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交通事故示談までの流れ~示談で損をしないための注意点~
この記事のポイント
- 示談の流れは交通事故の種類によって異なる。
- 人身事故(傷害)の場合、必ず警察に人身事故として届け出ることが重要。
- 人身事故(傷害)の示談交渉は治療が終了してから始まる。
- 症状固定時に後遺障害が残っていたら、確実に後遺障害の等級認定を受ける。
- 示談交渉するときには、3年の消滅時効にも注意する。
- 示談交渉を有利にすすめるためには弁護士に対応を依頼する方法がベスト。
目次
交通事故の示談って何?
交通事故で被害に遭ったら、加害者の保険会社との間で示談交渉をすることが普通ですが、そもそも示談交渉とは何かがわからないことがあります。そこでまずは、示談とは何のことなのかを確認しておきましょう。
交通事故の示談は、損害賠償請求の手続き
交通事故で被害に遭うと、被害者にはたくさんの損害が発生します。けがをしたら治療費も必要ですし、通院交通費や看護費用もかかります。休業損害や逸失利益も発生しますし、慰謝料も請求しなければなりません。このような損害賠償の支払いについては、相手との話し合いによって決めるのが基本です。そのための話合いの手続きが示談交渉です。つまり、示談交渉とは、話合いによって損害賠償金の金額と支払い方法を決めることです。
示談交渉を有利に進めると、結果的に多くの賠償金の支払いを受けられることになるので、被害者にとって重要です。被害者が示談交渉で損をしないためには、示談交渉の流れを正確に理解しておく必要があります。
交通事故の示談の流れ
それでは、具体的に示談の流れはどのようになっているのでしょうか?以下では、交通事故発生から示談成立までの流れを確認しましょう。示談の流れは、交通事故の種類によって異なるので、以下では分けてご説明します。
物損事故
交通事故には物損事故と人身事故があります。物損事故とは、人間の生命や身体に対する損害がなく、物的な損害のみが発生した場合です。自動車が壊れたけれども誰もけがをしていないようなケースのことです。この場合の示談の流れは、以下のようになります。
- 警察に物損事故として届け出る
- 修理の見積もりをとる
- 示談交渉開始
- 示談成立
- 示談金受取
人身事故(死亡)
次に、人身事故(死亡)のケースを見てみましょう。人身事故とは、人の生命や身体に何らかの損害が発生した交通事故のことです。中でも死亡事故は、被害者が死亡した事故なので、結果が重大です。この場合の示談の流れは以下のようになります。
- 警察に人身事故として届け出る
- 葬儀、法要を終える
- 示談交渉の体制を整える
- 示談交渉開始
- 示談成立
- 示談金受取、分配
人身事故(傷害)
交通事故の類型の3つ目が、人身事故(傷害)です。これは、人身事故の中でも、被害者が死亡せず傷害を負ったにとどまった交通事故です。この場合の示談交渉の流れは、以下の通りです。
- 警察に人身事故として届け出る
- 治療開始
- 治療終了
- 示談交渉開始
- 後遺障害等級認定の申請
- 示談成立
- 示談金の受取
以上のように、交通事故後の示談の流れは交通事故の態様によって異なるので、まずは押さえておきましょう。
物損事故の場合|示談の流れ
以下では、それぞれの交通事故類型における、示談の流れを詳しく見ていきます。まずは、物損事故の示談の注意点を確認しましょう。
警察に物損事故として届け出る
物損事故が起こったら、まず警察を呼んで、交通事故の届出をします。このとき、必ず警察を呼ばないといけないので、注意が必要です。物損事故なら警察を呼ばなくていいと思っている人もいますが、間違いです。また、物損事故を起こしてそのまま走り去ると、当て逃げとなり、道路交通法違反になりますし、罰則もあるので、絶対に逃げてはいけません。誰もけがをしていていないことを確認してから、物損事故として届出をします。物損事故の場合には警察が来ても実況見分も行われず、簡単に手続きが終わります。
保険会社に連絡を入れる
物損事故の場合にも、保険会社に連絡を入れる必要があります。このことにより、その後の示談交渉に保険会社が対応してくれるようになります。
修理の見積もりをとる
状況が落ち着いたら、自動車の修理費用の見積もりをとります。修理工場に車を預けて、修理費用の見積書を出してもらいましょう。他にも損害が発生していたら、資料を用意・作成します。
示談交渉開始
見積書ができたら、それを保険会社に渡して、示談交渉を開始します。修理費用以外の損害が発生している場合には、それらの資料も渡して一緒に請求します。示談交渉が始まると、相手との話合いによって、損害額と過失割合を決定します。修理費用が妥当な場合にはそのまま認定してもらえるでしょうし、異議がある場合には、別の見積もりを出されたり減額を主張されたりします。また、被害者に過失割合があれば、その分請求額からの減額が行われます。
示談成立
示談交渉により、お互いが合意できたら、示談が成立します。その場合、示談書を作成しますが、通常は相手の保険会社から示談書を送ってきます。被害者はその内容をチェックして、問題がなければ署名押印して相手の保険会社に返送します。そうすると、速やかに相手から示談金が支払われます。これによって、物損事故の示談が成立し、交通事故の賠償金支払いが完了します。なお、示談が成立しない場合には、調停やADRを利用したり、裁判をしたりして、別の方法で賠償金請求をする必要があります。
人身事故(死亡)の場合|示談の流れ
次に、人身死亡事故の場合の示談の流れを確認しましょう。
警察に人身事故として届け出る
人身死亡事故のケースでも、警察への届出が必要です。ただ、死亡事故の場合には、被害者は現場で意識を失っているか即死していることが多いので、被害者自身が警察に届け出ることは少ないです。通常は加害者が届出をして、遺族(親族)は、警察などから連絡を受けることになります。
葬儀、法要を終える
死亡事故の場合には、被害者の親族は葬儀や法要の関係で非常に忙しくなります。交通事故の損害賠償に対応する時間や労力もありませんし、そのような気持ちにはなれないでしょうから、とにかく必要な葬儀関係の手続きをします。被害者を十分に弔ってから、徐々に日常生活に気持ちを戻していくものです。なお、葬儀関係の費用は後に相手に請求できるので、捨てずにとっておくことが必要です。
保険会社に連絡する
被害者が死亡していた場合には、被害者が加入していた自動車保険会社に連絡を入れる必要があります。保険会社に連絡するのは、交通事故後すぐの方が良いですが、バタバタしていてそれどころではなかった場合には、葬儀後でもかまわないので、早めに連絡しましょう。
交通事故の示談交渉の体制を整える
相続人を確定する
死亡事故の場合には、被害者本人が示談交渉をすることができません。被害者の損害賠償請求権は相続人に相続されるので、死亡事故のケースでは、相続人が損害賠償請求(=示談交渉)をすることになります。そこで、まずは相続人を確定しないといけません。相続人になる人は、ケースによって異なります。
まず、被害者の配偶者はどのようなケースでも相続人となります。
そして、子どもがいる場合には子どもが第1順位の相続人なので、請求権者となります。配偶者と子どもがいる場合には、配偶者と子どもが示談交渉をします。
子どもがいない場合には、親が第2順位の相続人なので、請求権者となります。配偶者と親がいたら、配偶者と親が示談交渉をします。
被害者に子どもも親もいない場合には、兄弟姉妹が第3順位の相続人なので、請求権者となります。配偶者と兄弟姉妹がいる場合には、配偶者と兄弟姉妹が示談交渉をします。
相続人の代表者を決める
このように、被害者が死亡している場合、示談交渉の当事者が複数になり、必ずしも意思の疎通がスムーズにいかないので、問題が起こります。夫が死亡して妻と子どもが請求権者になる場合などには問題は少ないですが、配偶者と兄弟姉妹数人が相続人となるケースなどでは、被害者側が連絡を取るのも一苦労、ということもあります。そこで、遺族が複数の場合に示談交渉をするためには、遺族側の示談交渉の体制を整える必要があります。
具体的には、示談交渉の代表者を決めて、その人が中心となって相手の保険会社と連絡を取り、話を進めていけるようにします。まずは体制を整えないと、有利に示談交渉を進めるどころではなくなってしまうので、しっかりと準備しましょう。
交通事故の示談交渉開始
死亡事故の場合には、だいたい49日の法要が終わった頃に示談交渉を開始します。こちらから連絡を入れなくても、その頃になったら、相手の保険会社から連絡が入ることも多いです。遺族が示談交渉をするためには、遺族の戸籍謄本など、被害者との関係を証明するための書類が必要です。また、保険会社から遺族の代表者を決定するように言われることも多いので、決めておいた代表者が基本的に対応するようにしましょう。
示談交渉が始まったら、こちらが集めておいた葬儀の領収証や被害者の年収資料などを提出して、損害額を計算して、相手に請求をします。このようにして、損害額を決定して、過失割合を決めて、お互いに納得することができたら合意します。
遺族が複数いるときには、代表者が勝手に示談の内容を決めてしまうことはできません。代表していない遺族が全員納得する必要があるので、相手から提案を受けた場合には、全員で話し合って内容を検討しましょう。
交通事故の示談成立
被害者側の遺族全員と相手が納得したら、その内容で示談が成立します。示談が成立したら、示談書を作成します。示談書は、相手の保険会社が作成して遺族の代表者宛に送られてきます。示談書には、遺族全員が署名押印しないといけないので、相続人全員に確認をして、署名押印をもらいます。また、示談金振込先の口座も決定しなければならないので、遺族間で話し合いをして、どこの口座を指定するか決めます。このとき、被害者名義の口座は既に凍結されているか解約されているはずなので、代表者などの特定の遺族の名義の口座を指定することになります。示談書への書き込みが終わったら、相手の保険会社に送り返します。
交通事故の示談金を受取り、分配する
相手に示談書を返送したら、速やかに指定口座宛てに示談金が入金されます。示談金が振り込まれたら、遺族間で分配しないといけません。このときの分配割合は、法定相続割合です。法定相続割合は、ケースごとに異なるので、正確に計算する必要があります。たとえば配偶者と子どもが法定相続人になっている場合には、配偶者と子どもが2分の1ですが、配偶者と親が法定相続人になる場合には、配偶者と親の法定相続割合は2:1です。配偶者と兄弟姉妹が法定相続人になる場合には、配偶者と兄弟姉妹の法定相続割合は3:1です。
そこで、示談金を計算して、法定相続割合によって正確に分け合うことが必要です。
なお、損害賠償金を受けとりたくない遺族がいる場合には、話合いによってその人の分を他の遺族に渡してもかまいませんし、全員が納得するなら、法定相続割合と異なる方法で示談金を分配することも可能です。
人身死亡事故で問題になりやすいポイント
以下では、人身死亡事故で示談交渉をするときに問題になることが多い点について、内容と対応方法を紹介します。
交通事故の過失割合について
死亡事故のケースでは、過失割合が問題になることが多いです。交通事故が起こったときには、過失割合が非常に重要です。過失割合とは、事故の結果についてどちらがどれだけ責任を負うかということですが、被害者に過失割合があれば、その分相手に請求できる金額が減らされてしまいます。このことを、過失相殺と言います。そこで、被害者は、なるべく自分の過失割合を低くする必要があります。
死亡事故の場合、過失割合を高くされるおそれがある!
ところが、被害者が死亡したケースでは、被害者が自分で事故状況についての主張をすることができないので、加害者の言い分によって一方的に事故状況が認定されて、被害者に大きな過失割合が割り当てられてしまうことがあります。死亡事故では賠償金の金額が大きくなることが多いので、過失相殺による影響が大きくなります。たとえば、損害額が1億円の場合、過失割合が1割なら相手に請求できるのは9000万円ですが、過失割合が2割になると、1000万円減らされて相手に請求できる金額が8000万円になってしまいます。過失割合が3割なら、7000万円です。
そこで、死亡事故の場合に示談交渉をするときには、特に過失割合の点に注意が必要です。相手が被害者に高い過失割合を割り当ててきても、納得せずに資料を揃えて争うことが重要です。遺族が自分でできることには限界があるので、交通事故問題に強い弁護士に相談することをおすすめします。
交通事故の示談交渉をしないで放置したらどうなるのか?
死亡事故の場合、遺族が示談交渉をする気持ちになれないことがあります。また、遺族間でまとまりができず、示談交渉を始められないこともありがちです。このようにして、示談交渉をしないまま放置すると、どのような問題があるのでしょうか?
放置すると、交通事故の示談金を一切受け取れなくなることも!
示談交渉は損害賠償請求権の行使ですが、損害賠償請求権には時効があります。それは損害発生と加害者を知ってから3年です。そこで、通常の交通事故の場合、交通事故後3年が経過すると損害賠償請求ができなくなってしまいます。そこで、死亡事故の場合で相手と示談交渉をする気持ちになれない場合や、遺族間でまとまりができない場合であっても3年以内に示談をまとめて示談金を受けとらないと、一切の支払いを受けられなくなってしまいます。
お金をもらっても死亡した人が戻ってくるわけではないので意味が無いと思うかもしれませんが、法律上、お金という形でしか損害の評価ができないので、せめてそれだけでもきちんと受けとっておくべきです。きちんと権利行使することが、被害者の供養にもつながります。
弁護士に交通事故の示談交渉を依頼すると精神的な負担が減る
心痛が強く、自分で相手と示談交渉をすすめるのが苦痛な場合には、弁護士に対応を依頼すると、すべての手続きや対応を弁護士がしてくれるので、楽にすすめることができます。死亡事故の遺族となり、示談交渉をせずに相当な時間が経過している場合には、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
人身事故(傷害)の場合
次に、人身事故(傷害)の場合の示談の流れを確認しましょう。交通事故の示談交渉で特に問題になりやすい類型なので、しっかりと理解しておきましょう。
警察に人身事故として届け出る
必ず警察を呼ぶ
人身傷害事故の場合、事故が起こったらすぐに警察に届け出ることが必要です。事故が起こった場合、自動車の運転者は事故を警察に届け出る義務があります。一時的には加害者が警察を呼ぶものですが、加害者が呼ばない場合には、被害者が警察を呼ぶ必要があります。このことは、後で項目を分けて詳しく説明をしますが、警察を呼ばないと、交通事故が事故として扱われないので、交通事故証明書を作成してもらうことができません。そうなると、後に相手の保険会社に対し、賠償金の支払い請求ができなくなるおそれがあります。つまり、示談交渉もできなくなるということです。
必ず人身事故として届け出る
また、警察を呼んだら、必ず人身事故として届け出る必要があります。物損事故として届け出ると、交通事故証明書の記載が「物損」とされてしまい、相手の保険会社から物損事故の賠償金しか受けとることができなくなります。さらに、このことも後で詳しく説明しますが、物損事故扱いになると、警察による実況見分も行われないので、事故状況の証明のために必要な実況見分調書が作成されません。そこで、交通事故に遭って怪我をした場合には、必ず警察を呼んで人身事故として届け出ることが必要です。
交通事故は必ずすぐに病院を受診する
交通事故に遭ったとき、事故当初は痛みやしびれがないことがあります。その場合、病院に行かずに済ませてしまうことがありますが、事故が起きたときに少しでも身体に衝撃を感じたら、必ず一度は病院を受診すべきです。交通事故時には身体が興奮状態になっていて痛みやしびれなどを感じにくくなっています。また、むちうちなどの場合、事故時には自覚症状がなく、事故後2、3日くらいが経過してから痛みなどの症状が起こってくることが多いからです。
そうした場合、事故後数日が経過してから病院に行くと、相手から「事故と日数が空いているから、そのけがは事故で起こったとは認められない。その間にけがでもしたのでしょう」などと言われて、事故とけがとの因果関係を否定されてしまうおそれがあります。そうなると、示談交渉をしようとしても、けがに関する賠償金の支払いを受けられません。そこで、交通事故後は、自覚症状がなくてもすぐに病院を受診しましょう。
治療開始
病院を受診した結果、治療が必要な状態であれば、治療を開始します。交通事故によるけがには、非常にいろいろなものがあります。重篤な脳の症状や眼のわかりにくい症状などには、専門医ではないと発見や対応が難しいものもあります。たとえば、高次脳機能障害などの場合、怒りっぽくなったり忘れっぽくなったり自分勝手になったりルーズになったりなど、性格が変化したように見えることがありますが、実は脳に障害が起こっています。交通事故後、本人に少しでも以前と異なる様子が見られたら、事故による影響を考えてみることも必要です。
簡単なけがならどのような病院でも良いですが、難しい症状なら、良い専門医を探して治療をしてもらうことが、早期に確実に回復することにつながりますし、後の示談交渉でも有利になります。
このようにして通院先を決めて、けがが完治するか症状固定するまで、治療を継続します。
治療終了
治療は、けがが完治するか症状固定するまで継続します。途中で治療を打ち切ると、必要な治療が受けられないのでけがが治りませんし、入通院慰謝料が減額されたり、後遺障害が認定されなかったりして、相手に請求できる金額が減らされてしまうので、注意が必要です。必ず医師の判断を仰いで、医師が「完治」「症状固定」と判断するまで治療を継続しましょう。
交通事故の示談交渉開始
けがが完治するか症状固定したら、相手との示談交渉が開始します。示談交渉をするときには、損害賠償の項目を1つ1つ計算して、合計額を算定します。その上で、お互いの過失割合を定めて過失相殺をして、最終的な支払額を決定します。まずは、損害額の証明のため、入通院にかかった費用の領収証や休業損害、逸失利益請求のための給与明細などの資料を確実に用意することが必要です。
そして、もれなく損害を計算して請求し、相手と話合いをします。相手が納得しない場合には、反論や対案を出されるので、それを受けてこちらが返答をするなどして話合いをすすめます。
交通事故の後遺障害等級認定の申請
治療を終了したら示談交渉を開始しますが、後遺障害が残っている場合には、後遺傷害の等級認定請求もしなければなりません。交通事故でけがをすると、けがが完治せず、一定の症状が残ってしまうことが多いです。こうした場合、その症状の内容や程度に応じて後遺障害の等級認定を受けることができます。後遺障害等級認定を受けたら、等級に応じて後遺障害慰謝料や逸失利益を請求することができます。
同じように後遺症が残っていても、後遺障害の等級認定を受けない限り、これらの賠償金の支払いを受けられなくなるので、注意が必要です。また、後遺障害は、症状固定したときに残っている症状なので、治療を途中で打ち切ると後遺障害の等級認定が受けられなくなります。
後遺障害等級認定請求をして、等級の認定を受けられたら、後遺障害慰謝料と逸失利益を計算して相手に支払い請求をします。これらの損害の支払いについても示談交渉によって決定します。
交通事故の示談成立
示談交渉によって損害の金額と過失割合が決定したら、最終的に支払われる賠償金の金額が決定するので、示談が成立します。示談が成立したら、相手から示談書が送付されてくるので、内容をチェックします。問題がなければ署名押印をして、示談金の入金先の口座を書き入れて、相手に返送します。すると、速やかに示談金が指定口座に入金されます。
人身事故で問題になりやすいポイントについて
以下では、人身事故で問題になりやすいポイントについて、内容と対応方法を紹介します。
警察を呼ばないとどうなるのか?
まずは、警察を呼ばなかった場合の問題点です。どのような事故でも同じですが、特に人身事故(傷害)の場合、警察を呼ばないと被害者側の不利益が大きくなります。
交通事故で相手の保険会社に賠償金を請求する(=示談交渉をする)ためには、事故があったことを証明しなければなりません。事故があったことは、自動車安全運転センターが発行する「交通事故証明書」によって証明されます。しかし、警察を呼ばないとこの「交通事故証明書」が作成されないので、交通事故があったことを証明できなくなります。そうなると、交通事故でどのような酷いけがをしていても、賠償金を支払ってもらうことができません。交通事故が起こっても、加害者が自分から警察を呼ばないこともありますし、「警察を呼ばないでくれ」と頼んでくることもあります。中には、事故時に停車せずに逃げてしまうこともあります。こんなとき、被害者から警察を呼んでもかまわないので、早めに警察を呼びましょう。
物損事故として届けるとどうなるのか?
人身事故の場合によくある間違いとして、物損事故として届け出てしまうケースがありますが、以下ではその問題点をご説明します。
被害者が物損事故として届け出てしまう理由
交通事故が起こったとき、被害者が明らかにけがをしていたら人身事故として届出をしますし、警察も問題なく人身事故として受け付けます。しかし、むちうちなどの場合には、見た目に外傷がないことも多く、被害者自身にも痛みなどの自覚症状がないことが多いです。さらに、警察自身人身事故として受け付けることに消極的で「物損でいいね?」などと言ってくることもあります。もちろん加害者も物損事故にしてくれた方がありがたいと思っています。そこで、被害者としては「物損でいいです」と言ってしまいます。
物損事故だと賠償金が減る
しかし、このようにして物損事故として届け出ると、後に請求できる賠償金の金額が大きく減ります。物損事故の場合、治療費や休業損害、入通院慰謝料などの支払いはありませんし、後遺障害が残っても後遺障害の認定も行われません。後遺障害慰謝料や逸失利益も支払ってもらえなくなります。
むちうちの場合でも、人身損害が数百万円や1000万円以上になることもあります。物損事故になると、こうした賠償金をまったく受けとることができなくなって、大変な不利益があります。もちろん治療費も自腹になります。
物損事故だと実況見分調書が作成されない
また、人身事故扱いにしないと、実況件分が行われないので、実況見分調書が作成されません。交通事故では、過失割合を決定する際に事故状況が争点になることが多いです。このとき、警察が事故現場で事故直後に作成した実況見分調書が、非常に重要な資料となります。ところが、物損事故になると実況見分調書が作成されず、簡単な物損事故報告書しか作成されません。そこで、過失割合についての自分の主張が正しいことを証明できず、示談交渉で不利になってしまうおそれが高いです。そこで、交通事故の被害に遭ったときには、とにかく人身事故として届け出ることが大切です。
物損事故から人身事故に切り替える方法
人身事故であるにもかかわらず、物損事故として届け出てしまった場合には、物損事故から人身事故に切り替える必要があります。そのためには、まずは病院を受診して、医師に診断書を書いてもらいます。そして、それを持って、速やかに警察署に届出に行きます。交通事故後時間が経過すると、物損から人身へ切り替えてもらえなくなるので、交通事故と1週間~10日くらいの間には、届出をすることが必要です。
もし警察に届け出るのが遅くなって切り替えを認めてもらえない場合には、相手の保険会社に対し、「人身事故証明書入手不能理由書」という書類を提出する必要があります。ここには、人身事故と記載してある事故証明を提出できない理由を書いて提出します。これが受け付けられたら、民事的には人身事故扱いしてもらえるので、人身事故による損害についても示談交渉によって支払ってもらうことができます。
その場で示談したらどうなるのか?
交通事故が起こったとき、加害者は、事故現場で「この場で示談したい」と言ってくることがあります。特に人身事故のケースでは、事故現場で示談をすることの危険性が大きいです。先に説明した示談交渉の流れを理解していたらわかることですが、人身事故の場合には、治療が終了するまで損害の内容が確定しません。事故現場では、いつまで治療が必要になるかもわかりませんし、後遺障害が残るかどうかもわかりません。もしかしたら、予想もしていなかったような重大な症状が現れるかもしれません。たとえば、事故現場で300万円の賠償金を受けとっても、実際には後遺障害が残って賠償金額が1000万円以上になることもあります。それにもかかわらず、先に示談をしてしまったら、後に症状が現れてきたときや予想外に治療が長引いた場合などにおいて、それらの損害賠償をすることができなくなります。
よって、交通事故現場での示談には絶対に応じてはいけません。事故現場で示談をすることは、加害者にとってはメリットがありますが被害者にとってはデメリットしかないので、くれぐれも注意しましょう。
交通事故の示談成立前にお金を受け取れないのか?
示談成立前にはお金を払ってもらえない
人身事故(傷害)では、相手との示談が成立するのが、交通事故から相当時間が経過してからになることが多いです。治療期間が3ヶ月でも、示談交渉を開始出来るのが3ヶ月後になりますし、治療期間が1年、2年になるケースもあります。こうした場合、先に示談金を受けとりたいと希望する被害者も多いです。しかし、示談金は、基本的に示談が成立するまで受けとることができません。示談が成立したときに、未払分の治療費や休業損害、各種の慰謝料、逸失利益などをまとめて受けとることになります。
仮渡金制度を利用できる
ただ、交通事故の被害者は、いろいろな出費がかさみますし、仕事ができなくなる場合などもあってお金が必要なことが多いです。その場合には、自賠責保険の「仮渡金制度」を利用することができます。仮渡金とは、示談成立前に、賠償金の一部を先に自賠責から受けとることができる制度です。仮渡金として受けとったお金は、後に相手から支払いを受ける示談金から差し引かれます。
仮渡金の金額
仮渡金の金額は、事故の結果によって異なり、以下の通りとなります。
- 被害者が死亡したときには290万円
- 傷害の場合には、傷害の程度に応じて5万円~40万円
交通事故後、お金が足りなくて示談前にお金を受けとりたい場合には、いつのタイミングでも良いので、相手の自賠責に対し、被害者請求の方法で仮渡金請求の手続を行いましょう。自賠責保険に必要な書式があるので、問い合わせて送ってもらい、必要な資料を揃えて返送したら、仮渡金の支払いを受けることができます。
また、後遺障害の等級認定で被害者請求を利用した場合には、等級認定されたタイミングにおいて、自賠責分の後遺障害の賠償金が支払われます。
人身事故(傷害)で、物損のみ先に示談して良いのか?
人身事故が起こった場合には、同時に物損被害が発生することも多いです。車が毀れて人もけがをした、というケースです。この場合、物損事故の示談交渉だけを先に進めても良いのか?という疑問を持つことがあります。
実際には、人身事故で物損被害も発生している場合、物的損害については人身損害より先に示談してしまうことが多いです。物損については自動車の修理費用の見積もりが出たら、だいたいの損害額が確定するからです。自転車が壊れた場合や衣類や携帯電話などの所持品が破損した場合にも物損被害が発生するので、物損の示談で支払いを受けることができます。
そこで、人身事故が起こったときには、事故後1ヶ月程度で物損についての示談をして示談金を受けとり、残りの人身損害について治療後に示談を開始する、という流れになります。
治療終了前に治療費を打ち切ると言われたらどうする?
治療をやめてはいけない
人身事故(傷害)の場合、交通事故後に通院をしますが、治療が長引いてくると相手の保険会社から、途中で治療を打ち切るように言われることがあります。「そろそろ症状固定しましょう」などと言われることも多いです。このような場合、その言葉に乗って本当に治療をやめると、必要な治療費や入通院慰謝料を請求できなくなりますし、後遺障害の等級認定も受けられなくなるおそれがあります。
そこで、相手から治療費を打ち切ると言われても、通院はやめずに継続する必要があります。病院の医師に相談をして、いつ頃まで通院が必要か確認しましょう。そして、症状固定時期の見込みを相手に伝えます。
健康保険や労災保険を使って通院する
それでも相手が納得せずに治療費の支払いを打ち切られたら、自分の健康保険を使って治療を継続します。交通事故が労災のケースなら、労災保険も利用できます。病院によっては交通事故のけがの治療に健康保険が使えないと言ってくることがありますが、そのような制限はないので、従う必要はありません。その病院がどうしても健康保険の利用を認めないなら、別の病院に転院してでも治療を継続する必要があります。
治療関係の領収証はすべてとっておく
このときに被害者が立て替えた治療費については、後に示談をするときにまとめて相手に請求することができるので、支払い損にはなりません。後に請求をするためにも、領収書類は全部取っておきましょう。
治療が長引いて示談交渉ができない場合はどうするのか?
交通事故後の損害賠償請求権の時効は3年です。このことは、傷害の事案でも同じことです。ところが、人身事故でけがをしたとき、けがの治療が長引いて3年以内に終わらないことがあり、3年以内に示談ができないことがありますこのような場合には、それまでに確定している損害部分だけを先に示談でまとめて支払いを受けて、他の未確定な部分は後から改めて話合いをする、という解決方法が可能です。この場合、時効が中断するので、後に残りの賠償金の支払いを受けることができます。また、確定している損害について裁判を起こして支払い請求をする方法もあります。
後遺障害等級認定の2つの方法
人身事故で後遺障害が残った場合には、後遺障害の等級認定を受ける必要がありますが、後遺障害の等級認定の方法には2種類があります。1つは事前認定、もう1つは被害者請求です。
事前認定とは、加害者側の任意保険会社に後遺障害の等級認定手続きを任せる方法で、被害者請求とは、被害者が自分で相手の自賠責保険に対し、後遺障害の等級認定請求をする方法です。ただ、後遺障害の等級認定という被害者の賠償金認定にかかわる重要事項について、相手の保険会社に任せてしまうことには不安があるので、確実に等級認定受けたければ、被害者請求を利用すべきです。
そこで、人身事故(傷害)の場合、治療後症状固定をしたら、まずは自分で相手の自賠責保険に対し、被害者請求の手続きを利用して後遺障害の等級認定請求をしましょう。このとき、交通事故証明書や事故状況報告書、印鑑証明書などのいろいろな書類が必要ですし、検査結果や後遺障害診断書などの医学的な書類も必要です。有利に被害者請求を進めるには専門的な知識がある方が良いので、自分で対処が難しい場合には交通事故問題に力を入れている弁護士に相談して、対応を依頼すると良いでしょう。
交通事故の示談で知っておきたいポイント
相手がなぜか示談を急いできたらどうする?
示談ができると加害者の刑が軽くなる
人身事故の場合には、加害者側が示談を急いでくることがあります。このことは、傷害の場合でも死亡事故の場合でも同じです。これは、加害者の刑事事件がかかわっていることが多いです。交通事故の結果が重大な場合や態様が悪質な場合、加害者は起訴されて刑事裁判の被告人となります。すると、懲役刑や禁固刑、罰金刑などが適用される可能性が高いです。このとき加害者が少しでも刑を軽くしたければ、被害者と示談を成立させる必要があります。示談ができれば、加害者の情状が良くなって、刑を軽くしてもらうことができるのです。たとえば懲役刑ではなく罰金刑が適用されたり、懲役刑でも実刑ではなく執行猶予が就いたりするので、加害者にとってはメリットがあります。
ただ、示談は刑事裁判が終わるまでに成立させなければなりません。裁判が終わってしまってから示談が成立しても、既に出てしまった判決を変更してもらうことはできないからです。そこで、加害者は示談を急かしてくるのです。
被害者としては最後まで治療を続けてから示談すべき
このようなことは完全に加害者側の事情なので、被害者がこれに応じて示談を急ぐ必要はありません。基本的には治療を最後まで続けて、請求できる賠償金をすべて請求すべきです。
嘆願書を頼まれた場合の対処方法
また、加害者が刑事裁判になっていると、加害者から「嘆願書」を書いて欲しいと頼まれることがあります。嘆願書とは、「加害者の刑をなるべく軽くして下さい」と書いて裁判所に提出するための書類です。被害者が加害者の刑罰を軽くしてくれるように裁判所にお願いする、ということです。加害者に同情的であり、なるべく刑を軽くしてあげたいと思うなら、このようなものに署名押印して相手に渡してあげても良いですが、そうでもない場合には書かないといけないものではありません。自分の気持ちに正直になって対応すると良いでしょう。
交通事故の示談が成立したら作成する「示談書」とは?
示談交渉をすすめてお互いが示談内容に合意できたら、示談書を作成しますが、示談書とはどのようなものなのでしょうか?これは、示談の内容を明らかにするための契約書です。そして、示談書を作成するのは、後々のトラブルを避けるためです。
示談が成立しても示談書を作成しておかないと、相手が約束通り支払をしてくれないかもしれません。その場合には、示談書を証拠として、相手にその内容通りに支払い請求をすることができます。相手に保険会社がついている場合には支払いを受けられないリスクはほとんどありませんが、相手が本人の場合には示談書の作成が非常に重要となります。
また、反対に、示談書を作っておかないと、被害者側が相手に対し「まだ全額の支払いが終わっていない」と主張して、示談した以上の金額を請求する可能性もあります。そこで、示談書を作成することにより合意内容を明らかにして、トラブルを防止するのです。
示談書は契約書の1種なので、いったん作成してしまったら、基本的に後に内容を変更することができません。そこで、相手から示談書の案が送られてきたら、内容に問題がないかをしっかり確認する必要があります。
交通事故の示談書のチェックポイント
相手から示談書が送られてきたら、内容に問題がないかをしっかりチェックする必要があります。そこで、どこをチェックすれば良いのか、ポイントをご紹介します。
まずは、交通事故の特定です。交通事故特定されていなかったら、何の事故についての示談なのかがわからず、示談をした意味が無くなってしまいます。交通事故の日にち、発生時刻、事故発生場所、当事者名、自動車のナンバーなどが正確に記載されているかどうか、確認しましょう。ときどき、自分のものとは異なる交通事故や当事者名などが書き込まれていることがあります。
また、示談金の金額も重要です。示談交渉のやり取りの経過が複雑な場合には、以前提案された数字が記載されていたり細かい数字の間違いやけた数の間違いなどが起こったりすることもあります。こうした場合、見過ごすとそのままの金額で支払いが行われてトラブルになるおそれがあるので、しっかり確認しましょう。
また、賠償金の支払期日も重要です。特に当事者同士(相手方が無保険)の場合には、支払いを受けられないリスクがあるので、支払期日については特に注意する必要があります。期日を過ぎても支払いが確認できない場合には、すぐに督促をしないといけません。
過失割合が記入されている場合には、その内容が間違っていないかどうかも確認しましょう。
これらの点に問題がなければ、日付を入れて署名押印をして、相手に返送します。
どうしても示談ができない場合の対処方法
調停、ADR、訴訟の手続きによって請求できる
示談交渉をしても、どうしても合意ができないことがあります。損害賠償金の計算方法に納得できないこともありますし、過失割合について合意ができないこともあるでしょう。そのような場合には、示談で解決することができないので、別の手続きを利用する必要があります。具体的には、調停やADR,訴訟を利用します。自分で対応をするなら調停やADRを利用しますし、弁護士に依頼するならいきなり訴訟を起こしても良いでしょう。弁護士を雇って調停やADRをすることも可能です。
調停やADRを利用すると、裁判所の調停委員やADRの担当者が間に入ってくれるので、話がまとまりやすくなりますし、訴訟を利用すると、裁判所が強制的に賠償金の金額を決定してくれるので、問題を解決できます。
通常訴訟をするなら弁護士に依頼しよう
訴訟をするときには、法的な知識と専門的な対応が必要になるので、弁護士に依頼することが必須となります。弁護士に依頼せずに訴訟をすると、不利になって負けてしまうおそれが高いので、注意しましょう。ただ、相手に対する請求額が60万円以下なら、少額訴訟という簡易な裁判手続きを利用できます。少額訴訟の場合には、手続きが比較的簡単ですし、請求金額が小さいので、被害者が自分で対応することも十分可能ですし、おすすめです。
交通事故の示談交渉を有利に進める方法
高額な裁判基準を使って計算できるので賠償金がアップする
示談交渉をするとき、有利に進めるための方法をご紹介します。この場合、弁護士に対応を依頼することが重要です。示談交渉では損害賠償金の項目を定めて、それぞれについて金額を計算しますが、このときに利用する計算基準には3つの種類があります。被害者が相手と示談交渉をするときには、低額な任意保険基準や自賠責基準を使われるので賠償金の金額が下がりますが、弁護士に対応を依頼すると、高額な裁判基準を使って計算してくれるので、賠償金の金額が上がります。
相手の主張や反論に適切に対応できる
また弁護士は、相手からの反論に対して適切に対応できます。交通事故で被害者側が相手に支払い請求をすると、相手の保険会社は、いろいろな理由をつけて賠償金の減額を主張してきます。ここで弁護士であれば、これまでの判例や経験により適切に反論することができますし、相手の反論を予想して先回りして対応することも可能になります。
過失割合も有利になる
さらに、弁護士がついていると、過失割合の点でも被害者に有利になります。死亡事故の場合でも傷害事故の場合でも被害者や遺族が示談交渉をしていると、相手は被害者側に不当に大きな過失割合を適用して被害者の賠償金を減らそうとしてきますが、弁護士であれば、裁判上の過失割合認定基準を使って適切な割り当てをしてくれるので、被害者の過失割合が下がり、請求できる賠償金の金額が上がります。
死亡事故の場合にもスムーズに示談できる
死亡事故で遺族のまとまりがない場合でも、遺族全員が弁護士に委任してしまったら、後は弁護士がすべて手続きをしてくれるので、スムーズに示談をすすめることができます。
以上のように、弁護士に示談交渉を依頼すると、被害者にとっては利益が大きいです。これから被害者が示談交渉をする場合や、今相手と示談交渉中で困っている場合には、できるだけ早く弁護士に示談交渉の依頼をすることをお勧めします。
- 保険会社の対応に不満がある。
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない。
- 過失割合に納得がいかない。
- 後遺障害の認定を相談したい。
「交通事故発生時の対応マニュアル」記事一覧
- 2017年4月6日
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