死亡事故で損害賠償を請求できる3つの項目~「葬祭費」「逸失利益」「慰謝料」~

この記事のポイント

  • 死亡事故で賠償請求できる損害項目は「葬祭費」「逸失利益」「慰謝料」
  • 「葬祭費」とは、通夜や葬儀当日の費用、祭壇料や火葬料・埋葬料など
  • 「逸失利益」とは、被害者が生きていれば得られるはずだった利益
  • 「慰謝料」とは、事故による精神的・肉体的な苦痛に対する補償金
  • 損害項目の算定基準には「自賠責保険」「任意保険」「裁判」の3種類がある
  • 適正な賠償金を得るためには、保険会社との交渉や裁判を弁護士に依頼

死亡事故の加害者に生じる責任

刑事責任・民事責任・行政責任

交通事故によって被害者が亡くなった場合、加害者には刑事責任・民事責任・行政責任が生じます。刑事責任とは、刑法違反によって罰金や懲役などの刑罰を受けること。行政責任とは、道路交通法違反によって運転免許の取り消しや停止などの処分を受けることです。

そして民事責任とは、民法上の不法行為によって損害賠償金を支払うこと。本稿では民事上の責任である損害賠償について説明していきます。死亡事故では被害者本人は亡くなっているため、損害賠償を請求する権利をもつのは遺族(相続人)。請求できる損害項目は以下の3種類です。

請求できる3つの損害賠償項目

  1. 積極損害/葬祭費
  2. 消極損害/逸失利益
  3. 慰謝料(被害者本人と遺族に対する慰謝料)

それぞれの賠償額にはある程度の相場(基準)と注意点があるので、ひとつずつ詳細を説明していきます。なお、被害者が治療を受けた後に亡くなった場合、上記の項目以外にも入院費や手術費、付添看護費などを請求することができます。

葬祭費の3つの相場

金額を決める基準は3種類

損害賠償金を算出する基準は複数あり、どれを使うかによって金額が異なります。まずは各基準の概要を簡単に紹介しましょう。

① 自賠責保険基準

自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)は法律にもとづく強制加入保険です。国が決めた必要最低限の補償のため、3つの基準のうちでもっとも低い金額になります。

② 任意保険基準

それぞれの任意保険会社が独自に定めた基準です。内容は保険会社ごとに異なりますが、自賠責保険の基準よりも少し高い程度。加害者が任意保険(いわゆる自動車保険)に加入していると、原則としてこの基準による金額が提示されます。

③ 裁判基準(弁護士基準)

過去の判例で認められた金額にもとづき、弁護士が任意保険会社と交渉するときに使用する基準です。いちばん金額が高く、法的に適正な基準です。裁判になれば、この基準をもとにした金額が支払われます。

自賠責基準は60万円、裁判基準は130万円~170万円

損害賠償の範囲となる「葬祭費」は、お通夜や葬儀当日の費用、祭壇料や火葬料・埋葬料などです。香典返しの費用や弔問客への接待費は含まれません。初七日以降の四十九日・百箇日などの法要料、仏壇・仏具購入費や墓碑建立費などは具体的な事情(被害者の年齢、境遇、家族構成など)によって個別に判断されます。

自賠責保険基準による葬祭費は、被害者ひとりあたり60万円(定額)です。明らかに費用が60万円を超えることを資料で証明できる場合、“必要かつ妥当な実費”が100万円を上限に認められます。任意保険基準は保険会社ごとに異なりますが、100万円以内が一般的。裁判基準は130万円~170万円です。

逸失利益の計算法

金額の計算式自体は全基準共通

死亡事故での「逸失利益」とは、被害者が生きていれば得られるはずだった利益のこと。「将来の見込み収入」から「将来の見込み生活費」をさしひいた金額が支払われます。その計算式はすべての基準(自賠責保険・任意保険・裁判)でほとんど同じ。具体的には、以下のように逸失利益が算出されます。

逸失利益=基礎収入×(1-生活費控除率)×就労可能年数に対応する係数

「基礎収入」とは、事故前の実収入、または男女別・年齢別の平均賃金額などです。被害者の立場や職業によって基礎収入の定義が違うため、それぞれの詳細を以下に説明します。

職業や立場別の基礎収入

① 会社員の基礎収入=実収入

サラリーマンやOLなどの会社員(給与所得者)の場合、実際の収入が基礎収入となります。具体的には、源泉徴収前の基本給・歩合給・各種手当・賞与などの合計金額です。

② 会社役員の基礎収入=役員報酬の一部

会社役員の場合、「実際の収入=基礎収入」ではありません。役員報酬には“利益の配当”という側面があるため、「労務を提供したことに対する部分」のみが基礎収入として認められます。具体的には、企業規模や職務内容、他の役員や従業員の報酬などを総合的に考慮して算出されます。

③ 自営業者の基礎収入=申告所得額、または実収入

自営業者(個人事業主)や医師・弁護士などの事業所得者の場合、原則として「前年度の所得税申告所得額」が基礎収入となります。節税対策などによって申告所得額と実収入が異なる場合、実収入を示す資料(帳簿、源泉徴収票、領収書など)を示せば、実態に即した基礎収入が認められます。

④ 主婦の基礎収入=実収入、または女性の平均賃金

専業主婦の場合、賃金センサス(賃金に関する政府の統計調査)にもとづく女性労働者の平均賃金額が基礎収入となります。兼業主婦の場合、「実収入」と「女性労働者の平均賃金額」を比較し、多いほうの金額を基礎収入として採用します。

⑤ 失業者の基礎収入=0円、または失業前の収入など

原則として、失業者は逸失利益を請求できませんが、労働意欲と労働能力があり、就職の可能性が高い場合は請求できます。その際の基礎収入は、失業前の収入や男女別の平均賃金額をもとに決まります。

⑥ 子どもの基礎収入=男女別の平均賃金(全年齢または19歳の平均)

中学生以下の子どもの場合、男女別の全年齢平均賃金額、または19歳の男女別平均賃金額が基礎収入となります。ただし、男女間の平均賃金の格差が大きいため、女子に対しては全労働者の平均賃金額が採用されるケースが増えています。就労可能年数は18歳から67歳までの49年間として計算します。

⑦ 学生の基礎収入=男女別の平均賃金(全年齢または学歴別平均)

高校生以上の学生の場合、男女別の平均賃金額、または高卒・大卒などの学歴別平均賃金額が基礎収入となります。就労可能年数は高校卒業後や大学卒業後などから67歳までです。

⑧ 高齢者の基礎収入=0円、または男女別の平均賃金(+年金収入)

原則として、67歳以上の高齢者は(所得収入に対する)逸失利益を請求できません。しかし、労働意欲と労働能力があり、就職の可能性が高い場合は認められます。その際の基礎収入は男女別の平均賃金額、就労可能年数は平均余命年数の2分の1となります。さらに裁判基準では、年金収入に対する逸失利益が認められます(遺族年金を除く)。

生活費控除率と就労可能年数

将来の収入から生活費をさしひいて逸失利益を計算

被害者が亡くなると、将来の生活費の支出もなくなります。そこで、将来の見込み収入から将来の見込み生活費をさしひいて、逸失利益を計算します。具体的な控除率は以下の通りです。

死亡者の区分 生活費控除率
自賠責保険基準 任意保険基準 裁判基準
一家の支柱 被扶養者1人 35% 40% 40%
被扶養者2人以上 30~35% 30%
男性(学生・単身者など) 50% 50% 50%
女性(学生・単身者・主婦など) 30~40%

「一家の支柱」とは、家計を支える収入を得ていた人

「一家の支柱」とは、その人の収入によって家族(世帯)の生計を維持させている存在です。したがって、亡くなった被害者の配偶者などが同程度の収入を得ていた場合、一家の支柱として認められないことがあります。

また、年金収入については、原則として上記基準よりも生活費控除率が高くなります。その理由は「所得収入よりも生活費として使われる割合が高い」と考えられているからです。

就労可能年数は死亡時から67歳まで

逸失利益を決める最後の要素は「就労可能年数に対応する係数」です。まず就労可能年数とは、原則として死亡時から67歳までの期間。それに対応する係数とは、将来の利息(中間利息)をさしひくための指数です。逸失利益は損害賠償時に全期間分の金額が一括で支払われるため、それを額面通りに受け取ると“もらいすぎ”になってしまうからです。

たとえば、1年後に発生する500万円の利益を現時点で受け取ると、資産運用によって1年後に500万円以上の利益が得られると考えられます。そこで1年分の利息(法定金利5%)をさしひいて、約476万円が支払われるわけです。具体的には「ライプニッツ係数」を使って、適正な金額を算出します。

慰謝料の3つの相場

被害者本人と遺族に対する慰謝料が発生

「慰謝料」とは、交通事故による精神的・肉体的苦痛に対する補償金です。死亡事故の場合、亡くなった被害者本人だけでなく、遺族(近親者)に対する慰謝料が発生します。近親者固有の慰謝料を請求できるのは「父母(養父母を含む)」「配偶者」「子(養子、認知した子、胎児を含む)」です。

1)自賠責保険基準/900万円~1,300万円

自賠責保険では、被害者本人の慰謝料として350万円が支払われます。その他に遺族(父母・配偶者・子)に対する慰謝料として、請求権者が1名なら550万円、2名なら650万円、3名以上なら750万円が支払われます。また、亡くなった被害者の扶養を遺族が受けていた場合、さらに200万円が加算されます。

自賠責保険の支払いは最大3,000万円

自賠責保険から支払われる損害賠償金には上限があり、死亡事故では最大3,000万円と定められています。これは葬祭費や逸失利益など他の賠償項目も含めた総額。したがって、損害賠償金が3,000万円を超える場合は(加害者が加入している)任意保険から支払いを求めることになります。

2)任意保険基準/約1,100万円~1,500万円

事故の加害者が任意の自動車保険に加入していた場合、任意保険会社から自賠責保険を補う慰謝料が支払われます。任意保険基準は保険会社ごとに異なり、具体的な内容は公開されていません。おおよその目安を把握するため、ここでは1993年までの統一的な任意保険基準を記します。

【以前の任意保険基準】死亡慰謝料の目安

  • A)一家の支柱/1,450万円
  • B)18歳未満(有職者を除く)/1,200万円
  • C)65歳以上(かつ一家の支柱でない)/1,100万円
  • D)その他/1,300万円

あくまで上記の基準は目安です。実際は被害者の年齢・性別・収入・社会的地位、家庭生活におよぼす影響などが考慮されるケースがあります。

3)裁判基準/約2,000万円~2,800万円

「裁判基準」は裁判所が発表しているわけではなく、過去の判例にもとづいて弁護士会が作成した基準です。具体的には公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部が発行する『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』(通称:赤い本)に記されています。

  • A)一家の支柱/2,800万円
  • B)母親、配偶者/2,500万円
  • C)その他/2,000~2,500万円

3,000万円以上の慰謝料が認められた判例も

上記の基準は目安であり、実際には3,000万円以上の死亡慰謝料が認められた判例もあります。被害者の年齢・性別・収入・社会的地位、家庭生活におよぼす影響などを考慮して、適正な金額の慰謝料を請求しましょう。

適正な損害賠償金を得る方法

弁護士に保険会社との交渉、または裁判を依頼する

ここまで説明してきたように、慰謝料をはじめとする損害賠償金には3つの基準があります。そして、加害者側の保険会社は任意保険基準(または自賠責保険基準)による低い示談金を提示してきます。したがって、適正な賠償金を得るために保険会社との交渉や裁判を弁護士に依頼することをおすすめします。

保険会社も「訴訟を起こされたら、裁判基準で支払わなければならない」ということは理解しています。そのため、弁護士が訴訟も辞さない姿勢で交渉すると、示談交渉でも裁判基準に近い水準の損害賠償金が提示されるのです(遺族だけで交渉しても、裁判基準による金額は提示してくれません)。

死亡事故は訴訟したほうがいい理由

弁護士の示談交渉を通じて示される金額は、裁判基準の9割程度です。死亡事故では1割の違いが数百万円の差になるので、原則として訴訟を起こしたほうがいいでしょう(慰謝料以外に争点がある場合は訴訟すべきとは限りません)。

任意保険会社から裁判基準にそった損害賠償金(保険金)が支払われる時期は、示談交渉や裁判などにかかる期間によって変わります。示談交渉に必要な期間の目安は約1~3ヵ月、裁判は6ヵ月以上。そして、示談や裁判の判決・和解などが成立した後に賠償金が一括で支払われます。

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