労災保険と自賠責保険の使い方~業務中や通勤中の交通事故は労災事故!
この記事のポイント
- 業務中や通勤中に交通事故にあったら、原則として労災保険が使える
- 正社員だけでなく、パートやアルバイトも労災保険の対象
- 労災保険と自賠責保険が重複する部分の補償は受けられない
- 労災保険と自賠責保険の“請求順”が重要
- 労災保険を先に使うと、任意保険会社から治療の打ち切りを求められにくい
労災保険の基礎知識
業務中や通勤中の事故で死傷した場合の補償制度
「労災保険」とは、労働者が業務中や通勤中に負傷・死亡した場合などに“労働災害”を認定して、被害者または遺族に補償金や給付金などを支払う制度です。ケガのない物損事故は労働災害に該当しません。
労災保険の保険料は事業主が支払っているので、加入している意識のない人もいるでしょう。しかし、この制度は「労働者災害補償保険法」にもとづいており、正社員・パート・アルバイトなど、すべての労働者が対象となります(会社役員や従業員を雇用していない個人事業主は労災保険の対象外)。
7種類の給付内容(補償対象)
労災保険の給付内容はおもに7種類。それぞれの概要を以下に紹介します。なお、自賠責保険や任意保険と重複する部分の補償を受けることはできません。
- 療養補償給付/治療費や入院費など、おもに治療関係費が支給される
- 休業補償給付/療養のための休業に対して、補償金が支給される
- 障害補償給付/後遺障害が残った場合、その等級に応じて年金(1級~7級)や一時金(8級~14級)が支給される
- 傷病補償年金/療養の開始から1年6ヵ月を経過しても治らず、障害の程度が「傷病等級」に該当する場合に年金が支給される
- 介護補償給付/障害補償年金、または傷病補償年金を受給している人が介護を要する場合に支給される
- 遺族補償給付/被害者の遺族に対して、年金または一時金が支給される
- 葬祭料/被害者が死亡した場合、遺族に葬祭料が支給される
労災保険と自賠責保険、どちらを先に使うべき?
請求先を自由に選択できる
業務中や通勤中に交通事故にあったら、「労災保険」の給付か「自賠責保険」の保険金支払いを請求することができます。ふたつの保険はどちらも国が支払うものなので、財布はひとつ(労災保険は厚生労働省、自賠責保険は国土交通省が管轄)。同時に請求して二重取りすることはできません。
ただし、「どちらの支払いを先に受けるか」については自由に選べます。厚生労働省は自賠責保険の先行を推奨していますが、法的拘束力はありません。では労災保険と自賠責保険のどちらを先に請求すべきなのでしょうか?まずは判断の指針として、両保険の違いを紹介します。
労災保険 | 自賠責保険 | |
---|---|---|
支払い額の制限 | 治療費の限度額なし 休業損害は80%の金額 |
全体の限度額あり (傷害事故の場合、120万円) |
過失割合の影響 | ほとんどなし | あり(過失割合が7割以上の場合、保険金が減額される) |
年金 | あり(遺族年金、障害年金、傷病年金) | なし |
慰謝料 | なし | あり |
仮渡金制度 | なし | あり |
治療が長引きそうな場合は労災保険を優先
上図の「支払い額の制限」に記されているとおり、自賠責保険には全体の限度額があります。傷害事故では治療費・慰謝料・休業損害などの合計額が120万円までしか支払われません。したがって、治療が長引きそうな場合は労災保険を先に請求したほうがいいでしょう。
ただし、自賠責保険が支払われた後に労災保険の給付を請求すれば、120万円でカバーされなかった残りの治療費が全額支払われます。同様に労災保険の給付を受けた後に自賠責保険の支払いを請求すれば、労災保険では対象外の慰謝料が支払われます。だったら、どちらを先に請求しても結果は同じような気がしますが、そこが落とし穴なのです。
任意保険会社は治療費の追加負担を敬遠する
日本の自動車保険制度は「自賠責保険」+「任意保険」という2階建ての構造になっています。1階部分の自賠責保険は、法律で加入が義務づけられている保険。これは最低限の補償のため、足りない分を2階部分の任意保険が(本来は)補います。しかし、任意保険会社は自社の支出を抑えるため、多額の治療費を払いたがりませせん。
具体的には、傷害事故の損害賠償金が自賠責保険の限度額を超えないように、早期に治療の打ち切りを求めてくるケースがあるのです。この判断が医学的に正しいとは限らないものの、保険会社の要求に応じて治療を終えてしまう人も少なくありません。つまり、必要な治療を受けられない可能性があるのです。
一方、先に労災保険の給付を申請しておけば、任意保険会社は治療費を負担しません(治療費の全額が労災保険から支払われるため)。したがって、早期に治療の打ち切りを求められる可能性が低くなり、安心して治療を続けられるのです。
労災保険の申請方法と注意点
労働基準監督署に連絡して必要書類を提出
労災保険の給付を受ける権利には時効(短期給付は2年間、長期給付は5年間)があります。この期間を過ぎると支給されないので、忘れずに手続きをすませましょう。
具体的には、所轄の労働基準監督署に連絡して必要書類を提出してください(交通事故の際は、通常の請求書以外に「第三者行為災害届」も提出)。これらの手続きは本人が行うのが原則ですが、勤務先の人事部や総務部などが代行してくれる場合もあります。
保険請求の適切な判断には専門知識が必要
業務上の事故はほとんど労災に認定されますが、通勤中の事故は違います。なぜなら、プライベートの用事で通勤経路外の場所に立ち寄ったり、取引先との飲食が業務に認められなかったりすると、労災保険の対象外となる可能性があるからです。会社が労災の相談にのってくれない場合は、法律の専門家に相談してみましょう。
また、労災保険と自賠責保険のどちらを先に使ったほうがいいかは、個別の事情によって異なります。さらに、本人が加入している自動車保険を先に使ったほうがいいケースもあります。保険請求の適切な判断には専門知識が必要なので、交通事故分野に精通した弁護士に相談することをおすすめします。
- 保険会社の対応に不満がある。
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない。
- 過失割合に納得がいかない。
- 後遺障害の認定を相談したい。
「傷害事故の損害賠償」記事一覧
- 2016年12月8日
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