損害賠償請求権の時効は3年間!期限がせまってきたら時効の中断を
この記事のポイント
- 損害賠償請求権の時効は原則として3年間
- 時効開始の条件は「損害」と「加害者」の確定
- 「保険金請求権」と「損害賠償請求権」は異なる
- 時効を中断させる方法がある(債務の承認/調停/訴訟)
- 時効にあせって、安易に示談に応じてはいけない
損害賠償請求権の時効とは?
損害および加害者を知ったときから「3年間」
交通事故の被害者は加害者に対して損害賠償を請求することができます。しかし、示談交渉が長引くと時効によって請求権が消滅するおそれがあります。その期間は原則として「3年間」。具体的には、民法で以下のように定められています。
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知ったときから3年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から20年間を経過したときも同様とする。
時効の起算点(時効のカウントが開始する日)は、被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知ったときです。被害者が未成年の場合、親権者が法定代理人となります。
【時効開始の条件①】損害が確定する
「損害を知ったとき」とは、必ずしも事故日ではありません。治療が長期化すると損害(治療費、休業損害など)が発生し続けるので、時効の起算点が後ろにズレていきます。まずは事故を4種類に大別し、それぞれの起算点を紹介しましょう。
- 物損事故/事故日
- 傷害事故/事故日(治療が長期化した場合は治療終了日)
- 死亡事故/死亡日
- 後遺障害が残った事故/症状固定日
※民法では期間を計算する際に初日を算入しないため、厳密には上記の翌日が起算点となります。
「症状固定」とは、一般的な医療行為の効果が期待できず、そのケガの回復・改善が見込めなくなった状態のこと。基本的には主治医が判断しますが、裁判で症状固定日が争われた場合、異なる結論が出る可能性があります。
【時効開始の条件②】加害者の住所・氏名を把握する
「加害者を知ったとき」とは、加害者の住所・氏名を把握したときです。たいていは事故日ですが、ひき逃げの場合は「加害者が判明したとき」になります。いつまでたっても加害者が見つからない場合、事故日から20年間で賠償請求権が消滅します。
「保険金請求権」と「損害賠償請求権」の違い
自損事故で支払われる保険金は賠償金ではない
加害者が任意保険に加入している場合、保険会社から損害賠償金が支払われます。ただし、法的には「保険金請求権」と「損害賠償請求権」は異なるもの。たとえば、運転手本人の責任によって起こした自損事故(加害者が存在しない事故)だとしても、保険金が支払われるケースがあります。こういった保険金の請求権の時効も、原則として3年間。起算点は請求方法などによって異なります。
①政府保障事業
被害者請求/事故日(後遺障害が残った場合は症状固定日)
※加害者請求はできない
政府保障事業とは、ひき逃げ事故や無保険事故にあった被害者に対して、法定限度額の範囲内で政府がその損害をてん補する制度です。健康保険や労災保険など他の社会保険の給付や本来の損害賠償責任者の支払いによっても、なお被害者に損害が残る場合に支払われます。
②自賠責保険
(A)加害者請求/賠償金を支払った日
(B)被害者請求/事故日(後遺障害が残った場合は症状固定日)
自賠責保険(自動車損害賠償責任保険)とは、交通事故の被害者を救済するため、加害者が負うべき経済的な負担を補てんするための保険です。基本的な対人賠償の確保を目的としており、原動機付自転車を含むすべての自動車に加入が義務づけられています。
③任意保険
(A)加害者請求/賠償金を支払った日
(B)被害者請求/事故日(後遺障害が残った場合は症状固定日)
任意保険とは、強制加入でない自動車保険のこと。自賠責保険ではカバーできない損害を補償するための保険です。具体的には、対人賠償保険、対物賠償保険、人身傷害補償保険、搭乗者傷害保険、無保険車傷害保険、自損事故保険、車両保険などがあります。
※保険金請求権が時効になっても、損害賠償請求権が消滅していなければ、加害者に対して損害賠償を請求することができます。そして、示談交渉や裁判などを経て、加害者側の任意保険会社から保険金が支払われます。そのため、通常は損害賠償請求権の時効だけを注意しておけば問題ありません。
時効を中断させる3つの方法
不満を抱いたまま、あせって示談に応じないために
当然のことですが、示談交渉は双方が合意しないと成立しません。そのため、交渉開始が遅れたり、話しあいが長引いたりすると、損害賠償請求権の時効がせまってくる場合があります。とはいえ、期限に追われて示談に応じると不満が残ってしまうでしょう。その際に有効なのが“時効を中断”させることです。
ここでの「中断」とは、時効へのカウントダウンが途中で止まることではありません。原則として中断した時点で経過期間がリセットされ、改めてゼロから計算が始まります。では、時効を中断させる3つの方法を紹介しましょう。
①債務の承認を受ける
「債務の承認」とは、被害者に損害賠償請求権があることを加害者側が認める行為です。具体的には、任意保険会社による治療費などの仮払い(全体の損害賠償金が確定する前に治療費を支払う行為)、書面による示談案の提示などが該当します。ただし、「自賠責保険から支払われた金額以上の損害がない」と加害者側が主張している場合は債務の承認にあたりません。
②調停を申し立てる
「調停」とは、裁判所を通じて相手方と話しあう手続きです。調停委員や裁判官が間に入るため、当事者間の交渉よりもまとまりやすいでしょう。時効は調停を申し立てた日に中断しますが、調停を取り下げたり、不成立になったりすると効力がなくなります。
③訴訟を起こす
訴訟を起こすと、裁判所に訴状を提出した日に時効が中断します。ただし、訴えを取り下げたり、却下されたりした場合は効力がなくなります。そして判決が確定、または裁判上の和解が成立した後、新たな時効期間(10年間)が始まります。加害者が任意保険に加入していれば、判決にしたがって保険金(損害賠償金)が支払われるので、その後の時効を心配する必要はないでしょう。
ただし、訴訟にはそれなりの準備が必要です。時効成立が間近にせまっていたら、まずは加害者側に内容証明郵便(配達証明つき)による催告書を送り、6ヵ月間だけ時効を延長しましょう。
適正な損害賠償金を得るために
保険会社が提示する示談金額は低い
損害賠償請求権には時効が存在しますが、保険会社の示談案に安易に応じてはいけません。なぜならば、損害賠償金には複数の算定基準があり、保険会社は低い基準で算出した賠償額(示談金額)を提示してくるからです。
したがって、まずは弁護士に相談し、法的に適正な賠償額を確認することをおすすめします。そのうえで時効までの期間と中断に関するアドバイスを受ければ、安心して手続きを進められるでしょう。最近は初回相談を無料で受けつけている法律事務所が増えているので、気軽に問い合わせてください。
- 保険会社の対応に不満がある。
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない。
- 過失割合に納得がいかない。
- 後遺障害の認定を相談したい。
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