万6,899件の交通事故(人身事故)が発生していました。前年比としては36,943件の減少となります。負傷者数は66万6,023人で前年比-45,351人とこちらも減少させていました。しかし、死者数に関して見ると平成26年には全国で合わせて4,113人でしたが、平成27年は増加に転じて年間4,117人でした。増加率は0.1%とごくわずかですが、平成8年から継続的に死者数を減少させて来ていたため、19年ぶりに増加に転じたことは大きな問題です。
交通事故発生件数および死傷者数の推移を調査
警察庁交通局がまとめた「平成27年における交通事故の発生状況」において全国の交通事故の推移を調べてみました。昭和23年当時は全国で年間21,341件の交通事故(人身事故)が発生しており、負傷者数は17,609人、死者数は3,848人でした。人口10万人当たりの死者数は4.93人となります。戦後復興期を迎えた昭和31年には事故件数が122,691件、死者数は6,751人と大幅に増加し、その後も年々その数を増やしていきました。昭和44年には事故件数は70万件を超え、死者数に関しても16,257人となっています。これまでの記録でもっとも事故件数が多かったのは平成16年の952,720件で、死者数に関しては昭和45年の16,765人が最多となります。また、人口10万人当たりの死者数がもっとも高い値を示したのは、死者数が最多となった昭和45年の16.35人です。
過去10年間に遡り、人口10万人当たりの死者数の推移を調査しました。交通事故の発生件数が減少傾向にあることもあり、以下の表のとおりこの10年間で着実に減少させていました。しかし、平成27年は死者数が前年比+4人と増加に転じたこともあり、わずかに上昇させています。
年度 | 人口10万人当たり死者数 |
---|---|
平成17年 | 5.43 |
平成18年 | 5.02 |
平成19年 | 4.54 |
平成20年 | 4.08 |
平成21年 | 3.90 |
平成22年 | 3.88 |
平成23年 | 3.66 |
平成24年 | 3.47 |
平成25年 | 3.44 |
平成26年 | 3.23 |
平成27年 | 3.24 |
交通事故負傷者の年齢層別状況
警察庁交通局「平成27年における交通事故の発生状況」において交通事故による負傷者の年齢層別の状況を調査しました。平成17年の特徴としては20歳から24歳までの年齢層が最も多い割合を占めており年間135,696人の負傷者を出していました。次に多いのは25歳~29歳の124,245人で、いずれも若い世代でした。平成17年には全体として1,157,113人の負傷者を出しており、65歳未満の年齢層は合計1,027,729人で、65歳以上の年齢層を合計すると129,384人という状況でした。10年後の平成27年のデータを見ると、もっとも負傷者が多い年齢層は40歳から44歳の年齢層で66,903人でした。続いて35歳から39歳の61,391人となっています。平成27年には全体として666,023人の負傷者を出していますが、このうち65歳未満の年齢層は564,508人でした。65歳以上の年齢層は101,515人となっています。この10年間で65歳未満の年齢層の負傷者は平成17年を100とした場合、指数として55まで減少していますが、65歳以上の年齢層に関しては残念ながら指数78までの減少にとどまっている状況です。
交通事故訴訟は10年で5倍に!
読売新聞が平成25年10月25日の朝刊で報じた記事によると、交通事故に関する訴訟が全国の簡易裁判所で急増しており、平成15年には全国で3,252件だった訴訟件数が平成25年には約5倍の15,428件にのぼることがわかりました。また、原告側、被告側に弁護士がついている訴訟の割合はこの10年間で59%から93%に上昇しています。交通事故の発生件数は減少していますが、訴訟数が増える要因としては自動車保険に付加されている「弁護士費用特約」の存在が大きいと思われます。かつては交通事故を起こしたり、事故に遭ってしまった場合、弁護士費用を自費負担することが主流でしたが、特約によって費用の心配がないため物損事故、人身事故いずれにおいても弁護士を活用しやすい環境が整っています。被害者側も保険会社とのやり取り、加害者とのやり取りなどで疲れてしまい、場合によっては「泣き寝入り」することもありました。しかし、費用の心配がなければ、納得できるところまでしっかり相手側と交渉することが出来ます。こういった背景から訴訟件数が増えていると思われますが、そのほか、全国の弁護士会が行う交通事故に関する無料法律相談の存在も大きいと考えられます。
交通事故センターに寄せられる法律相談の件数は増加傾向
「弁護士白書」のデータから全国の交通事故センターに寄せられる無料法律相談の件数を調査しました。平成25年には全国で合わせて47,665件だったものが平成26年には48,396 件まで増加していました。有料無料に関わらず法律相談の総件数はこの間608,679件から618,897件へと増加していますが、このように交通事故に特化した部門においても法律相談が増えている状況です。では、高まるニーズに応えることができるほど弁護士数は充分なのでしょうか。同じく「弁護士白書」から調べてみると以下のとおりとなっていました。
会員数(2015年3月31日現在)
弁護士 | 36,415人 |
弁護士法人会員 | 15,861法人 |
外国特別会員 | 379人 |
我が国が抱える交通事故問題
昭和30年から50年までは「第1次交通戦争」
警察庁が発行する「交通白書」を紐解いていくと、昭和30年代から50年代までは降雨通事故発生件数、死傷者数が急激に増加し、昭和45年には交通事故死者数が過去最高を記録しました。全国の自動車交通は戦後復興を遂げた昭和30年代に急成長期を迎えました。車両保有台数は、昭和30年代は二輪車、昭和40年代には乗用車を中心に急増しました。昭和49年の車両保有台数は3,733万台に上り、昭和30年当時の約20倍に増加するなど急速に環境が変化しました。 また、道路整備も急速に進み、昭和40年には名神高速道路が、昭和44年には東名高速道路が全線開通しています。しかしながら、環境の変化に合わせた交通安全対策が整備されていなかったこともあり、交通事故発生件数は急増し、「交通戦争」と呼ばれる状況となりました。
交通違反取締り件数の推移(昭和30~55年)
「第1次交通戦争」と呼ばれたこの期間、警察庁では交通取締りの強化に力を尽くしました。昭和30年代以降、パトカーと白バイの大幅補強を行い取締り体制を充実させ、昭和45年に交通事故死者数がピークとなったこともあり、昭和47年から49 年にかけて交通警察官を全国で約9,000人増員しています。そのため、取締りの執行力が高まり、検挙数は大幅に増加しています。その推移を見ると、昭和30年代は年間約200万件の検挙数でしたが、昭和40年代には年間約500万件まで増え、昭和50年代になると1,200万件を超えています。
近年の我が国における交通事故の特徴
二輪車および歩行者が被害者となる事故が多発
警察及び関係各所の取り組みにより、全国的に交通事故の件数は減少傾向にありますが、状態別で分類したデータを見ると、二輪車、自転車、歩行者が関係する交通事故の件数はさほど減少していませんでした。平成17年から平成27年までの推移を調査すると、以下の表のとおりとなっておりいずれもそのほかと比べて減少率(平成17年を100とした指数)が低い状況です。また、平成27年の交通事故における死者数4,117人を状態別に分けると、自動車乗車中が全体の32.1%、自動二輪車10.9%、原付乗車中5.6%、自転車乗車中13.9%、歩行中37.3%となっています。
年度 | 自動車 | 二輪車 | 自転車 | 歩行者 |
---|---|---|---|---|
平成17年 | 2746 | 604 | 853 | 2136 |
平成18年 | 2384 | 596 | 823 | 2073 |
平成19年 | 2032 | 561 | 751 | 1966 |
平成20年 | 1729 | 568 | 727 | 1745 |
平成21年 | 1630 | 527 | 712 | 1730 |
平成22年 | 1637 | 518 | 668 | 1744 |
平成23年 | 1478 | 515 | 639 | 1709 |
平成24年 | 1430 | 462 | 567 | 1642 |
平成25年 | 1420 | 466 | 601 | 1592 |
平成26年 | 1370 | 442 | 540 | 1498 |
平成27年 | 1322 | 447 | 572 | 1534 |
指数(平成17年を100として) | 48 | 74 | 67 | 72 |
多発する高齢者の歩行中の交通事故
全国的に歩行者が交通事故で亡くなるケースが目立っていますが、「平成27年警察白書」から歩行者事故を年齢層別にまとめた統計データを見ると、平成26年には年間1,498人の方が歩行中に事故に遭い亡くなられていますが、内訳は15歳以下の年齢層が43人、16歳から64歳までの年齢層が392人のところ、65歳以上の年齢層に関しては1,063人となっており、大きな割合を占めていることがわかります。人口10万人当たりの死者数を見ても、65歳以上の高齢者は3.22人と抜きん出て高くなっています。
全国の交通事故 発生の背景
ここまで全国の交通事故の実態を見て来ました。65歳以上の高齢者が犠牲となる交通事故は全国で多発していますが、各都道府県の警察では交通安全対策を強化し、高齢者事故の減少に力を入れて取り組んでいます。続いては、高齢者事故を減少させるための交通安全対策について見て行きます。
高齢者に向けた交通安全対策を強化
全国で発生する交通事故によって亡くなられる方の半数以上は65歳以上の高齢者です。その推移を見ると、平成15年には40%程度でしたが平成24年には51.3%と過去最高を記録し、全死者の過半数を占めてしまいました。高齢者の交通事故による死者数を状態別で見ると、最も多いのは歩行中の事故でした。その割合は半数近くを占めています。次に多いのは自動車乗車中、自転車乗用中となっています。
このような状態であるため、警視庁交通総務課 高齢者二輪車交通安全対策係では「交通保護誘導員」制度を平成11年9月から導入し、道路横断中の高齢者の事故防止を目的とした「高齢者交通指導員」を平成16年3月に設置しています。その活動としては、交通安全キャンペーン、高齢者宅への家庭訪問による交通安全教育など幅広い内容となっています。そのほか、夜間の歩行者を守る「反射材」入りの衣服着用の普及、交通全教室の実施など、できる限り市民に寄り添い、ともに交通安全に取り組める対策を推進しています。
高齢者が加害者となる交通事故の増加
高齢者が被害者となる事故が増える一方で、高齢ドライバーが加害者となる交通事故も増加しています。加齢による身体機能の衰えを感じた方には「免許自主返納制度」を利用することによる様々な特典を付与するなど、運転に不安のある高齢者が自動車の運転をしないようサポート体制を整えています。警察庁のデータによると、平成27年の時点で65歳以上の運転免許保有者数は約1,710万人に上っています。近年、高齢ドライバーによる車両単独事故が増える一方で、高齢ドライバーの運転操作ミスによる悲惨な事故が全国で多発しています。ブレーキとアクセルの踏み間違い、高速道路の逆走、認知症の症状と思われる意識喪失による死亡事故など、残念ながらそういったニュースを見ない日はありません。
自動車を運転するすべてのドライバーはいかなる時も安全運転を心がけ、けっして事故の加害者とならないよう気を引き締めて運転しなければいけません。心に余裕を持って運転するためには体調管理、スケジュール管理が大切です。高齢ドライバーは、自身の運転技能・判断力の衰え、反射速度の衰えなどを感じた場合は、運転を卒業することを考えなければいけません。人生の晩節を迎えて交通事故の加害者となることは非常に悲しいことです。交通事故は、加害者・被害者自身だけでなく、その家族の方々の平和な日常を奪います。交通事故を起こさない、交通事故に遭わないことが大切ですが、もしもの時は、各都道府県の交通事故事情を正しく理解し、加害者、被害者いずれにおいても最善となる事故処理を行ってくれる弁護士のサポートが大きな力になります。