交通事故発生時の対応マニュアル

過失運転致傷罪とは|成立要件と刑罰・被害者ができること

過失運転致傷罪とは|成立要件と刑罰・被害者ができること

この記事のポイント

  • 過失運転致傷罪は、運転上の不注意で人にケガをさせた場合に成立する刑事上の罪
  • 刑罰は7年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)または100万円以下の罰金で、軽微なら刑が免除されることもある
  • 多くは捜査のあと検察が起訴・不起訴を判断し、略式罰金や正式裁判に進む
  • 被害者は被害届・告訴や処罰感情の表明、示談・宥恕を通じて手続きに関わることができる
  • 刑事処分と賠償は別物。賠償で困ったら弁護士に相談するのが有効

過失運転致傷罪とは

成立要件と位置づけ

過失運転致傷罪は、自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)の第5条に定められた罪です。自動車の運転にあたって必要な注意を怠り、その結果として人にケガをさせた場合に成立します。被害者が亡くなった場合は過失運転致死罪となります。

ここでいう「必要な注意を怠った」とは、前方をよく見ていなかった、安全な速度や車間を保たなかった、安全確認をしなかった、といった運転上の不注意を指します。交通事故でケガ人が出た人身事故の多くは、この過失運転致傷罪の枠組みで捜査・処理されます。

故意に人を傷つける罪とは異なり、あくまで不注意(過失)による結果責任を問うものです。とはいえ、人の生命や身体を害した以上は刑事責任の対象となり、加害者は捜査の対象になります。

刑罰の重さ

過失運転致傷罪の法定刑は、7年以下の懲役もしくは禁錮(拘禁刑)、または100万円以下の罰金です。被害の程度や過失の大きさ、加害者の前科の有無などをふまえて、この範囲の中で具体的な処分が決まります。

ケガが軽く、加害者の過失も小さいなど情状が軽い場合には、刑が免除されることもあります。一方で、被害が重い、過失が著しい、飲酒など悪質な事情が重なるといった場合には、正式裁判で実刑や執行猶予付きの判決が言い渡されることもあります。

過失運転致傷罪の刑罰の概要(目安)
項目 内容
根拠 自動車運転処罰法5条(過失運転致死傷罪)
法定刑 7年以下の懲役・禁錮(拘禁刑)、または100万円以下の罰金
情状が軽いとき 刑が免除されることもある
多い処理 軽傷・初犯などは略式罰金、重大なものは正式裁判

実際にどの程度の処分になるかは事案ごとに大きく異なります。表はあくまで概要の目安であり、個別の見込みは事情によって変わります。

捜査から処分までの流れ

送検・検察の判断・処分

人身事故が起きると、警察が実況見分や当事者・目撃者の聴取を行い、事件として捜査します。その結果は検察官に送られ(送検)、検察官が起訴するか不起訴にするかを判断します。

検察官が起訴を選ぶ場合でも、軽微な事案では公開の法廷を開かない略式起訴となり、書面審理で罰金が科されることが多くあります。被害が重い、過失が著しいといった事案では、正式裁判となり、公開の法廷で審理されます。一方、起訴猶予などで不起訴になれば、刑事罰は科されません。

被害者にとっては、この「起訴・不起訴の判断」が一つの大きな分かれ目になります。次に述べるように、被害者の関わり方がこの判断に影響することがあります。

略式罰金・正式裁判・不起訴の3つの道

検察官の判断によって、加害者がたどる道は大きく三つに分かれます。一つ目が略式手続きによる罰金です。加害者が事実を認め、比較的軽い事案であれば、公開の法廷を開かずに書面審理で罰金が科されます。人身事故でもっとも多い処理の形です。

二つ目が正式裁判です。被害が重い、過失が著しい、飲酒など悪質な事情があるといった事案では、公開の法廷で審理され、懲役・禁錮(拘禁刑)の判決や、執行猶予付きの判決が言い渡されることがあります。被害者やその遺族が法廷で関わる場面も、主にこの正式裁判です。

三つ目が不起訴です。被害が軽く、過失も小さく、示談が成立しているといった事情があると、起訴猶予などで刑事罰が科されないことがあります。不起訴になっても民事の賠償責任は残るため、被害者は賠償請求を別に進められます。どの道になるかは事案の重さと情状によって変わり、ケースにより異なります。

被害者ができること

被害届・告訴と処罰感情の表明

被害者は、捜査機関に対して被害を申告する被害届を提出できます。さらに、加害者の処罰を求める意思を明確にする告訴という手続きもあります。これらは、加害者の処分を検討するうえでの重要な資料になります。被害届の出し方や役割については被害届の基礎もあわせて確認してください。

被害者がどの程度の処罰を望んでいるか、いわゆる処罰感情は、検察官が起訴・不起訴や求刑を判断するときの考慮要素の一つです。被害が大きい、加害者の態度が不誠実だといった事情があれば、被害者がそれを伝えることには意味があります。

逆に、加害者が誠実に謝罪し賠償も果たしているといった事情は、加害者に有利に働くことがあります。被害者は、自分の被害の実情や気持ちを、捜査・公判の過程で適切に伝えることができます。

示談・宥恕が処分に与える影響

加害者との示談が成立しているかどうかは、刑事処分に影響することがあります。とくに、被害者が加害者を許す意思(宥恕)を示談に盛り込んでいると、不起訴や刑の軽減につながりやすくなります。これが、加害者側が早期の示談を望む理由の一つです。

ただし、被害者にとって示談は、賠償条件に納得できて初めて応じるべきものです。加害者の処分を軽くするためだけに、十分な賠償を受けないまま示談に応じてしまうと、後で不利益が残ります。示談の刑事面での効果と、賠償としての中身は分けて考えることが大切です。

なお、被害が重い事件では、被害者やその遺族が刑事裁判に直接参加する被害者参加制度を利用できる場合があります。法廷で意見を述べるなど、手続きに関わる道が用意されています。

よくある誤解と賠償の進め方

刑事処分と賠償は別の手続き

被害者がよく誤解しやすいのが、「加害者が刑事罰を受ければ、自分への賠償も済む」という考えです。しかし、刑事処分は国が加害者を処罰する手続きであり、被害者への損害賠償(民事)とはまったく別の制度です。

加害者に罰金が科されても、その罰金は国に納められるもので、被害者の手元に入るわけではありません。被害者が治療費や慰謝料を受け取るには、民事の賠償請求を別に進める必要があります。刑事と民事は連動しないと理解しておきましょう。

また、加害者が不起訴になったとしても、それは刑事責任が問われないというだけで、民事の賠償責任がなくなるわけではありません。不起訴でも、賠償はきちんと請求できます。

過失運転致傷罪の事故で賠償に困ったら

賠償は刑事と切り分けて弁護士に相談

過失運転致傷罪をめぐる刑事手続きは捜査機関や裁判所が進めるものであり、被害者が直接コントロールできる部分は限られます。被害者にとって重要なのは、ケガに見合った賠償を適正に受け取ることです。

相手保険会社から提示された賠償額や過失割合に納得できないとき、治療費の打ち切りを打診されたとき、刑事手続きと示談の関係に迷うときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。刑事処分の話と切り分けて、自分の賠償の見通しを確認したうえで対応を決めるとよいでしょう。