この記事のポイント
- 自転車が歩行者にぶつかる事故では、原則として自転車側が加害者として重い賠償責任を負う
- 過去には自転車事故で数千万円規模の賠償が認められたとされる例もある
- 自転車には自賠責保険がなく、加害者が保険未加入だと賠償の支払いが滞るリスクがある
- 近年は自治体ごとに自転車保険の加入を義務づける動きが広がっている
- 賠償額や支払いでもめたら弁護士への相談が有効
自転車と歩行者の事故とは
自転車が「加害者」になる事故
自転車と歩行者の事故とは、走行中の自転車が歩行者に衝突し、歩行者がケガをしたり、最悪の場合は死亡したりする事故です。車との事故では自転車が被害者になりやすい一方、相手が歩行者の場合は立場が逆転し、自転車に乗っていた側が加害者として責任を問われます。歩行者は身を守る手段がほとんどない交通弱者であり、自転車であっても相応のスピードと重量があるため、衝突すれば重大な結果につながります。
自転車は免許が不要で手軽に乗れるぶん、「車ほど危なくない」という油断が生まれがちです。しかし、法律上、自転車は軽車両に位置づけられる立派な車両であり、歩行者を傷つければ車と同じように損害賠償の責任を負います。「自転車だから大したことにはならない」という思い込みは禁物です。
歩行者の側から見れば、突然横や後ろから自転車に当てられ、転倒して骨折する、頭を打つといった被害は決して珍しくありません。相手が自転車であっても、泣き寝入りせず適切に賠償を求めることが大切です。
典型的な発生パターン
自転車と歩行者の事故には、いくつかの典型的なパターンがあります。第一に、歩道上での衝突です。自転車が歩道をスピードを出して走り、前方の歩行者を追い越そうとして接触する、あるいは後ろから気づかれずに突っ込むケースです。歩道は本来歩行者が優先される場所であり、自転車の責任は重く見られます。
第二に、交差点や横断歩道での衝突です。自転車が信号無視や一時不停止のまま交差点に進入し、横断中の歩行者をはねるケースです。信号や一時停止を守らなかった自転車側の落ち度は、とくに重く評価されます。
第三に、ながら運転による事故です。スマートフォンを操作しながら、あるいはイヤホンで周囲の音が聞こえない状態で走行し、歩行者の存在に気づくのが遅れて衝突するケースです。前を見ていない、音が聞こえないといった事情は、自転車側の過失をさらに大きくします。
自転車側の重い賠償責任
過失割合は自転車が大きくなりやすい
自転車と歩行者の事故では、原則として自転車側の過失が大きく評価されます。歩行者は交通弱者として手厚く保護されるため、歩行者の過失は小さく、状況によってはゼロに近くなることもあります。とくに、歩行者が歩道や横断歩道など本来安全であるべき場所を通行していた場合、自転車側にほぼ全面的な責任が認められやすくなります。
ただし、歩行者にまったく過失がつかないとは限りません。歩行者が赤信号を無視して横断していた、横断歩道のない車道へ突然飛び出したといった事情があれば、歩行者側にも一定の過失が認められることがあります。あくまで個別の状況によって判断される点に注意が必要です。
| 状況 | 過失割合の考え方(目安・自転車:歩行者) |
|---|---|
| 歩道上で歩行者に自転車が衝突 | 自転車10対歩行者0(自転車側がほぼ全面的)が基本の目安 |
| 横断歩道を青信号で渡る歩行者に衝突 | 自転車10対歩行者0が基本の目安 |
| 歩行者が赤信号で横断していた | 歩行者側にも1~3割程度の過失がつくことがある(事情により変動) |
上の数値はあくまで目安で、ケースにより変動します。歩行者の信号無視や飛び出しの有無、自転車の速度やながら運転の有無などによって修正されます。自転車事故全般の割合の考え方は自転車事故の過失割合の考え方で整理しています。
高額賠償が命じられた例もある
自転車事故は軽く見られがちですが、歩行者に重い後遺障害が残ったり、死亡に至ったりすると、賠償額は非常に高額になります。過去には、自転車に乗っていた人が歩行者に重大な障害を負わせ、数千万円規模の賠償を命じられたとされる例も報じられています。具体的な金額は事案ごとに大きく異なるため一概には言えませんが、「自転車だから少額で済む」という認識は通用しません。
賠償額が大きくなるのは、治療費だけでなく、後遺障害が残った場合の逸失利益や、被害者本人・家族の精神的苦痛に対する慰謝料、将来の介護費などが積み重なるためです。被害が重いほど、賠償の総額は膨らみます。
被害者の立場からは、こうした損害を漏れなく請求することが大切です。一方、加害者となった自転車利用者にとっては、自分や家族の生活を脅かしかねないリスクとして、保険による備えが欠かせません。
自転車には自賠責保険がない
加害者が保険未加入だと支払いが滞る
自動車やバイクには、法律で加入が義務づけられた自賠責保険があり、被害者は最低限の補償を受けられる仕組みになっています。しかし、自転車には自賠責保険がありません。そのため、自転車事故の被害者が賠償を受けられるかどうかは、加害者が任意の保険に入っているかどうかに大きく左右されます。
加害者が自転車保険や、火災保険・自動車保険などに付帯する個人賠償責任保険に加入していれば、その保険から賠償が支払われます。しかし、何の保険にも入っていない場合、加害者本人に直接請求するしかなく、相手に十分な資力がなければ、高額な賠償を現実に回収することは難しくなります。
被害者にとっては、加害者がどんな保険に入っているかを早い段階で確認することが重要です。相手が「保険には入っていない」と言う場合でも、本人や同居家族が加入する火災保険などに個人賠償責任保険が付いていることがあるため、あきらめずに確認する価値があります。
自転車保険の加入義務化の動き
こうしたリスクを背景に、近年は自転車保険への加入を条例で義務づける自治体が全国的に広がっています。加入が義務とされる地域では、自転車利用者は賠償に備えた保険に入っておく必要があります。これは加害者側の備えであると同時に、被害者が賠償を受けやすくするための仕組みでもあります。
もっとも、義務化されていても実際には未加入の人も少なくありません。被害者になってしまった場合は、相手の保険の有無を確認したうえで、支払いの見通しを立てることが大切です。
自分自身が自転車に乗る立場であれば、万一加害者になったときのために、個人賠償責任保険の加入状況を一度確認しておくとよいでしょう。すでに加入している保険に付帯していることも多く、二重加入を避ける意味でも確認は有益です。
被害者がとるべき対応と請求できる損害
事故直後の手順
歩行者として自転車にはねられたら、まずは自分の安全とケガの確認を最優先にします。痛みが強い、頭を打った、出血しているといった場合は、ためらわず救急(119番)を呼びましょう。動けるようであっても、その場で相手を立ち去らせないことが重要です。
次に、警察(110番)へ届け出ます。自転車事故であっても、警察に届け出ることで事故の記録が残り、後の賠償請求の土台になります。相手の氏名・住所・連絡先を必ず控え、可能であれば相手が加入している保険の有無も確認しておきます。その場で示談の話をまとめず、連絡先の交換にとどめるのが安全です。
そのうえで、できるだけ早く医療機関を受診します。事故直後は痛みを感じなくても、後から症状が出ることがあるためです。受診の際は、自転車との事故であることを医師に伝え、診断書をもらっておきましょう。これらの記録が、後で賠償を請求する際の重要な資料になります。
請求できる損害と揉めやすい点
被害者が請求できる損害には、治療費、通院のための交通費、仕事を休んだことによる休業損害、ケガによる精神的苦痛に対する慰謝料などがあります。後遺障害が残った場合には、後遺障害慰謝料や逸失利益も問題になります。なお、自転車には自賠責保険の制度がないため、慰謝料の算定では過去の裁判例で認められてきた水準が参考にされます。金額は被害の程度によって大きく変わります。
この類型でもっとも揉めやすいのが、加害者側の支払い能力です。加害者が保険に入っておらず、十分な資力もない場合、賠償が認められても現実の回収が難しくなります。また、自転車事故は車の事故に比べて当事者の意識が低く、相手が責任を軽く考えて交渉に応じないこともあります。
証拠の確保も重要です。事故の状況を示すドライブレコーダー(自動車のものや、近くを走っていた車のもの)、現場周辺やコンビニ・店舗の防犯カメラ、目撃者の証言などが有力な手がかりになります。これらは時間が経つと失われるため、警察への届け出とあわせて、早めに確保しておくことが大切です。
自転車と歩行者の事故でもめたら
賠償・支払いは弁護士に相談
自転車と歩行者の事故は、賠償額が高額になりやすい一方で、加害者の保険の有無や支払い能力をめぐって解決が難航しやすい類型です。相手が任意の保険に入っていない場合や、提示された賠償額・支払い方法に納得できない場合は、対応に迷う場面も多いはずです。
そうしたときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。加害者がどの保険を使えるか、どの範囲の損害を請求できるか、現実的な回収の見通しはどうかを確認したうえで対応を決めれば、不利な条件での示談を避けやすくなります。とくに後遺障害が残るような重い被害では、早めに相談しておくと安心です。