交通事故の損害賠償で請求出来る項目と内容は事故によってこんなに違う!ケースごとに徹底解説!
この記事のポイント
- 交通事故の損害の項目には、物的損害と人身損害がある。
- 交通事故の人身損害には、積極損害と消極損害、精神的損害がある。
- 物的損害には、車の修理費や買い換え費用、代車費用、評価損や休車損、積荷損などがある。
- 積極損害には、治療費や付添看護費用、通院交通費、装具/器具の費用、相殺関係費用などがある。
- 消極損害には、休業損害や後遺障害逸失利益、死亡逸失利益があり、これらは事故前に収入があった人が請求できる。
- 精神的損害には、入通院慰謝料、後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があり、事案によって近親者固有の慰謝料も認められる。
- 交通事故で確実に損害の項目を計算して高額な請求をするためには、弁護士に対応を依頼すべき。
交通事故の損害賠償には種類がある
交通事故に遭ったら、相手に対して賠償金の支払請求をします。このとき、一般的に「慰謝料」を請求するイメージがありますが、実際に請求できる賠償金は、慰謝料だけではありません。交通事故が起こったときに加害者に請求できる賠償金の種類は非常にたくさんあり、慰謝料はそのうちのほんの一部です。以下では、交通事故で、具体的にどのような損害賠償の項目があるのか、見てみましょう。
物的損害と人身損害
交通事故の損害には、大きく分けて物的損害と人的損害があります。物的損害とは、物損事故における損害です。物質的な損害に限られており、たとえば車が毀れた場合の修理費などが代表的なものとなります。これに対し、人身損害とは、人身事故が起こった場合に人について発生する損害です。人身損害の内容は非常にさまざまですが、たとえば治療費や休業損害、慰謝料などがあります。
積極損害と消極損害
交通事故の損害賠償金には、積極損害と消極損害という分類もあります。積極損害とは、交通事故によって、被害者が実際に支払わなければならなかった金額についての損害です。たとえば、病院の治療費や文書料、通院交通費や入院雑費などがこれに含まれます。
これに対し、消極損害とは、事故によって得られなくってしまった利益の分の損失です。たとえば、交通事故が起こると、仕事ができなくなったりして、本来なら得られたはずの収入を得られなくなることが多いです。そのような場合には、失われた収入が損害と認められて、相手に賠償請求することができます。これが消極損害です。
積極的に支払いが必要になるケースが積極損害で、現実には支払いは必要では無いけれども損失が発生するケースが消極損害だと理解すると良いでしょう。
精神的損害
交通事故の損害賠償項目には、精神的損害もあります。精神的損害とは、交通事故でけがをしたときに、精神的な苦痛を被るので、それに対する賠償金のことです。慰謝料とは、この精神的損害のことです。精神的損害が認められるのは人身事故のケースのみです。けがをして入通院をしたときや、後遺障害が残ったとき、死亡したときにそれぞれ慰謝料が認められます。
以上のように、交通事故が起こったときの損害の賠償項目はケースによって異なります。物損事故なら物的損害についてしか支払いが認められません。人身事故なら物的損害と人身損害の両方が認められます。ただし、事故によっては認められない項目もあるので、個別の検討が必要となります。
物的損害
それでは、交通事故が起こったとき、具体的にはどのような損害の項目があるのか、見てみましょう。まずは物損事故の物的損害の項目です。物的損害には、以下のようなものがあります。
- 修理費
- 買い換え費用
- 代車費用
- 休車損
- 積荷損
以下で、順番にその内容をご説明します。
修理費
修理費は、物的損害の代表的なものです。物損事故が起こると、自動車やその他の車両が破損することが多いです。そこで、その修理費用を相手に請求することができます。車の修理費用については、専門の修理業者に見積もり依頼を出して査定して、その金額を相手に支払ってもらう方法が基本です。
このとき、修理費用の限度額は車の評価額(時価)となります。車が古い場合などには時価が低いことも多いですが、その場合、時価を限度としてしか修理費用が認められないので、注意が必要です。また、修理費用はお金で支払われるので、修理自体は自分で行う必要があります。お金を受けとっても、実際には修理をせずに他の車の買い換え費用に充てることは自由です。ただし、修理費用と買い換え費用に差額が発生した場合、その差額は被害者の自己負担となります。
買い換え費用
物的損害については、車の買い換え費用が認められるケースもあります。これは、車が全損して修理が不可能なケースです。車が全損と認められるケースには、以下のような場合があります。
物理的に修理不可能な場合
まず、車の破損の状態が著しく、物理的に修理ができない場合には、問題なく全損扱いとなります。
経済的全損
車の修理自体は可能でも、修理費用が高額になって車の時価を上回るようなケースでは、経済的全損とされて買い換え費用が認められます。
車の重要な部分が破損している場合
外見上車が毀れているように見えなくても、車の本質的な重要部分が破損していたら修理は不可能なので、全損扱いとなって買い換えが認められます。
車の買い換え費用が認められるとき、新車の購入費用が認められるわけではないので、注意が必要です。このとき賠償の対象となるのは、車の事故前の時価です。具体的には、中古市場の同一車種や型式、年式、走行距離、使用状態の相場を基準にして金額を決めます。なお、事故車を売却できたり、スクラップにしてその料金を支払ってもらえ得たりすると、その料金が差し引かれます。反対に廃車費用がかかったら、その費用は上乗せしてもらうことができます。
代車費用
交通事故で物損被害が発生して車が使えない期間が発生したら、その期間において代車費用を請求できるケースがあります。代車費用を請求できるのは、その必要性がある場合に限られます。具体的には、車を仕事や通院、通勤などに使用している場合です。そして、代車費用として認められるのは、現実に利用するレンタカー代が基本となります。車を修理する場合には、修理する期間中に代車費用が認められますし、買い換えの場合には基本的に納車されるまでの期間中の代車費用が認められます。ただ、あまりに長くなると、支払われなくなることもあります。買い換えの場合、中古車で2週間程度、新車の場合には1ヶ月程度が目安となります。
必要があってタクシーを利用した場合には、タクシー代の請求も可能になるケースがあります。
評価損
交通事故に遭ったために車の価値が下がってしまった場合には、評価損を請求できるケースがあります。評価損とは、事故車になってしまったために、車の価値が低下するので、その低下分を損害として認めてもらうことです。ただ、評価損を損害として認めてもらえることは、実際には非常に少ないです。以下のようなケースで認められると考えると良いです。
- 車を完全に修理できず、事故前より車の機能や価値が低下する場合
- 修理により車の機能が回復しても、車の外板や塗装面などに修理跡が残り、価値が差がる場合
- 車を完全に修復できても、事故車扱いになって価値が下がる場合
一般的に、外車や人気国産車の場合で初年度登録から新しい場合に評価損が認められやすいです。これらの車なら登録後5年程度、走行距離6万km程度まで、それ以外の通常の国産車なら初年度登録から3年程度、走行距離4万km程度まで場合が、評価損が認められる目安となります。
評価損が認められる場合、支払い額は、車両購入価格や事故前の車の時価の1割程度、または修理費用の3割以下になります。
休車損
物的損害には、休車損があります。休車損とは、タクシーやバス、トラックなどの運転者が交通事故に遭った場合、車が破損したので、その車を使って営業ができなくなったために発生する損害です。休車損は、実際に支払いをする損害ではなく、本来得られたはずの利益分の損失なので、積極損害ではなく消極損害の1種です。そして、以下のとおりの計算式によって、算出できます。
休車損=1日当たりの損害額×休車期間
1日当たりの損害額の算定方法
休車損の1日あたりの損害額は、事故前3ヶ月間の売上と経費によって計算する例が多いです。例えば事故前3ヶ月(90日間)の売上額が110万円であり、その期間の経費が20万円かかるケースでは、その車の1日当たりの損害額は(110万円-20万円)÷90日間=1万円です。休車期間が1ヶ月なら、休車損害は1万円×30日=30万円となります。
なお、他に遊休車があって、それを代わりに使って営業ができる場合には、休車損害は認められません。
積荷損
物的損害には、積荷損もあります。積荷損とは、事故車に荷物が搭載されていたときに、交通事故によってその荷物が破損した場合に認められる荷物の分の損害です。積荷が新品の場合には、荷物の価格がそのまま損害額として認められます。これに対し、中古品の場合には、荷物の購入時期や状態により、購入価格から減額されます。
さらに、高額品が積まれていた場合にも問題になります。たとえば、トラック内に、一般では予測がつかないような高額な品が積み込まれていた場合です。この場合には、一般的な観点から予測可能であったかどうかが問題となり、予測が不可能であった場合(予見可能性がなかった場合)には、損害として認められないことになります。
人身損害
交通事故では、人身事故が起こるケースが非常に多いです。そこで、以下では人身損害の損害賠償項目を確認しましょう。
積極損害
人身事故では、積極損害と消極損害、精神的損害の分類が非常に重要です。以下ではまず、人身損害の中でも積極損害について、説明します。人身損害の積極損害には、以下のようなものがあります。
- 治療費
- 文書料
- 付添費用
- 将来介護費用
- 雑費
- 通院交通費・宿泊費等
- 学生・生徒・幼児等の学習費、保育費、通学付添費など
- 装具・器具などの購入費
- 家屋・自動車改造費
- 葬祭関係費
- 弁護士費用
以下で、順番にその内容を見てみましょう。
治療費
交通事故でけがをしたら、病院に入院や通院をしてけがの治療をしなければなりませんが、そのときにかかる治療費は、損害賠償の項目に含まれます。診療費、入院費用、投薬料、検査費用など、すべて治療費に含まれます。これらは、実際に支払った実費の金額が損害として認定されます。
治療費は、相手の保険会社が直接病院に支払ってくれることもありますが、通院が長引いてくると、途中で支払いを打ち切られることがあります。その場合には、被害者がいったん治療費を立替払いしなければなりません。こうした場合には、支払った治療費の領収証をすべてとっておく必要があります。後で相手と示談交渉をするときに、領収証の金額を合計してまとめて請求することになるためです。
また、実際にかかった費用であっても、全額が認められないケースがあります。以下で、治療費の支払いが問題になるケースをご紹介します。
個室利用料
入院をする場合には、個室や特別室を利用することがあります。そうなると、一般的な大部屋よりもかかる費用が高額になります。この場合、個室と一般の大部屋との差額のことを「差額ベッド代」などと言うこともあります。差額ベッド代については、個室利用の必要性と合理性が認められない限り、否定されます。その場合には、一般の大部屋の料金のみが支払われます。
差額ベッド代の支払いが認められるのは、医師による指示があった場合や、特に個室を利用する必要性がある場合、個室を利用しないと症状が悪化する可能性がある場合などです。
整骨院、鍼灸、マッサージの費用、温泉療養費
交通事故のけがの治療でも、整骨院や接骨院、鍼灸に通院することが可能です。ただ、これらはすべてのケースで治療費が認められるものではなく、損害の内容に含めてもらうには、医師の指示が必要となります。むちうちなどで整骨院に通院する場合には、必ず事前に病院の医師に了解を取っておくべきです。
また、温泉療養や漢方による療法を利用した場合には、治療費として認められないことが多いです。特に医師の指示や承認がない限り、認定してもらうことはできないと考えましょう。
症状固定後の治療費
交通事故後の通院治療は、「症状固定」するまで継続することが基本です。症状固定とは、治療を継続してもそれ以上状態が良くならなくなった状態のことです。症状固定すると、それ以上治療を継続しても改善が見込まれないので、その後の治療の必要性を認めてもらえなくなります。そこで、症状固定後の治療費は、基本的に支払いを認めてもらうことができません。
ただし、症状固定後であっても、状態を維持するためにリハビリなどの治療の継続が必要な場合には、その費用の支払いを認めてもらえることがあります。
文書料
交通事故の積極損害には文書料もあります。文書料とは、病院の医師に診断書や意見書などの文書作成を依頼したときなどにかかる費用のことです。これについては、実費が損害額となるので、支払をしたときには、必ず領収証をとっておきましょう。
付添看護費用
人身事故では、付添看護費用も認められます。付添看護費用とは、職業の看護師や近親者が看護をしたときに認められる損害項目です。付添看護費用には、いくつかの種類があるので、見てみましょう。
症状固定前の入院付添費
交通事故で被害者が入院したときに看護が必要になるために認められる付添費用
症状固定前の通院付添費
通院するために家族が付き添った場合に認められる付添費用
症状固定前の自宅付添費
自宅療養が必要なケースにおいて、被害者の身の回りの世話や看護、介護が必要になる場合の費用
以下では、それぞれについてご説明します。
入院付添費
入院付添費は、基本的に入院していたら認められる損害です。医師の指示があってもなくても入院の日数分認められるのが普通です。入院付添費の金額は、職業付添人と近親者の付添人とで金額が変わります。職業付添人の場合には実費となりますが、近親者が付き添った場合には、1日あたり6,500円となります。なお、自賠責基準や任意保険基準の場合には4,100円となります。
また、任意保険と示談交渉をすると、示談案の中に入院付添費が入っていないことがあるので、示談をする前にしっかりチェックすることが必要です。
通院付添費
通院付添人は、被害者が通院するときに付添人が必要になるケースで認められる損害です。常に認められるものではなく、特に付添が必要なケースでのみ支払われます。たとえば、被害者が歩行できず車いすが必要なケース、幼児であるケース、高次脳機能障害になって一人で行動できないケースなどでは、通院付添費が認められます。
金額については、職業付添人の場合には実費となり、近親者の付添人の場合には1日3,300円となります。自賠責基準や任意保険基準では1日あたり2,050円ですが、保険会社からの示談案には、この通院交通費もやはり含まれていないことが多いので、注意が必要です。
症状固定時までの自宅付添費
交通事故後、被害者が自宅療養する場合、症状固定するまでの間、自宅での付添看護費用が認められるケースがあります。ただ、これについてもどのようなケースでも認められるものではなく、認められるのは被害者が要介護状態になった場合です。金額については、職業付添人の場合には、実費計算となりますが、近親者の場合には、ケースによって必要かつ相当な額とされています。入院付添費より低額になることが多いです。なお、自賠責基準や任意保険基準では、1日あたり2,050円となります。
保険会社から示談を提案されるとき、やはりこの自宅付添費も含まれていないことがあるので、しっかりチェックしましょう。
将来介護費用
交通事故で重大な後遺障害が残った場合には、症状固定した後も介護が必要になります。このようなケースでは、将来介護費用が損害として認められます。この場合の「介護」は、身体的介護に限りません。看視的な付添が必要な場合でも、障害の内容や程度、被害者の年齢や必要とされる看視の内容・程度等によって将来介護費用が認められることがあります。将来介護費用が認められるのは、後遺障害1級や2級で、植物状態になったり重度の高次脳機能障害になったりしたケース、重度の麻痺が残ったケースなどです。
将来介護費用は、原則として「1年にかかる金額×症状固定時の平均余命に対応するライプニッツ係数」によって計算します。1年にかかる金額を計算するとき、職業付添人の場合には実費となります。近親者の場合には、常時介護が必要な場合には1日8,000円となり、随時介護を要する場合には、介護の必要性の程度や内容に応じて相当な額を定めます。
入院雑費
交通事故の治療のため入院が必要になったときには、入院の雑費が損害賠償の対象になります。雑費とは、たとえば寝具や衣類、洗面具、電話代やテレビ賃借料などの費用です。これらについては、実費ではなく1日1,500円の定額計算となります。
重度の後遺障害が残ったため、おむつなどの衛生用品などが症状固定後も継続的に必要になるケースでは、将来の雑費も損害として認定されて支払いを受けられます。
通院交通費・宿泊費等
通院のためにかかった交通費や宿泊費用も損害の内容となります。
宿泊費用
宿泊費については基本的に実費となります。
公共交通機関
交通費については基本的に公共交通機関を利用した場合の金額となります。この場合、通院先と通院日、利用した公共交通機関名と往復の運賃を「通院交通費明細書」に記入して相手の保険会社に提出すると、支払いを受けることができます。通院交通費明細書は保険会社に書式があるので、取り寄せると良いでしょう。
自家用車で通院したケース
自家用車で通院した場合には、ガソリン代が認められます。ガソリン代は、1キロメートルあたり15円として計算します。駐車場代や高速道路の利用があれば、それらについても請求できます。これらは実費計算となるので、病院で駐車場を利用した場合などには、領収証をとっておきましょう。
タクシーを利用したケース
タクシーを利用した場合には、それが通院に必要と認められたらタクシー料金も損害として認められます。タクシーが必要かどうかについては、けがの部位や程度、被害者の年齢、最寄り駅や病院までの距離、代替交通機関があるかどうかなどによって総合的に認定されます。
付添人の交通費
被害者が入院したときには、近親者が付添看護することがありますが、その場合の付添人の交通費や宿泊代についても損害として認められます。
通勤代
けがの治療中、それまでと同様の通勤方法がとれなくなったために異なる経路や方法で通勤することがあります。この場合、通常より交通費が高額になってしまったら、その差額が損害として認められます。
学生・生徒・幼児等の学習費、保育費、通学付添費など
被害者が子どもや幼児、学生などの場合には、学習費や保育費、通学の付添費などが認められる例があります。たとえば、被害者が学生の場合、学校へ通学できなくなったために進級できなくなることがありますが、その場合には補修費用が必要になります。受傷によって通学ができなくなったら、支払い済みの授業料や定期代が無駄になるケースもあります。この場合には、学習費用や交通費が損害となり、相手に支払い請求することができます。
また、子どもや幼児が被害者の場合には、一人で通院することができないので、母親などが付き添う必要がありますし、けがによって一人で通学ができなくなって、通学に付添が必要になるケースがありますが、その場合には通学付添費用も認められます。
さらに、被害者が母親の場合、自分で子どもの保育ができなくなって保育所を利用することがありますが、その場合の保育費用も損害として認められます。
装具・器具などの購入費
交通事故でけがをすると、装具や器具が必要になるケースがあります。たとえば、義足や義手、車いすや補聴器、義眼やコンタクトレンズ、入れ歯などが考えられます。これらについても、損害に含まれるので、相手に費用を請求することができます。金額は実費となるので、費用の支出をしたときには、領収証をとっておくことが必要です。
義手や義足などの装具や器具が必要になる場合、交換の必要性に注意が必要です。これらは時間が経つと劣化するので、定期的に交換が必要になるからです。交換が必要な葬具や器具については、将来分も含めて相手に支払い請求しておくべきです。交換の目安としては、厚生労働省の告示が参考になります「補装具の種目、受託報酬の額等に関する基準」(昭和48年6月16日厚生省告示171)。
http://www.geocities.jp/qimsv_d/note/seido/koukoku-171.html
また、交換を前提として相手に支払い請求する場合、いつまでの分が認められるのかが問題となります。この場合、保険会社は、就労可能年齢である67歳までと主張してくることが多いですが、義手や義足など装具や器具は、労働するためだけではなく日常的にも必要なものなので、就労可能年齢を超えても必要となります。そこで、平均余命までの交換費用を請求すべきです。
家屋・自動車改造費
事故に遭って重大な後遺障害が残ってしまったら、自宅で生活するために自宅や自動車の改造が必要になることがあります。交通事故による被害で、治療をしても後遺症(後遺障害)が残ってしまうことがあります。たとえば、車いすが必要になったら自宅の玄関やトイレ、お風呂場をバリアフリーにする必要がありますし、自動車に一人で乗り降りしたり運転したりするために、自動車の設備を変更・改造する必要があります。
家屋や自動車の改造費用については、必要性が認められる限り、実費が損害として認められます。具体的には、被害者の受傷の内容や後遺症の程度・内容を総合的に検討して、必要性が認められる場合に支払いが行われます。
葬祭関係費
交通事故によって被害者が死亡した場合には、相殺関係の費用も損害として認められます。
具体的には、以下のようなものが賠償の対象となります。
- 死体の運搬費
- 火葬費用
- 葬儀屋の費用
- お布施、戒名、読経料
- 初七日、四十九日などの読経料
葬儀関連費用については、150万円を上限として実際にかかった費用が認められることが多いです。ただ、特に必要性がある場合には、それ以上の金額が認められることもあります。
墓石や墓地の費用については、認められるケースもありますが、すべてが認められるとは限りません。被害者の年齢や家族構成、社会的地位などにより、必要と認定されたら相当な範囲で認められます。当然のことですが、高額なお墓を建立しても、数百万円や数千万円の費用支払いが認められることはありません。また、香典返しは、香典という贈与に対するお返しなので、損害にはなりません。
弁護士費用
交通事故で弁護士に対応を依頼すると、弁護士費用がかかります。これについても、相手に支払い請求できることがあります。ただし、交通事故の弁護士費用は、どのようなケースでも請求できるものではありません。示談や調停などの場合には、基本的に弁護士費用の請求はできません。
これに対し、裁判をして判決によって相手に支払い命令を出してもらう場合には、弁護士費用を請求することができます。この場合の金額は、認容金額の1割となります。つまり、相手から支払いを受けられる損害賠償金の1割が弁護士費用として認定されるということです。
たとえば、相手に対して2,000万円の損害賠償請求をした場合、裁判所が相手に対して1,500万円の損害賠償を認定したとします。この場合には、1割の150万円が弁護士費用として認められるので、相手に対して1,500万円+150万円=1,650万円の支払い命令が出ることになります。交通事故で相手に請求できる弁護士費用は、実際に支払う費用とは異なる金額になるので、注意が必要です。
消極損害
次に、交通事故の消極損害を見てみましょう。消極損害とは、交通事故によって失われた利益のことで、休業損害と逸失利益があります。
休業損害
休業損害とその計算方法
休業損害とは、交通事故によって働けない期間が発生したときに、本来であれば得られたのに得られなくなってしまった収入に対応する損害のことです。けがをして動けなくなったり入通院したりすると、仕事を休まなければなりませんが、そうなると、その日は仕事ができなくなって損害が発生するという考え方です。
休業損害は、1日あたりの基礎収入×休業日数によって計算します。
1日あたりの基礎収入は、基本的には事故前の現実の収入を基準にしますが、現実の収入を立証できない場合には賃金センサスの平均賃金などを利用して計算します。
休業損害が認められる人
休業損害が認められるのは、事故前に実際に働いて収入を得ていた人です。典型的なのがサラリーマンや自営業者、アルバイトの人などです。会社役員や経営者でも休業損害が認められますし、主婦でも休業損害が認められます。
給与所得者
サラリーマンなどの給与所得者の場合には、事故前の現実の収入が基準となります。この場合、事故前3ヶ月間の給料を参照して、平均値を出すことによって1日あたりの基礎収入を計算します。有給を利用した場合にも休業損害は発生します。またボーナスが減った場合には、会社に「賞与減額証明書」という証明書を作成してもらったら損害として認められますし、昇進が遅れた場合にも損害内容になるケースがあります。
事業所得者
自営業者の場合には、確定申告書の申告所得を基本として、1日あたりの基礎収入を計算します。この場合、原則的には事故の前年度の確定申告書の記載内容を参照します。ただし、申告書に記載した以上の収入があったことを合理的に説明出来る場合には、実際の収入を基準にすることもできます。また、赤字申告の場合でも、固定経費分を基礎収入として認めたり平均賃金によって基礎収入を算定したりすることができます。無申告の場合でも賃金センサスの平均賃金を利用して基礎収入を計算できます。
会社役員
会社役員や経営者の場合、会社から支払われている報酬が全額基礎収入として認められるわけではありません。会社役員がもらっている報酬には、労務の対価としての部分(労務対価部分)と利益の配当としての部分(利益配当部分)があると考えられるので、休業損害の基礎となるのは、このうち労務対価部分だけだからです。
労務対価部分と利益配当部分を切り離すためには、会社の規模や被害者の職務内容、会社内での立場などを総合的に考慮して判断します。
家事従事者(主婦・主夫)
専業主婦、兼業主婦や男性が家事をしている場合の専業主夫であっても、休業損害が認められます。これらの家事従事者は、実際に外で働いてお金をもらっているわけではありませんが、家事労働には経済的な価値があると考えられるからです。この場合、基礎収入は、基本的に全年齢の女性の平均賃金を採用します。兼業主婦の場合にも、パート代ではなく平均賃金を採用しますが、現実の収入がそれを超える場合には、現実の収入を基準とします。主夫の場合、男性ではあっても女性の場合と不公平にならないように全年齢の女性の平均賃金を使います。
主婦の休業損害を請求する場合には、休業日数について争いが起こることが多いです。医師により、「〇〇日就労不能」「~まで療養が必要」など、具体的に休業が必要であることを診断書に記載してもらうことなどが必要となります。
無職者、学生
休業損害は、事故によって働けなくなったことによる損害なので、無職の人には認められません。ただ、失業中であっても、就職が内定していて働く意欲と能力があり、実際に職に就く可能性が高かったケースなどでは休業損害が認められることがあります。また、学生でもアルバイトをしていたら、それが基礎収入となって休業損害が認められます。
非正規雇用の労働者
契約社員、パートやアルバイト、短期派遣労働者などの非正規雇用の労働者であっても、現実に収入があるので休業損害が認められます。
後遺障害逸失利益
交通事故の消極損害には、後遺障害逸失利益があります。後遺障害逸失利益とは、後遺障害が残ったことによって、それまでのようには働けなくなったために、将来得られるはずだったのに得られなくなってしまった収入のことです。後遺障害が残ると、その分身体が自由に動かなくなるので、労働能力が低下して将来の収入が減る、という考え方です。
後遺障害逸失利益の計算方法は、以下のとおりです。
後遺障害逸失利益=事故前の基礎収入×労働能力喪失率×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
労働能力喪失率は、後遺障害の等級によって決まっており、具体的には以下の通りとなります。
等級 | 労働能力喪失率 |
---|---|
1級 | 100% |
2級 | 100% |
3級 | 100% |
4級 | 92% |
5級 | 79% |
6級 | 67% |
7級 | 56% |
8級 | 45% |
9級 | 35% |
10級 | 27% |
11級 | 20% |
12級 | 14% |
13級 | 9% |
14級 | 5% |
ライプニッツ係数とは、中間利息を控除するための特殊な係数です。逸失利益を請求すると、将来の分をまとめて支払ってもらうことになりますが、本来であれば分割して受けとるべきものなので、本来受けとるまでに発生する分の利息を差し引かないといけない、問い考え方です。
後遺障害逸失利益が認められる人
次に、後遺障害逸失利益が認められる人について、見てみましょう。これについては、休業損害が認められる人とほとんど同じです。どちらも、「それまで働いていて収入があったのに、事故によって働けなくなった」ことによる損害だからです。主婦や主夫の場合にも後遺障害逸失利益が認められます。
幼児や子どもにも認められる
ただ、休業損害は、幼児や子どもの場合には認められませんが、後遺障害逸失利益はこれらのケースでも認められます。子どもや幼児は、将来大人になって就職して収入を得られた蓋然性が高いと考えられるからです。子どもや幼児の後遺障害逸失利益の基礎収入は、賃金センサスの平均賃金を利用します。男児の場合には全年齢の男性の平均賃金を利用しますが、女児の場合には全年齢の男女の平均賃金を利用することが多いです。これは、全年齢の女性の平均賃金を利用してしまうと、男性のケースとの差額が大きくなってしまい、男児と女児の間で不公平が起こるからです。
また、年金受給者は、死亡逸失利益は認められますが、後遺障害逸失利益は認められません。後遺障害が残っても年金の減額はないからです。
後遺障害逸失利益が高額になる人
休業損害の金額は、事故前の収入が高額であった人や事故時の年齢が若かった人などのケースで高額になりやすいです。後遺障害の認定を受けないと、後遺障害慰謝料だけではなくこの逸失利益の支払いも受けられなくなるので、相手に支払い請求できる金額が大きく減ってしまうので、問題が大きいです。
減収がない場合
交通事故で後遺障害が残っても、実際の減収がないケースがあります。このような場合にも逸失利益が認められるのかがよく問題となります。この点、古い判例では、減収がないと逸失利益を認めない、としていました(最判昭和42年11月10日)。この考え方を差額説と言います。ところが、その後一定の修正が加えられています。具体的には、最判昭和56年12月22日において、「現実の減収がなくても、後遺症が被害者に経済的な不利益を与えていることを認めるだけの特段の事情」がある場合には、後遺障害逸失利益が認められると判断しています。
そして、その特段の事情の判断については、以下の要素が考慮されます。
- 本人が特別の努力によって収入の減収が起こらないようにしているだけであり、それがなければ当然に減収になっているケース
- 職業の性質上、昇給や昇任、転職などの場面で不利益な取り扱いをされるおそれがあるケース
上記のような場合には、実際に減収がなくても後遺障害逸失利益が認められる可能性があります。
後遺障害逸失利益が争いになりやすいケース
実際の減収との関係でよく問題になる後遺障害の種類には、外貌醜状があります。外貌に醜状が残っても仕事とは関係がないので、労働能力の低下も起こらないだろうということです。また歯牙障害や味覚障害、鎖骨変形や脾臓の摘出などの場合にも、労働能力低下が争われることがあります。このようなケースであっても、職種や被害者の性別、年齢などの具体的な状況に応じて逸失利益が認められる可能性がありますし、逸失利益としては認めなくても慰謝料の増額自由となることもあるので、あきらめずに主張をすることが大切です。
死亡逸失利益
交通事故の消極損害には、死亡逸失利益もあります。死亡逸失利益とは、被害者が死亡した場合に認められる逸失利益です。死亡すると、被害者は働けなくなるので、将来の収入が失われるために逸失利益が発生するという考え方です。この場合の計算式は、以下の通りとなります。
死亡逸失利益=事故前の基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応するライプニッツ係数
以下で、この計算式の意味について説明します。
基礎収入、ライプニッツ係数について
事故前の基礎収入については、休業損害や後遺障害逸失利益と同様の考え方になります。ライプニッツ係数についても同様です。死亡逸失利益においても、将来分を先に受けとることになるので、中間利息控除のためにライプニッツ係数をかけ算します。
生活費控除率について
生活費控除率とは、どのようなものなのかを説明します。交通事故で被害者が死亡すると、その後の生活費がかからなくなります。そこで、逸失利益を請求するときには、本来かかるはずだった生活費を差し引かないといけません。そのために「生活費控除率」という割合を算出して、その割合分を減額するのです。生活費控除率は、被害者がどのような人であったかにより、金額が異なります。
裁判基準の場合
裁判基準の場合、被害者が一家の大黒柱であったかどうかによって、扱いが異なります。
被害者が一家の大黒柱であった場合
被扶養者が1人 40パーセント
被扶養者が2人以上 30パーセント
被害者が一家の大黒柱ではなかった場合
女性の場合 30パーセント
男性の場合 50パーセント
自賠責基準の場合
自賠責保険の場合の生活費控除率は、以下の通りです。
被扶養者がいる場合 35パーセント
被扶養者がいない場合 50パーセント
任意保険基準の場合
任意保険会社基準では、だいたい以下の通りとなっています。
被扶養者が3人以上の場合 30パーセント
被扶養者が2人の場合 35パーセント
被扶養者が1人の場合 40パーセント
被扶養者がいない場合 50パーセント
死亡逸失利益を請求できる人
死亡逸失利益を請求できる人は、休業損害や後遺障害逸失利益を請求できる人とほとんど同じです。これらはいずれも、事故前に収入があった人が事故によって収入を得られなくなったことによる損害だからです。主婦や主夫の場合にも死亡逸失利益が認められます。
また、後遺障害逸失利益と同様、幼児や子どもの場合にも、将来働いて収入を得ることができた蓋然性が高いという理由により、死亡逸失利益が認められます。基礎収入についての考え方は後遺障害逸失利益の場合と同様です。
年金受給者にも死亡逸失利益が認められる
さらに、死亡逸失利益は、年金受給者にも認められます。年金受給者で死亡逸失利益が認められるのは、老齢年金と障害年金、退職年金を受けとっているケースです。これに対し、遺族年金や年金恩給の扶助料は、死亡逸失利益の基礎収入として認められません。年金受給者に死亡逸失利益が認められる場合、期間は平均余命までとなり、就労可能年齢までではありません。また、生活費控除率が高くなり、50%以上となることも多いです。
このように、同じ消極損害でも、休業損害と後遺障害逸失利益、死亡慰謝料で、それぞれ基礎収入が認められる人の範囲が少しずつ異なるので、これを機会に押さえておきましょう。
休車補償も消極損害の1つ
なお、物的損害の項目で紹介しましたが、休車損害も消極損害の1種です。これは、車が稼働できないことにより、本来であれば得られたはずなのに得られなくなった利益のことだからです。人身損害の休業損害に似た考え方です。
精神的損害
交通事故の損害賠償の種類には、精神的損害もあります。これは、いわゆる「慰謝料」のことです。交通事故の慰謝料には、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料、死亡慰謝料があります。さらに、近親者の固有の慰謝料が認められることもあるので、以下で順番に確認しましょう。
入通院慰謝料
まずは入通院慰謝料があります。これは、交通事故でけがをしたときに、入通院が必要になったことについての慰謝料です。入通院をした期間に応じて金額が決定されるので、治療期間が長くなればなるほど入通院慰謝料の金額が上がります。また、裁判基準や任意保険基準の場合、通院期間よりも入院期間の方が金額が高くなります。
裁判基準の場合、自覚症状がない軽傷の場合とその他の通常のケガのケースに分けられており、通常のケガのケースの方が入通院慰謝料が高額になります。ただ、軽傷の場合であっても、裁判基準を採用すると、自賠責基準や任意保険基準よりは高額になります。
たとえば、通院3ヶ月の場合、自賠責基準だと378,000円以下になります(実通院日数が少ないと、低額になります)。任意保険基準だと、だいたい378,000円程度です。これに対し、裁判基準だと、軽傷の場合に53万円、通常のケガの場合に73万円になるので、一気に金額が上がることがわかります。
入通院慰謝料をなるべく高額にしたい場合には、治療を最後まで継続することと、弁護士に示談交渉を依頼することが大切です。
後遺障害慰謝料
次に、後遺障害慰謝料を見てみましょう。これは、交通事故で後遺障害が残ったことによる精神的損害に対する慰謝料のことです。後遺障害による精神的苦痛はどのような人にも共通のことなので、事故前に仕事をしていなかった人にも慰謝料は認められます。収入によって後遺障害慰謝料の金額が増減することもありません。そこで、無職無収入の人に後遺障害が残った場合には、逸失利益は請求できないけれども後遺障害慰謝料は請求できることになります。後遺障害慰謝料の金額は、後遺障害の等級によって異なりますが、以下の通りの金額となります。
等級 | 弁護士・裁判基準 | 任意保険基準 | 自賠責基準 | |
---|---|---|---|---|
1級 | 2800万円 | 2600~3000万円(2800) | 1300万円 | 1100万円 |
2級 | 2370万円 | 2200~2600万円(2370) | 1120万円 | 958万円 |
3級 | 1990万円 | 1800~2200万円(1990) | 950万円 | 829万円 |
4級 | 1670万円 | 1500~1800万円(1670) | 800万円 | 712万円 |
5級 | 1400万円 | 1300~1500万円(1400) | 700万円 | 599万円 |
6級 | 1180万円 | 1100~1300万円(1180) | 600万円 | 498万円 |
7級 | 1000万円 | 900~1100万円(1000) | 500万円 | 409万円 |
8級 | 830万円 | 750~870万円(830) | 400万円 | 324万円 |
9級 | 690万円 | 600~700万円(690) | 300万円 | 245万円 |
10級 | 550万円 | 480~570万円(550) | 200万円 | 187万円 |
11級 | 420万円 | 360~430万円(420) | 150万円 | 135万円 |
12級 | 290万円 | 250~300万円(290) | 100万円 | 93万円 |
13級 | 180万円 | 160~190万円(180) | 60万円 | 57万円 |
14級 | 110万円 | 90~120万円(110) | 40万円 | 32万円 |
このように、同じ等級の後遺障害であっても、裁判基準で計算すると、後遺障害慰謝料の金額が2倍~3倍程度に上がります。後遺障害が残った場合には、弁護士に示談交渉を依頼して、高額な裁判基準で後遺障害慰謝料の請求をしてもらうことが重要です。
死亡慰謝料
交通事故の慰謝料には、死亡慰謝料もあります。これは、交通事故で被害者が死亡したことによる慰謝料です。死亡慰謝料の金額は、死亡した人がどのような人であったかにより異なります。具体的な相場は、以下の通りとなります。
裁判基準による死亡慰謝料(相場)
- 一家の大黒柱の場合、2800万円〜3600万円程度
- 母親や配偶者の場合、2000万円〜3200万円
- 独身の男女の場合、2000万円~3000万円程度
- 高齢者の場合、1800万円〜2400万円程度
- 子どもの場合、1800万円〜2600万円程度
このように、幅があるのはケースによって柔軟な認定をしているためです。
任意保険基準による死亡慰謝料(相場)
任意保険基準の場合には、以下の通りです。
- 一家の大黒柱の場合、1700万円程度(1500~2000万円)
- 配偶者の場合、1450万円程度(1300~1600万円)
- 18歳未満で未就労の場合、1400万円(1200~1600万円)
- 高齢者(65歳以上)の場合、1250万円(1100~1400万円程度)
自賠責基準による死亡慰謝料
自賠責基準の場合、本人の慰謝料は一律350万円、被扶養者がいたら、550万円~950万円の加算が認められます。このように、死亡慰謝料についても、やはり裁判基準を利用すると、他の基準よりも相当高額になることがわかります。
近親者の慰謝料
最後に、近親者の慰謝料を見てみましょう。交通事故が起こったとき、本人だけではなく家族が精神的苦痛を被る可能性があります。たとえば、死亡事故などのケースでは、親や配偶者などは大きな苦しみを負うことは想像に難くありません。このような場合、本人の慰謝料とは別に近親者の慰謝料が認められます。
死亡事故の場合の近親者の慰謝料
交通事故で近親者の慰謝料が認められるのは、死亡事故のケースです。この場合、配偶者と親、子どもは多大な精神的苦痛を被るので、民法によって明確に固有の慰謝料が認められています(民法711条)。そこで、被害者の死亡慰謝料とは別に、相手に慰謝料請求することができます。また、これ以外の兄弟姉妹や祖父母、内縁の配偶者などにも固有の慰謝料が認められることがあります。
このように、死亡のケースで近親者の慰謝料が認められる場合、被害者の死亡慰謝料と合計して高額になるということは少なく、全体として相場の金額の範囲内になるように認定されます。
被害者に後遺障害が残った場合の近親者の慰謝料
死亡事故以外の人身事故のケースで近親者固有の慰謝料が認められるのかという問題があります。これについては、基本的には難しいですが、重度な後遺障害が残った場合には、認められる場合があります。具体的には、判例によって、被害者に重篤な後遺障害が残ったことによって、近親者が「被害者の死亡にも比肩しうるような重大な精神的苦痛」を被った場合には、近親者固有の慰謝料が認められると考えられています(最判昭和33年8月5日)。
たとえば、子どもが植物状態になった場合や重度の高次脳機能障害、四肢の麻痺が起こったケースなどで親に固有の慰謝料が認められる例などがあります。
近親者の慰謝料が認められる場合、本人の慰謝料の10%~30%程度が目安となります。後遺障害が残ったケースで近親者に固有の慰謝料が認められる場合、本人の慰謝料と合計した総額が抑えられることはありません。死亡事故の場合には、本人が死亡して本人の死亡慰謝料が相続人に相続されるので、ケースごとに不公平にならないようにする必要があるのに対し、本人が死亡しない事案ではそのようなことを考慮する必要がないからです。
確実に損害賠償をするなら弁護士に依頼しよう!
以上のように、交通事故とはひと言で言っても、ケースによって発生する損害の項目や金額はさまざまです。自分で相手の保険会社と交渉をしていると、相手の保険会社は必要な損害の項目を計算に含めてこないことがあります。また、低額な任意保険基準や自賠責基準で賠償金を計算してくるので、相手から提示される示談金額は、相場より相当低くなっています。
適切にすべての損害の項目を計算して高額な請求をするためには、弁護士に対応を依頼する必要があります。弁護士に示談交渉を依頼したら、ケースごとに必要な損害の項目をもれなく計算し、高額な裁判基準で計算してくれるので、請求できる賠償金額が高額になります。今、交通事故に遭って相手にどのような請求ができるのかわからない人や、相手から提示されている示談金額が適正かがわからない人は、まずは一度、交通事故に強い弁護士に相談することをお勧めします。
- 保険会社の対応に不満がある。
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない。
- 過失割合に納得がいかない。
- 後遺障害の認定を相談したい。
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