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交通事故を起こしたら…加害者が取るべき対応・注意すべきポイント
この記事のポイント
- 交通事故加害者になったら、車を停車すること、けが人を救護すること、危険防止措置をとること、警察に報告することが重要。
- その場から逃げること、その場で示談すること、念書を入れること、お金を渡すことは、してはいけない。
- 交通事故の加害者には、行政上の責任、刑事上の責任、民事上の責任、社会的な責任がある。
- 自動車保険には必ず加入しておく。対人対物賠償責任保険の限度額は無制限にしておく。
- 刑事事件になる場合もあるので注意する。
- 加害者になった場合には、早めに弁護士に相談をして、対応を依頼することが良い結果につながりやすい。
目次
交通事故では初期対応が重要!
交通事故を起こしてしまったら、気が動転してどう対応して良いかがわからなくなることが多いです。とくに、加害者になってしまった場合、なかったことにしたい、という気持ちも働いてしまいがちです。しかし、一度起こしてしまった事故をなかったことにすることはできません。加害者として適切な対応をとらないと、最悪の場合、交通刑務所に行かないといけなくなってしまうおそれもあります。そこで、以下では交通事故加害者がとるべき正しい対応方法について、説明します。
交通事故現場での対応
まずは、交通事故現場での対応方法を見てみましょう。
交通事故を起こした場合の道路交通法上の義務
交通事故を起こしたときの対応を理解するためには、交通事故当事者の道路交通法上の義務を知っておくことが必要です。道路交通法では、交通事故当事者(自動車の運転者)に対し、以下の義務を定めています。
- 直ちに車両等の運転を停止する
- 負傷者を救護する
- 道路の危険を防止する等必要な措置を講じる
- 警察に通報する
これらの義務に違反すると罰則もありますし、免許の点数も加算されるので、交通事故を起こしたら、最低限この4つの義務を確実に行う必要があります。
自動車を停めて車を降りる
交通事故を起こしてしまったら、すぐに自動車を停めて、車を下りることが重要です。事故を起こすと、信じたくないという思いや、なかったことにしたいという気持ちが働いたり、免許の点数のことが気になったりして事故現場から走り去ってしまう人がいます。しかし、事故を起こしたのに現場から立ち去ると、ひき逃げ、当て逃げとなって、免許の点数も大きく加点されますし、刑事責任も非常に重くなってしまいます。そこで、事故を起こしたら、必ず停車して対応をすることが重要です。すぐに止まれない場所であれば、近くの路肩などに寄って車を停めましょう。
けが人を救護する
交通事故を起こしたとき、被害者が怪我をしていることがあります。この場合、加害者は必ず被害者を救護しなければなりません。このことを、救護義務と言いますが、救護義務違反になると、罰則も適用されるので注意が必要です。怪我をしている人がいたら、とりあえずできる範囲で応急措置をしましょう。被害者が危険な場所に倒れていたら、道路脇に移動させることも必要です。一人で動かすと危険な場合には、周囲の人に声をかけて手伝ってもらいましょう。
教習所で教わる1次救命措置を適切に講じたおかげで被害者が助かったり症状が軽くなったりすることも多いので、やり方を忘れた人は、再確認しておきましょう。素人がひとりでできることには限界があるので、周囲に看護や医療の関係者がいないかどうか、確認して、もしいたら救護を手伝ってもらいましょう。
道路上の危険を防止する
交通事故を起こしたら、事故現場で混乱が起こって2次被害が起こることがあります。そこで、交通事故を起こしたら、道路上の危険を防止する措置をする義務があります。このことを、危険防止義務と言います。危険防止義務を怠った場合にも、やはり罰則があります。
具体的な危険防止措置の方法としては、たとえば後続の車両を誘導したり、事故現場に歩行者に注意を促したりすることが考えられます。夜間の事故の場合などには、発煙筒や▽表示板を道路上に置いて、後続車にわかりやすくすることも必要です。なお、警察が来るまでは、現場の状況を変えない方が良いので、勝手に片付けたりすることには問題があります。なるべくそのままにしておいて、周囲の人に注意を促す方法で危険を避けましょう。
警察に報告する
交通事故を起こしたら、必ず警察に報告することが必要です。加害者になってしまった場合、警察に通報すると免許の点数が加算されたり罰則を適用されたりするおそれがあるので、報告をしない人がいますが、このようなことをすると道路交通法違反となり、罰則も適用されます。そこで、救護を終えたらすぐに警察に連絡を入れなければなりません。近くに警察官がいたら来てもらうと良いですし、いない場合には最寄りの派出所などに電話で連絡をしましょう。
警察には、以下の内容を伝える必要があります。
- 交通事故の発生日時と場所
- 死傷者の人数と負傷者のけがの程度
- 損壊したものと損壊の程度
- 事故に関連する車両の積載物と、それまでにとった措置の内容
警察が来たら、現場で実況見分が行われますので、協力してすすめましょう。
被害者と連絡先を交換する
加害者になった場合であっても、事故の相手との連絡先の交換は重要です。これから示談交渉などをすすめていくのに相手の基本的な情報が必要なのは当然ですし、相手の連絡先を保険会社に伝える必要もあります。被害者に意識がなかったり重傷で話ができなかったりする場合にはその限りではありませんが、普通に意識があって一緒に実況見分をしているような状態なら、折を見てお互いの情報を交換しましょう。氏名や住所、連絡先や加入している自動車保険会社については、最低限聞いておくと良いでしょう。
現場写真を撮る
交通事故現場では、現場の状況を保存するために現場写真を撮影しておくことも重要です。加害者になった場合には、被害者との間で示談交渉をする必要がありますが、このとき、事故状況によってそれぞれの過失割合が決定されます。加害者の過失割合が低ければ、支払う賠償金の金額が減るので、加害者にとって有利になります。そこで、加害者と被害者との間で過失割合について争いになることが多いですが、そのとき、事故現場がどのようなものであったかが争点になります。そこで、現場写真を撮影していたら、正確な事故の状況を立証することができて、有利に認定してもらえる可能性があります。
また、加害者になった場合には、刑事裁判に対する対応も考えておく必要があります。重大な事故の場合には、起訴されて裁判にされることもありますが、このとき、事故の状況によって、有罪無罪や適用される刑罰が変わってくることもあります。適切に事故状況を証明することによって、刑が軽くなることも少なくはないので、加害者にとっても現場状況の保存は非常に重要です。
警察が来るまでの間に余裕がある場合や、警察が来た後の時間などに、スマホのカメラなどを使って自分の車や相手の車、現場全体の様子などを撮影しておきましょう。
保険会社に連絡する
警察による実況見分が終わったら、事故現場からは解放されるので、帰ってもかまいません。現場から解放されたら、速やかに自分の自動車保険に連絡をしましょう。このとき、事故現場や事故の発生日時、どんな事故であったかや、相手の氏名、住所などの情報、相手の加入している自動車保険会社名を伝えましょう。すると、保険会社の担当者が決まって、後は保険会社が示談交渉などに必要な基本的な手続きを進めてくれます。
通院する
交通事故に遭うと、加害者であっても怪我をすることがあります。たとえば、歩行者をはねた事案などでは自分が怪我をしていることは少ないですが、自動車同士の事故の場合には加害者であっても怪我をしていることがあるので、注意が必要です。こうした場合、被害者側に過失があれば、その分は相手に賠償請求できる可能性もあります。また、事故現場では怪我をしているという自覚がなくても、その後痛みが起こってくるケースなどもあります。
そこで、事故に遭ったときに少しでも身体に衝撃を感じたのであれば、念のために病院に行っておくべきです。病院で診察と検査を受けておけば、後から症状が具体化してきたときに、示談交渉を有利に進めることができます。
事故現場でしてはいけないこと
交通事故を起こしたとき、加害者がしてしまいがちな行動があります。そのようなものの中には、絶対にしてはいけないことがいくつかあるので、以下で順番に紹介します。
現場から逃げる
事故を起こしたら、なかったことにしたいとか、信じたくない、という気持ちになって、現場から逃げてしまう人がいます。自分は大丈夫だと思っていても、その場になると逃げたくなってしまうので、注意が必要です。
ひき逃げ、当て逃げの罰則と点数
現場から逃げると、相手が怪我をしたり死亡していたりすると、ひき逃げになります。ひき逃げの場合には、10年以下の懲役または100万円以下の罰金の刑罰が科されるおそれがあります(道路交通法117条の2第2項、72条1項)。当て逃げの場合でも、罰則があります。この場合、1年以下の懲役または10万円以下の罰金刑となるおそれがあります(道路交通法117条の5第1項、72条1項)。
ひき逃げの場合には、免許の点数も大きく加算されます。基本的に救護義務違反で35点が加算されるので、1回で免許取消になりますし、欠格期間が3年となります。ひき逃げで相手が死亡すると55点が加算されて欠格期間が7年となりますし、ひき逃げで相手が怪我をした事故では、48点が加算されて欠格期間が5年となります。飲酒状態でひき逃げをすると、さらに大きく点数が加算されますし、重い刑事罰が適用される可能性も高くなります。
警察への報告義務違反だけでも罰則がある
事故を起こして警察に報告しなかった場合には、報告義務違反となって、3月以下の懲役または5万円以下の罰金刑が適用されます(道交法第119条第1項第10号)。
このように、事故現場にとどまらずに逃げると、道路交通法による各種規定によって刑罰が適用される上に免許の点数も大変高くなってしまうので、交通事故を起こしたら、絶対に逃げてはいけないのです。
飲酒した状態で逃げるとどうなるの?
飲酒した状態で警察に捕まると罪が重くなるので、いったん事故現場を離れて酒が抜けてから戻ってこようなどと考える人がいますが、そのようなことをすると、ひき逃げとみなされてかえって責任が重くなってしまいます。免許の点数も61点~90点などの高い点数が加算されて、欠格期間も8年~10年などになってしまいますし、刑事責任においても、危険運転致死傷罪などが適用されて、長期の懲役刑になる可能性が上がります。そこで、飲酒運転をしている場合に事故を起こしても、絶対に事故現場を離れないようにしましょう。
自動車を運転するときには絶対に飲酒しないことが当たり前ですが、もし飲んでいる状態で事故を起こしてしまったら、覚悟を決めて警察に通報することが必要です。
その場で示談する
交通事故を起こしたとき、その場で示談してしまおうとする人がいます。このことによって警察に通報せずに済むので、免許の点数が上がりませんし、刑罰も適用されないなどと考えるのです。
しかし、その場での示談は絶対にしてはいけません。そもそも、交通事故が起こったばかりの状況では、どのくらいの損害が発生しているのかが明らかになっていません。その場で示談をしたつもりでも、後に被害者から「別途後遺障害が発生した」とか「予測していなかった損害が発生した」などと言われて、改めて賠償金を請求されてしまうおそれがありますし、後から被害者が警察に届け出たら、結局事故が明るみに出てしまいます。そうなったら、結局加害者の報告義務違反となるだけで、良いことなど1つもありません。その場で示談をしても、起こってしまった事故の解決にはつながらないのです。
事故を起こしてしまった以上、免許の点数が加算されたり必要に応じて罰則を受けたりすることは、やむを得ないと考えるべきです。
念書を書く
その場で示談をすることと似ていますが、事故現場で念書を書いてしまうケースがあります。たとえば、「〇〇円払います」と書いて署名押印をする、などのパターンです。
このようなことをしても、交通事故問題の解決にはなりません。たとえば、その場では念書を入れるから警察を呼ばずに内々で交通事故問題を解決しよう、と言っていても、その後被害者の気持ちが変わって警察に届け出る可能性はあります。そうなると、単なる報告義務違反の事案となり、加害者の立場はより悪くなります。また、念書を入れていても、それでは足りないなどと言われてより高額な賠償金の請求をされることもあります。さらに、念書があることを良いことに、被害者が加害者に対して無理な要求をしてきたり脅してきたりする可能性もあります。
交通事故現場では、相手がどのような人かがわからないので、後でどのように使われるかわからないような書類は作成すべきではありません。その場で作成するのは、連絡先交換のメモ程度にしましょう。
お金を払う
交通事故現場では、被害者にお金を支払ってはいけません。たとえば、示談金などとしてお金を支払っても、結局被害者がその金額で納得しなければ、後に保険会社を通じて賠償金支払いの請求をされるので、まったく意味の無いことです。また、自動車保険に加入しているのは、加害者になったときに被害者に対して賠償金を支払ってもらうためなのであり、自分で支払をしてしまっては自動車保険に加入している意味がありません。さらに、先にいくらか被害者にお金を支払ってしまったら、後で示談するときにその金額をどのように取り扱うべきかが問題となります。つまり、示談金から差し引くかどうかなどの問題です。事故現場でお金を支払ったときに証拠を残しておかなかったら、払い損になるおそれもあるのです。
このように、交通事故現場でお金を支払うと、後々面倒なことが起こってくるので、支払いはしてはいけません。相手が気の毒だと思っても、お金の問題ややり取りは全て保険会社に任せることが重要です。
交通事故加害者の責任は?
交通事故加害者には、どのような責任があるのかを確認しておきましょう。
これには、行政上の責任、刑事上の責任、民事上の責任、社会的な責任があります。
行政上の責任
行政上の責任とは、免許にかかわる責任のことです。交通事故を起こすと免許の点数が加点されます。これによって、免許が停止されたり取り消されたりすることがありますし、高い点数が加算されると、免許の欠格期間も発生します。
刑事上の責任
刑事上の責任とは、検察官に起訴されて裁判になり、有罪と認定されてしまい、裁判所によって懲役刑や罰金刑が適用されることです。相手が死亡したり飲酒運転などをしたりしていると、非常に重い刑罰が適用されます。
民事上の責任
民事上の責任とは、被害者に対して損害賠償をしなければならない義務のことです。物損事故なら相手の車や自動車の修理費用など、人身事故なら相手の治療費や休業損害、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、逸失利益、死亡慰謝料などを支払わないといけません。
社会的な責任
最後に、社会的な責任があります。これは、社会内で責められるべき立場のことです。たとえば、「あの人は交通事故を起こした」と噂されたり、会社で居心地が悪くなったり、近所であれこれと言われたり、ネット上に事件が掲載されたりするというような事実上の不利益を被ることがあります。
このように、交通事故加害者になると、いろいろな種類の責任を負うことになるので、それぞれについて、適切に対処していく必要があります。
被害者の御見舞に行くべきか?
交通事故の加害者になった場合、被害者の御見舞にいくべきか、行くとしたらいつ行くべきかという問題があります。この問題は、道義的な責任にかかわることですが、御見舞への対処方法によって、後の示談交渉や刑事手続きにかかわってくることがあるので、適切な対処方法を抑えておく必要があります。以下で、具体的な方法を確認しましょう。
御見舞は法的義務ではない
交通事故で相手を怪我させたり死亡させたりすると、御見舞に行こうかどうか迷うことが多いです。ここでまず押さえておかないといけないのは、「御見舞は義務ではない」ということです。交通事故を起こしたら、免許の点数が加算される行政上の責任、裁判所によって刑罰を適用される刑事上の責任、相手に賠償金を支払わないといけないという民事上の責任があり、これらの責任は「義務」です。義務なので、必ず履行しないといけません。
これに対し、御見舞は義務ではありません。
ただし、交通事故で相手を傷つけてしまった以上は、社会的に責められてもやむを得ないので、少しでも責任を果たすべく、御見舞に行く必要があるのです。
できれば早めに行く
御見舞に行くべきかどうかと聞かれたら、「行くべき」です。義務ではないとは言っても、御見舞に来るのと来ないのとでは相手の心証が違います。事故が起こったのに一度も見舞いにこない加害者の態度だと、被害者が腹を立てて示談に応じてくれなくなることもあります。また、刑事責任についても、「厳罰を与えて下さい」などと言い出して、加害者の責任が重くなってしまうこともあります。
また、同じ御見舞に行くなら、早めに行くことが大切です。事故後数ヶ月も経ってから御見舞に行っても「何をしに来たのか」と言われてしまうでしょう。重大な交通事故を起こすと、引き続き警察に逮捕勾留されてしまうことがありますが、その場合には、身柄が解放されたらすぐに御見舞に行くようにしましょう。
また、御見舞に行ったとき、被害者としては「帰れ!」と言ったり、「来てほしくなかった」などと言ってきたりすることもあります。そのように言われると、加害者としては、それなら来なければ良かった、と思うかもしれません。しかし、それでもやはり御見舞には行っておいた方が良いです。御見舞に行かずに「非常識な加害者」扱いされるより、御見舞に行って嫌がられる方が、よほど立場が有利になりますし、道義的な責任も果たせたことになります。
御見舞や葬儀に行くときの注意点
お金を持っていかない
それでは、被害者の御見舞や葬儀に行くときには、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか?まずは、お金を持っていかないことです。現金ではなく、お菓子の詰め合わせなどの品を持っていくようにしましょう。お金の問題は保険会社に任せるべきだからです。
無理な要求には応えようとしない
また、被害者からの無理な要求には応じないことも必要です。たとえば、被害者が「毎日謝りに来い」とか「今すぐに謝りに来い」「こっちが被害者なのがわかってるのか」「殺人者」などと言って無理な要求をしてくることもありますが、加害者だからといって何度も言うなりにしないといけないことはありませんし、被害者だからといって何を言っても良い、ということにはなりません。謝罪は必要ですが、一般常識内の対応ができれば十分です。被害者は、冷静さを失っていることも多いので、すべてを被害者に合わせる必要はありません。
葬儀に行くときの注意点
また、被害者の葬儀に行くときにも注意が必要です。葬儀に参列するときには、1人で行かずに家族や友人、会社の上司などと一緒に行きましょう。香典の金額としては、近親者が出す金額の3~5割くらい多い金額が目安となります。会社が事故の加害者として香典を送るときには、個人の場合の3~5倍くらいが目安です。また、加害者の名入りのお供え物やお花は避けましょう。名前が明らかになるので、被害者に対して刺激してしまいます。お香典を断られた場合には、いったんは手元に戻したとしても、被害者の親戚などを通じて必ず置いて帰ってくることが大切です。持ち帰ると非常識とみなされるので、注意しましょう。
言ってはいけない言葉
さらに、被害者に対して謝罪するとき「どんなことでもいたします。」などと言うと、後に無理なことを言われてトラブルになるので、言ってはいけません。
このように、加害者になった場合には、謝罪や御見舞は必要ですが、対処方法にはかなりの注意を要するので、慎重に対応しましょう。
必ず保険に加入しておく
交通事故の加害者になった場合、自動車保険に助けてもらえる部分が非常に大きいです。そこで、自動車を運転するときには、交通事故にそなえて、必ず自動車保険に加入しておく必要があります。以下で、加害者と自動車保険の関係について、解説します。
保険に加入していないとどうなるのか?
自賠責保険を超える損害額が自己負担になる
加害者が自動車保険に加入していないと、どのような問題があるのでしょうか?この場合、自賠責保険を超える賠償金が発生したときには、その金額を全額加害者本人が負担しなければなりません。たとえば、相手に重大な後遺障害残った事故や死亡した事故などでは、1億円を超える賠償金が発生することもありますが、自賠責で補償される金額は多くても4000万円程度なので、それを超える部分はすべて加害者の自己負担となります。むちうちなどのケースでも、自賠責の限度額は120万円なので、それを超える部分はすべて加害者の自己負担となります。
自己破産するしかなくなることも!
加害者が自動車保険に加入していないと、小さな事故でも数百万円、大きな事故になると数千万円や1億円以上の負担額が発生するのです。このような支払いができないと、被害者から裁判を起こされたり、預貯金や不動産、給料などを差し押さえられたりする可能性もあります。最終的に支払いを免れるためには、自己破産をするしかなくなってしまいます。
自賠責に加入していない危険性
自賠責に加入していないと、状況はさらに悲惨です。最低限の自賠責保険からの支払いも受けられないので、本当に「すべて」の賠償金を加害者が自己負担しなければならないためです。さらに、自賠責は強制加入の保険です。強制加入とは、必ず加入しておかないといけない保険ということです。自動車を所有しているのに自賠責に加入しないと、1年以下の懲役または50万円以下の罰金刑が科されますし、免許の点数は6点が加算されて、それだけで免許停止処分となります。
自賠責保険に加入しておらず、自分が支払をしないと、国が被害者に対して自賠責の限度額において支払いをする制度がありますが、この政府保障事業によって被害者に支払われた金額については、後に国から加害者に対して求償されます。つまり加害者が自賠責保険に加入していない場合には、被害者だけではなく国からも支払い請求をされてしまうということです。
以上のように、交通事故の加害者になったときに自動車保険に加入していないと、非常に重大な事態に陥ってしまうので、必ず自動車保険に加入しておく必要があるのです。
自賠責はもちろんのこと、任意保険にも万全の体制で加入しておきましょう。
加害者が加入しておくべき保険
自動車保険に加入するときには、いろいろな種類の保険があります。たいていがセットになっていて、加入者は限度額を決めるだけ、ということが多いですが、加害者にとって重要な保険を確認しておきましょう。
対人責任賠償保険、対物責任賠償保険は必須!
とにかく大切なのが、対人賠償責任保険と対物賠償責任保険です。対人賠償責任保険は、被害者の人身損害に対する賠償金を保険会社から支払ってもらえる保険です。対物賠償責任保険は、被害者の物的損害に対する賠償金を保険会社から支払ってもらえる保険です。これらに加入しておくと、被害者が死亡しても後遺障害が残っても、それらについての損害をすべて自動車保険が支払ってくれるので、安心です。
限度額は無制限にしておこう
ここで、保険には限度額があることに注意が必要です。限度額とは、自動車保険が支払ってくれる限度額のことであり、事故が起こった場合、限度額を超える損害が発生したら、その分は保険会社が支払ってくれなくなります。そこで、対人賠償責任保険や対物賠償責任保険の限度額は無制限にしておくことをおすすめします。無制限にしておけば、被害者にどれだけ多くの損害が発生しても、全額を自動車保険が支払ってくれるので安心です。
自損事故保険、車両保険
加害者になったとき、自分の車に損害が発生することがあります。このような場合には、自損事故保険や車両保険に加入しておくと、自分の自動車保険から補償を受けられるので、安心です。自損事故保険では、自分の過失で事故を起こしたときの加害者の怪我や物損について補償を受けられますし、車両保険は、自損事故や車両の盗難などの際に車両代金についての補償を受けることができます。
超過修理費特約とは?
加害者がつけておくと役立つ特約に、超過修理費特約があります。これは、相手の自動車の修理費用が高額になる場合に、超過分まで補償してもらえる特約のことです。交通事故での物損の賠償金は、基本的には自動車の時価評価となるので、それ以上の損害が発生したときには、通常の対物賠償責任賠償保険から支払いが受けられなくなります。たとえば、相手の車の年式が古く、時価が0円に近い場合に、修理費用が高額になった場合などには、超過部分が加害者の自己負担となります。
ここで、超過修理費特約をつけておくと、これらの修理費用についても保険会社が負担してくれるので安心です。
ドライブレコーダーを設置しておく
交通事故の加害者になった場合であっても、事故状況が問題になることはあります。被害者との言い分が食い違うので示談交渉が難航することもありますし、刑事裁判で自分の言い分が通らないこともあります。そこで、事故状況を適切に証明するためには、ドライブレコーダーが役に立ちます。ドライブレコーダーに信号の色が映っていたために、裁判で主張が認められるケースなどもあります。ドライブレコーダーは、被害者にとっても加害者にとっても有用な交通事故の証拠となります。そこで、自動車を運転する際には、車両にドライブレコーダーを設置しておくようにしましょう。
ドライブレコーダーにはいろいろな種類があり、性能にもよりますが、自動車グッズのショップなどで1万円~数万円程度で購入することができます。衝撃を感じたときにのみ録画をする衝撃感知型のタイプなら、とても安く購入できますし、交通事故状況の証明としては十分なので、一台購入してつけておくと良いでしょう。
交通事故の加害者が刑事事件になる場合
交通事故の加害者になったときには、刑事事件のことを知っておくことが大切です。以下でその内容を説明します。
刑事事件とは?
刑事手続き(刑事事件)とは、犯罪事実を認定し、量刑を適用する手続きのことです。交通事故の場合には、道路交通法や自動車運転処罰法による刑罰を科されることを意味します。たとえば、ひき逃げをすると道路交通法違反になって懲役刑や罰金刑が科されますし、運転に過失があったら、過失運転致死傷罪によって、やはり懲役刑や罰金刑が科されます。危険な方法で運転をしていたら、危険運転致死傷罪が適用されて、さらに重い懲役刑などが科されることになります。
交通事故を起こしても、必ずしも刑事事件になるとは限りませんが、被害者が死亡したり重大な後遺障害が残ったりした事案や、交通事故の態様が悪質、危険な事案などでは刑事事件になりやすいです。なお、警察が来たときに作成される実況見分調書は、交通事故が刑事事件になった場合に備えて作成されるものです。
どんな罪になるの?
それでは、交通事故を起こすと、どのような罪が適用されるのでしょうか?
物損事故の場合
まず、物損事故の場合には、基本的に刑事責任を負うことはありません。過失の器物損壊は犯罪にならないからです。
通常の人身事故の場合
人身事故の場合には、運転や事故の態様によって、適用される罪が異なります。通常の自動車運転の過失によって人を死傷させた場合には、7年以下の懲役または禁固刑、または100万円以下の罰金刑となります。
危険運転による人身事故の場合
飲酒や薬物による影響で正常な運転ができなくなっていたような状況や、特に危険な運転によって事故を発生させた場合には、危険運転致死傷罪が適用されます。この場合の刑罰は非常に重く、傷害の場合には15年以下の有期懲役となり、被害者が死亡した場合には1年以上の有期懲役(原則として20年以下)となります。危険運転致死傷罪は、故意による殺人とも同視出来る程度の重い罪だと考えられているので、罰金や禁固はなく、必ず懲役刑になり、刑期も長くなります。
このように、交通事故加害者になると、民事的な賠償責任とは別に重い刑事責任が発生することがあるので、運転の際にはくれぐれも事故を起こさないよう注意が必要です。
逮捕勾留されるのか?
交通事故を起こしたら、必ず逮捕勾留されるのかが心配だという人がいますが、実際にはそのようなことはありません。交通事故が軽微な場合には、そもそも事件にならないこともありますし、加害者が逃亡するおそれなどがない場合には、逮捕も勾留もされずに在宅で手続きが進むことも多いです。
ただ、在宅で刑事手続きが進んでいるときには、加害者としては交通事故事件がどうなったのか、気にしていないことがあります。こうしたとき、突然検察官から呼出が来て調書を取られたり、突然起訴されたりすることもあるので、注意が必要です。在宅で刑事手続きが進められる場合、交通事故から3ヶ月以上が経過してから裁判になってしまうことなどもあります。
また、被害者が死亡した事故などの場合には、事故後すぐに警察に逮捕されてしまうこともあります。その場合、引き続き勾留されることが多く、身柄拘束期間が10日から20日間継続します。この場合には、勾留期間が切れるとともに検察官が起訴するかどうかを決めます。起訴されたら裁判になりますし、起訴されなければ裁判にはならず、前科はつきません。起訴後は保釈ができるようになるので、弁護士に依頼して保釈してもらったら、裁判中も社会内で生活をすることができます。
必ず裁判になるのか?
警察に逮捕勾留されて取り調べが行われた場合や、在宅で捜査が行われた場合、必ず裁判になるのかどうかも問題です。
交通事故事件には限りませんが、捜査が行われたからと言って、必ずしも裁判になるわけではありません。裁判にするかどうかについては、最終的に検察官が判断します。重大な事故では無い場合や、加害者が十分反省しており責任も軽い場合、被害者が宥恕している(許している)場合などには、裁判にならないことも多いです。特に、軽微な交通事故事件では裁判にならないケースが非常に多いので、加害者になってしまったとしても、必ず裁判になると思って構える必要はありません。
ただ、後日裁判にならないためにも、交通事故直後から適切に対処をすることが重要です。たとえば事故を起こしたら適切に救護義務を果たして危険防止措置をとり、警察を呼び、被害者の御見舞に行って謝ることなどが大切です。これらのできるだけの対処をしていたら、同じ事案でも起訴される可能性がかなり下がってきます。
略式手続きとは?
略式手続きとは
交通事故の刑事手続きには、略式手続きがあります。これは、刑事裁判の1種ですが、実際には裁判をせずに書類上だけで審理をする方法です。通常裁判になると、検察官が裁判所に対して起訴状を送付し、裁判所の法廷で審理が行われて被告人に対する判決が下されます。期日は何度も開かれますし、そのたびに加害者は被告人となって裁判所に出頭しなければならず、被告人質問も行われます。そして、判決は、裁判官から直接告げられることになります。
これに対し、略式手続きでは、裁判所での手続きが一切行われません。書類上だけで裁判官が罰金刑を適用します。加害者は裁判所に出頭する必要はなく、後日裁判所から罰金の納付書が送られてくるので、それを支払ったら手続きが終了します。
略式手続きを利用出来るケース
略式手続きを利用できるのは、罰金100万円以下の事件の場合のみです。そこで、危険運転致死傷罪の場合には、略式手続きは利用できず、必ず通常の刑事裁判となります。また、略式手続きが選択されるときには、検察官調べの際に、加害者に対し、「略式でいいですか?」などと聞かれます。このとき、それでいいです、と言って略式手続きに異議がないことを示す書面に署名押印をすると、略式手続きが行われます。ここで略式手続きを拒絶すると、正式裁判になってしまう可能性が高いので、注意しましょう。
裁判になったらどうなるの?
交通事故を起こして略式手続きにならず、正式な裁判になったら、何度も裁判所で審理が開かれます。このとき、検察官と弁護人からお互いに主張と立証が行われます。事故の状況について争いがあれば、弁護士に頼んでこちらに有利な証拠を提出してもらわないといけません。また、被害者と示談ができていたら適用される刑が軽くなるので、なるべく早く示談をした方が有利になります。被害者の処罰感情も刑に関わるので、事故当初から被害者に対する謝罪をきちんと行い、被害者の被害感情を軽くしておくことも重要です。
主張と立証が終わったら、被害者や関係人の尋問や被告人質問が行われて、手続きが終了します。結審したら、1ヶ月程度で裁判官から判決が下されます。民事裁判と異なり、被告人はすべての審理の期日に出頭する必要があります。
交通事故でも前科になるのか?
交通事故で刑事事件になると、前科になるのかどうかがわからないという人がいるので、説明します。この点、交通事故でも、罰則が適用されたら前科になります。正式な裁判手続きがとられた場合でも、略式手続きがとられた場合でも同じですし、過失運転致死傷罪でも危険運転致死傷罪でも、道路交通法違反でも同じです。
たとえば、在宅のまま捜査が続いて、略式手続きになった場合には、加害者自身、裁判になったことに気づいていないことがあります。裁判所から罰金の納付書が来たので、支払をしたからきれいさっぱり終わったものだと考えていることも多いですが、この場合でも、前科がついてしまうことには注意が必要です。
交通事故を起こすと、一生消えない前科がついてしまうおそれがある、ということなので、やはり運転をする際には十分注意すべきだということがわかります。
刑事手続きにそなえる方法
刑事手続きに有利に備えるには、弁護士に相談をして対応を依頼することが重要です。当初の段階から弁護士に相談していたら、間違った対応をしないのでそもそも刑事事件になりにくいですし、たとえ裁判になってしまったとしても、有利な証拠を集めて刑を軽くしてもらうことができます。被害者との示談を急いで進めてもらうことなども可能になります。そこで、重大な事故を起こして加害者になってしまったら、早めに交通事故や刑事事件に強い弁護士に相談をしましょう。
交通事故加害者には弁護士が必要!
交通事故を起こしてしまった場合には、弁護士に依頼することが非常に重要です。以下では、加害者が弁護士に相談や依頼をするメリットをご紹介します。
弁護士に依頼するメリット
間違った対応をせずに済む
交通事故の加害者になった場合には、事故当初の段階から適切に対応することが重要です。たとえば被害者に対してどのように対応するのか、御見舞に行くべきか、自分の怪我はどうするのか、刑事事件に備えるにはどうしたらいいのかなど、問題はたくさんありますが、通常交通事故の加害者になった人は、はじめての経験であることが多く、いろいろとわからないことが多いでしょう。自己判断で間違った対応をとると、後で示談交渉や刑事事件になったときに不利になるおそれが高いので、適切な対応を積み重ねていくことが重要です。このとき、弁護士に相談をしながら対処していたら、間違った対応をしないので、後に不利益を被るおそれがなくなります。
示談交渉を有利に進められる
加害者になった場合でも、相手と示談交渉をしないといけません。いくらの賠償金を支払うのかという問題もありますし、自分が怪我をしていたら、その分の賠償金支払いを相手に請求できるケースもあります。また、刑事手続きが裁判になってしまっている場合には、早急に示談をしないと刑事事件が終わってしまうので示談を急がないといけません。そこで、弁護士に手続きを依頼すると、示談交渉を適切かつスムーズに進めてくれるので、あらゆる場面で有利になり、メリットがあります。
刑事手続きを有利に進められる
交通事故加害者が刑事事件になってしまった場合には、特に弁護士が役立ちます。弁護士に依頼すると、そもそも刑事裁判になりにくいです。弁護士は被害者と示談交渉を進めたり、加害者にとって有利な証拠を集めて検察官に主張したりして、起訴されないように働きかけることができるからですます。このことによって起訴されなければ前科がつくこともありません。
また、事故後、逮捕勾留されてしまった場合には、起訴後速やかに保釈申請してもらうことで、日常の生活に戻ることができます。保釈されたら会社に出勤することもできますし、そのまま裁判で執行猶予または罰金になったら、刑務所に行かずに日常生活を続けることもできます。そうなったら、身柄を拘束されていたのは当初の10~20日程度だけになるので、会社を解雇されることもなく、家族にかける迷惑も最小限にとどめることができます。このようなことは、弁護士に依頼しないと難しいことです。
そこで、加害者になってしまったときに、その後の刑事事件が不安なら、必ず弁護士に対応を依頼すべきです。
精神的に楽になる
交通事故では被害者が精神的に苦しいと言われることが多いですが、加害者の立場であっても精神的には非常に苦しいものです。相手に対して申し訳ないという思いもありますし、自分の賠償責任や刑事責任がどうなるのかという不安も大きいです。周囲や近所から偏見を持たれて自分や家族が嫌な思いをすることもありますし、不安につぶされて家族に八つ当たりをしてしまい、家族関係が悪化してしまうこともあります。
こんなとき、自分の味方になってくれる弁護士がいたら、非常に心強いです。加害者が弁護士に依頼すると、精神的に楽になって自分を保ちやすいメリットも見逃すことができません。
交通事故に強い弁護士を探してスムーズに問題解決しよう!
以上のように、交通事故の加害者になってしまった場合には、いろいろと対処方法に注意すべき点があります。まずは、道路交通法上の義務を完全に果たすことが大切です。必ず停車してけが人を救護し、危険防止措置をとって警察に通報しましょう。反対に、その場で示談したり、お金を払ったり念書を入れたりしないように注意すべきです。そして、交通事故に備えるには、必ず自動車保険に加入しておくことも重要です。自賠責だけではなく任意保険にも加入して、対人賠償責任保険と対物賠償責任保険の限度額は、無制限にしておきましょう。
そして、刑事事件に備えるためにも、良い弁護士に対応を相談して依頼することが重要です。交通事故当初から弁護士に相談しながら行動していたら、間違った対処をすることで不利益を被るおそれもなくなります。交通事故の相談をするときには、交通事故問題に力を入れている弁護士を選んで依頼することが大切です。弁護士にはいろいろな専門分野があるので、交通事故に強い弁護士を探しましょう。
自動車を運転するときには安全運転をすべきですが、それでも交通事故の加害者になってしまったら、まずは交通事故問題に強い弁護士に相談をして、不利益を受けないように上手に対処しましょう。
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「交通事故発生時の対応マニュアル」記事一覧
- 2017年3月28日
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