高次脳機能障害の損害賠償|後遺障害の適正な認定を受ける5つのポイント
この記事のポイント
- 高次脳機能障害とは、脳の損傷を原因とする認知障害の総称
- おもな障害は「記憶障害」「注意障害」「遂行機能障害」「社会的行動障害」
- 高次脳機能障害は画像検査で判断できない場合が多く、後遺障害の認定が難しい
- 高次脳機能障害の疑いがあれば、専門の医療機関で各種検査を受ける
- 状況証拠として、家族などが日常生活の変化・症状を記録しておく
「高次脳機能障害」とは?
脳の損傷を原因とする認知障害の総称
高次脳機能障害とは、脳の損傷を原因とする認知障害全般をさします。代表的な障害は、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害、失語・失認など。交通事故の後にこれらの障害が疑われた場合、高次脳機能障害にあたる可能性があります。
ひと昔前は脳組織の損傷と認知障害の関連が不明確だったため、交通事故の後遺障害として認められていませんでした。しかし、医学の進歩にともない、近年は後遺障害のひとつとして認められるようになったのです。
外見からは判断できず、本人の自覚症状もない
この障害の難点は外見から判断できず、基本的に本人の自覚症状もないこと。さらに、画像検査をしてもわからないケースが大半です。
では、どうやって障害の有無を判断すればいいのでしょうか?参考として、認知障害の具体的な症状を紹介します。
認知障害の具体的な症状
A/記憶障害
- 新しいできごとを覚えられない
- 同じことを何度もくり返し質問する
- モノの置き場所や約束を忘れる
B/注意障害
- ぼんやりしていてミスが多い
- 作業を長く続けられない
- ふたつのことを同時に行うと混乱する
C/半側空間無視
- 片側(多くは左側)にあるものにぶつかってしまう
- 片側(多くは左側)にある食べものを残す
※注意障害の一種に分類されることも
D/遂行機能障害
- 人に指示してもらわないとなにもできない
- 優先順位をつけて行動できない
- 約束の時間に間にあわない
E/社会的行動障害
- 思い通りにならないと大声を出す。暴力をふるう
- 自己中心的になる
- 他人に依存してしまう
F/失語症
- うまく話すことができない
- 同じ言葉を何度もくり返す
- 本が読めない
G/失認症
- モノの形や色がわからない
- さわっているものがなにかわからない
- 人の顔が判別できない
I/その他
- 嗅覚がなくなり、ガスがもれていても気がつかない
- 味覚がなくなり、食べものの異常に気がつかない
- 手や足を意味もなくパタパタ動かし、それを止められない
- てんかん発作が起こる(外傷性てんかん発作の可能性も)
不自然な変化に気づいたら、早めに専門医の診断を
被害者の家族などが上記のような変化に気づいたら、早めに専門医の診断を受けるようにしてください。
特に幼児や高齢者は未成熟や老化による現象と区別しづらく、見落としてしまう危険性があります。
高次脳機能障害の診断基準
障害が認められる4つの要件
高次脳機能障害のおもな要件は以下の4点。くわしくは厚生労働省による診断基準をもとに判断されます。
- 事故の際に頭部に強い衝撃を受けた
- 事故後に深刻な意識障害があった
- 画像検査などで脳の損傷が認められる
- 顕著な認知障害・人格変化が認められる
厚生労働省による診断基準
I.主要症状など
- 1)脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
- 2)現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。
II.検査所見
MRI、CT、脳波などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
III.除外項目
- 1)脳の器質的病変にもとづく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
- 2)診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
- 3)先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。
IV.診断
- 1)I?IIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
- 2)高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
- 3)神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
※診断基準のⅠとⅢを満たす一方で、Ⅱの検査所見で脳の器質的病変の存在を明らかにできない症例については、慎重な評価により高次脳機能障害者として診断されることがありえる。
後遺障害の適正な認定を受ける方法
おさえておきたい5つのポイント
後遺障害とは、認定機関が定める条件を満たした後遺症のこと。高次脳機能障害と疑われる症状が後遺障害に認定されるかどうかによって、損害賠償額は大きく変動します。そこで適正な認定を受けるためのポイントを紹介しましょう。
1)専門病院で受診する
高次脳機能障害を適正に判断するためには専門知識が必要なため、同分野を専門的に扱う医療機関で診断を受けましょう。代表的な機関としては、国立育成医療研究センター(リハビリテーション科)や国立障害者リハビリテーションセンター(高次脳機能障害情報・支援センター)があります。
2)画像検査を受ける
明確な証拠の乏しい高次脳機能障害において、MRI・CTなどの画像は極めて重要な資料です。脳の損傷(認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変)を画像で確認できれば、後遺障害として認められる可能性が高いでしょう。まずは早期にMRI検査を受けてください。
3)専門的検査を受ける
軽度の脳損傷はたいてい画像に表れません。つまり、画像検査で異常を確認できなかったとしても、高次脳機能障害の可能性が残ります。その際は専門医の指導にしたがって、以下のような神経心理学的検査を受けてください。
知能検査 | WAIS(ウェクスラー式成人知能検査) |
---|---|
言語機能検査 | SLTA(標準失語症検査) |
記憶検査 | WMS-R(日本版ウェクスラー記憶検査) |
遂行機能検査 | WCST(ウィスコンシン・カード・ソーティングテスト) |
4)日常生活の症状を記録する
高次脳機能障害の症状は日常生活の中で現れます。したがって、医師の受診だけでなく、家族や介護者が事故後の変化や日頃の症状を記録することが大切。信頼性を高めるため、「日常生活状況報告書」に具体的なエピソードを盛りこみましょう。
5)「被害者請求」を行う
後遺障害の等級認定を申請する手続きには「事前認定」と「被害者請求」の2種類があります。前者は加害者側の保険会社まかせの手続きなので、被害者に不利な資料を提出されるおそれも。一方、後者は被害者側が行う手続きです。画像検査で異常が確認できない場合、有利な補足資料(医師の意見書や弁護士の陳述書など)を提出しましょう。
等級認定の仕組みと基準
等級は6段階(1~3級、5級、7級、9級)
高次脳機能障害は判断が難しいため、後遺障害の等級認定においても“特定事案”として慎重に扱われます。具体的には、専門医を中心とする高次脳機能障害の専門部会(自賠責保険・共済審査会)が調査・認定。交通事故との因果関係も含めて多角的に判断されます。
後遺障害として認められた場合、その等級は以下の6段階に分類されます。各等級の基準については以下に要点をまとめます。
1級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの |
---|---|
2級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの |
3級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの |
5級 | 神経系統の機能または精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
7級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの |
9級 | 神経系統の機能または精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの |
適正な損害賠償金を得るために
高次脳機能障害の事案経験をもつ弁護士に依頼
後遺障害に認定されたとしても、適正な損害賠償金を得るまでは大変です。なぜならば、加害者側の保険会社は将来の介護費など(損害賠償金の一部)を低く提示する傾向があるからです。たとえば等級が1級以外の場合、原則として保険会社は“常時介護”の必要性を認めません。こういった主張に有効な反論をするためには、法律の専門家の力が必要です。
くり返しになりますが、高次脳機能障害は判断が難しく、専門性の極めて高い分野です。交通事故との因果関係を立証するためにも、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。なお後遺障害のなかでも特殊な分野なので、依頼する前に「高次脳機能障害の事案経験」を確認しておきましょう。
- 保険会社の対応に不満がある。
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない。
- 過失割合に納得がいかない。
- 後遺障害の認定を相談したい。
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