被害者の収入を証明する方法|適正な「休業損害」「逸失利益」の請求に重要!

この記事のポイント

  • 「休業損害」「逸失利益」を請求するには、原則として被害者の収入を証明する必要がある
  • 「休業損害」とは、入通院で仕事を休んだ際の減収分
  • 「逸失利益」とは、後遺障害による将来の減収分
  • 収入を示すおもな資料は源泉徴収票、または税務申告書類
  • 収入のない専業主婦も「休業損害」「逸失利益」を請求できる

事故でケガをしたら、どんな損害賠償を請求できる?

おもな損害は「積極損害」「消極損害」「慰謝料」の3種類

交通事故の被害者は、精神的にも肉体的にも大きな苦痛を受けます。さらに治療費や入院費などの出費が発生したり、仕事を休んで収入が減ったりしてしまうでしょう。では、どこまでの範囲で損害賠償を請求できるのでしょうか?まずは全体像を把握するために、傷害事故で損害賠償の対象となる項目を紹介します。

基本的な損害賠償項目(事故でケガを負った場合)

財産的損害
積極損害 治療関係費(治療費、入院費など)
通院交通費
付添看護費
入院雑費
器具などの購入費
将来の手術費・治療費・雑費など
弁護士費用(訴訟を起こした場合)
消極損害 休業損害
逸失利益(後遺障害に認定された場合)
精神的損害
慰謝料 入院と通院に対する慰謝料
後遺障害に対する慰謝料(後遺障害に認定された場合)

「積極損害」は出費の補償、「消極損害」は減収の補償

「積極損害」とは、事故によって出費を強いられた損害です。基本的に実費が賠償されるので、領収書やレシートなどを残しておく必要があります。一方の「消極損害」とは、事故にあわなければ得るはずだったと予想される利益のこと。実際の出費はないので、領収書やレシートは存在しません。

収入の証明が必要な賠償項目は「休業損害」「逸失利益」

消極損害を請求するためには、原則として“事故前の収入を証明”する必要があります。そこで本稿では、消極損害である「休業損害」「逸失利益」の概要と、収入を証明する方法について解説してきます。なお「慰謝料」の算定については、以下のコラムを参照してください。

交通事故における慰謝料とは?損をしないための基礎知識と慰謝料の目安

「休業損害」と「逸失利益」のキホン

【休業損害】実際の減収分-入通院で仕事を休んだ場合

交通事故によってケガをすると、入院や通院期間中に仕事を休まざるをえないことがあります。その間の減収分を「休業損害」といい、加害者側に損害賠償請求することができます(仕事を休んでも収入が減らなければ、原則として請求できません)。

休業損害=1日あたりの基礎収入×休業日数

休業損害の金額は、上記の式によって決まります。「1日あたりの基礎収入」とは、休業損害を算定するうえで基礎となる収入のこと。ここで収入の証明が必要になります。ちなみに会社員は「実際の収入=基礎収入」ですが、専業主婦・学生・失業者などは違います。会社役員や自営業者の場合も複雑なので、くわしくは後述します。

(休業損害についての詳細は、下記の記事をご参照ください。)
「休業損害」をしっかり請求する方法①~会社員・会社役員・自営業者の場合~
「休業損害」をしっかり請求する方法②~専業主婦・学生・失業者の場合~

【逸失利益】将来の減収分-後遺障害が残った場合

後遺障害が残った場合、事故前とまったく同じようには働けません。可能な仕事や労働時間が減少し、将来の収入が減ることが予想されます。その損害賠償として加害者側に請求できるのが「逸失利益」です。

逸失利益=基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応する係数

逸失利益の金額は、上記の式によって決まります。「労働能力喪失率」は後遺障害の等級に応じて数値が定められているので、ここでも「基礎収入」の金額がポイント。なお「就労可能年数」は、原則として症状固定(後遺障害が確定した時点)から67歳までの期間です。

(逸失利益についての詳細は、下記の記事をご参照ください。)
参考:逸失利益とは?後遺障害による逸失利益の発生条件と慰謝料計算方法

<収入を証明する資料A>会社員・会社役員・自営業者

【会社員】-源泉徴収票

サラリーマンやOLなどの会社員(給与所得者)は「基礎収入=実際の収入」なので、収入を証明する方法はシンプル。勤務先に前年度の「源泉徴収票」を発行してもらえば、実際の収入(源泉徴収前の基本給・歩合給・各種手当・賞与などの合計金額)が証明できます。

「休業損害証明書」に源泉徴収票を添付して提出

そして、休業損害や逸失利益を請求する際は「休業損害証明書」を勤務先に発行してもらいます。これは交通事故による休業日数、治療のための遅刻や早退の回数、休業期間中の給与の支払状況、事故前3ヵ月間の給与の支払状況などが記載されたもの。この証明書に源泉徴収票を添付して、加害者側に提出します。

【会社役員】-源泉徴収票

会社役員の場合も「源泉徴収票」が基本的な資料となります。しかし、「基礎収入=実際の収入」ではありません。役員報酬には「利益の配当」という側面があるため、「労務を提供したことに対する部分」のみが基礎収入として認められます。具体的には、企業規模や職務内容、他の役員や従業員の報酬などを総合的に考慮し、基礎収入(労務の対価)が算出されます。

【自営業者】-税務申告書類、または帳簿・源泉徴収票・領収書など

自営業者の収入を証明する資料は「税務申告書類」。具体的には、事故前年度の確定申告書や納税証明書です。毎年度の収入が安定していなければ、過去数年分の平均所得額を基礎収入とするケースもあります。

申告所得額が実収入よりも少なかったら?

自営業者で問題となりやすいのが、確定申告書上の所得が実際の収入よりも少ない場合。帳簿や源泉徴収票、領収書などで実収入を証明できれば、実態に即した基礎収入を認めてもらえます。ただし、虚偽の所得申告にあたる危険性があるので、所得税の修正申告を併せて検討しましょう。

なお、確定申告をしておらず、実収入の証明も難しいケースは「賃金センサス(賃金に関する政府の統計調査)」の平均賃金額が基礎収入になります。

<収入を証明する資料B>専業主婦・学生・失業者

【専業主婦】-なし(資料不要)

収入のない専業主婦も休業損害や逸失利益を請求する権利をもっています。その際の基礎収入は「賃金センサス」にもとづく女性労働者の平均賃金額。したがって、被害者側が資料を用意する必要はありません。

なお、加害者側の保険会社が提示する示談書には「休業損害」「逸失利益」という項目自体が抜け落ちているケースがあります。被害者側が指摘しなければ修正されないので、注意してください。

兼業主婦は源泉徴収票や確定申告書が必要なケースも

パートタイムなど仕事をもつ主婦の場合、「実収入」と「女性労働者の平均賃金額」を比較し、多いほうの金額を基礎収入とします。実収入を証明する資料は源泉徴収票、または確定申告書です。

【学生】-源泉徴収票(長期間のアルバイトをしている場合)

原則として、学生は休業損害を請求できません。しかし、同じアルバイト先で継続的に働いていれば、学生でも休業日数に応じた減収分を請求できます。就労期間の目安は1年以上。その際は勤務先に前年度の「源泉徴収票」を発行してもらい、収入を証明してください。

逸失利益は将来の減収に対する補償なので、アルバイト経験のない学生も請求できます。むしろ将来の就労期間が長くなるので、逸失利益が高くなりやすいでしょう。その際の基礎収入は、男女別・学歴別の平均賃金額。当然ながら、収入を証明する必要はありません。

【失業者】-就職先の雇用契約書、失業前の源泉徴収票

原則として、失業者は休業損害を請求できません。しかし、就職先が決まっていれば、就職予定日後の休業日数に応じた休業損害を請求できます。その際の基礎収入は、就職先で得られる予定の収入。給与が記載された雇用契約書を示せば、その金額が基礎収入として認められるでしょう。

就労の可能性が低ければ、休業損害や逸失利益を請求できない

逸失利益については、労働意欲と労働能力があり、就労の可能性が高い場合に請求できます。その際に必要なのは、以前の勤務先の収入を示す源泉徴収票。収入が低い場合や一度も働いたことがない場合には、男女別・学歴別の平均賃金額がベースとなります。

地主や家主は定期的な収入がありますが、「無職者」として扱われます。労働意欲と労働能力などから就労の可能性が非常に低ければ、休業損害や逸失利益は請求できません。

適正な損害賠償金を得るためには

基礎収入の考え方や証明資料を弁護士に確認

ここまで紹介してきたように、基本的には「実際の収入=基礎収入」です。しかし、被害者の立場によって基礎収入の考え方や証明資料は異なります。また、加害者側の保険会社は損害賠償金を低めに算定しようとする傾向があり、それは基礎収入についても同様です。

特に会社員以外の方は注意すべき点が多いので、早めに弁護士へ相談したほうがいいでしょう。専門家から正しいアドバイスを受けて、適正な損害賠償金を請求してください。

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