交通事故発生時の対応マニュアル

交通事故の不起訴とは|被害者の処罰感情と示談の影響

交通事故の不起訴とは|被害者の処罰感情と示談の影響

この記事のポイント

  • 不起訴とは、検察官が加害者を裁判にかけないと判断すること。前科はつかない
  • 交通事故の不起訴の多くは「起訴猶予」で、示談・宥恕・処罰感情が判断に影響する
  • 被害者は、被害届・告訴や処罰感情を伝えることで刑事手続きに関与できる
  • 刑事の不起訴と民事の損害賠償は別物で、不起訴でも賠償は請求できる
  • 示談の進め方や賠償でもめたら弁護士への相談が有効

交通事故の不起訴とは

検察官が裁判にかけないと判断すること

交通事故の不起訴とは、警察から送致(送検)された事件について、検察官が「この加害者を裁判(公判)にはかけない」と判断することをいいます。日本では、起訴するかどうかを決める権限は検察官にあり、人身事故であっても必ず起訴されるわけではありません。

不起訴になると、加害者は刑事裁判を受けず、刑罰も科されません。後で述べるとおり、不起訴であれば前科もつきません。被害者の立場からは「加害者が罰せられないのか」と感じる場面ですが、刑事処分と被害者への賠償は別の問題です。

交通事故の刑事事件は、警察の捜査を経て検察官に送られ、検察官が起訴・不起訴を決めるという流れで進みます。不起訴は、この検察官の判断の一つだと理解しておくと、全体像がつかみやすくなります。

不起訴の主な種類

不起訴には、理由によっていくつかの種類があります。交通事故で特に多いのが「起訴猶予」です。これは、加害者が事故を起こした事実は認められるものの、事情を総合的に考えて今回は起訴を見送る、という判断です。

これに対し「嫌疑不十分」は、加害者が罪を犯したと証明するだけの証拠が足りない場合の不起訴です。さらに「嫌疑なし」は、そもそも加害者が罪を犯したとはいえない場合をいいます。同じ不起訴でも、意味合いは大きく異なります。

交通事故の不起訴の主な種類(概要)
種類 内容
起訴猶予 事実は認められるが、情状などを考えて起訴を見送る
嫌疑不十分 有罪を証明する証拠が足りない
嫌疑なし 罪を犯したとはいえない

交通事故の被害者として関心が高いのは、多くの事案で問題になる「起訴猶予」です。次の章で、この判断に何が影響するのかを見ていきます。

処罰感情・示談・宥恕が起訴猶予の判断に影響する

検察官が考慮する事情

起訴猶予にするかどうかを検察官が判断する際には、さまざまな事情が考慮されます。事故の悪質さや被害の重さ、加害者の反省の有無、前科前歴の有無などです。そのなかで、被害者に関わる要素も重要な意味を持ちます。

具体的には、被害者の処罰感情(加害者を処罰してほしいという気持ち)、被害弁償や示談が成立しているか、被害者が加害者を許す意思(宥恕)を示しているか、といった点です。これらは、加害者に有利・不利のどちらにも働きえます。

被害が大きく、被害者の処罰感情が強い事案では起訴に傾きやすく、逆に、示談が成立して被害者が宥恕している事案では起訴猶予(不起訴)に傾きやすい、というのが大きな傾向です。ただし、最終的な判断は検察官が総合的に行うため、断定はできません。

示談と宥恕の意味

示談とは、加害者側(多くは保険会社)と被害者の間で、損害賠償の内容について合意することです。示談が成立し、被害弁償がなされていることは、加害者に有利な事情として考慮されることがあります。示談の進め方の基本については示談交渉の基礎もあわせて確認してください。

宥恕とは、被害者が「加害者を許す」「処罰を望まない」という意思を示すことです。示談書のなかに宥恕の文言を入れることもあります。宥恕があると、起訴猶予に傾きやすくなる一方、被害者にとっては慎重に判断すべき事柄でもあります。

注意したいのは、示談に応じることと、加害者の刑事処罰を望まないことは本来別だという点です。賠償はきちんと受け取りたいが、刑事的にはしかるべき処分を望む、という立場もありえます。示談書の文言が刑事手続きに影響しうることを理解したうえで対応することが大切です。

被害者が刑事手続きでできること

被害届・告訴と処罰感情の伝え方

被害者は、刑事手続きにまったく関与できないわけではありません。まず、被害届を提出することで、事故被害に遭った事実を捜査機関に伝えられます。さらに、加害者の処罰を求める意思を明確にする「告訴」という手段もあります。

捜査の過程では、被害者が事情聴取を受け、被害の状況や加害者への気持ちを述べる機会があります。ここで処罰感情を率直に伝えることは、検察官の判断材料になります。納得できない思いがあるなら、それを言葉にして残しておくことが大切です。

検察官が不起訴とした場合でも、被害者がその判断に納得できないときは、検察審査会に審査を申し立てる制度があります。こうした手段があることを知っておくと、泣き寝入りを避けやすくなります。

不起訴でも賠償は請求できる

被害者が最も誤解しやすいのが、「加害者が不起訴になったら、もう賠償も受けられないのではないか」という点です。これは正しくありません。刑事手続き(起訴・不起訴)と、民事の損害賠償はまったく別の手続きです。

加害者が不起訴になっても、被害者は治療費、通院交通費、休業損害、慰謝料、物損などの損害賠償を、加害者側(多くは任意保険会社)に請求できます。刑事で不起訴だったことが、賠償請求を妨げるわけではありません。

逆に、加害者が起訴されて有罪になったからといって、それだけで賠償が支払われるわけでもありません。賠償は、あくまで民事の交渉や手続きを通じて実現するものだと理解しておきましょう。

よくある誤解と揉めやすい点

「示談すれば必ず不起訴」ではない

示談が成立すれば必ず不起訴になる、と考えるのは誤りです。示談や宥恕は有利な事情として考慮されますが、被害が重大な事案や悪質な事案では、示談が成立していても起訴されることがあります。最終判断は検察官に委ねられています。

また、加害者側が「不起訴にしたいから」と示談や宥恕を急かしてくることがあります。被害者としては、賠償額が適正かどうかを十分に確認しないまま、刑事処分への影響だけを理由に示談を急ぐ必要はありません。賠償の中身と、宥恕するかどうかは、分けて考えることができます。

不起訴かどうかという刑事の結論と、適正な賠償を受けられるかという民事の結論は、それぞれ別に検討すべき事柄です。両者を混同すると、不利な条件で示談してしまうおそれがあります。

不起訴や示談でもめたら

示談・賠償は弁護士に相談

交通事故の不起訴をめぐっては、示談や宥恕の文言が刑事処分に影響したり、賠償額と刑事処分への協力が一緒くたに持ちかけられたりして、被害者が判断に迷う場面が少なくありません。賠償はきちんと受け取りつつ、刑事面でどう対応するかを冷静に整理する必要があります。

提示された示談内容や賠償額に納得できないとき、宥恕を求められて判断に迷うときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。賠償の適正額や、刑事手続きとの関係を確認したうえで対応を決めれば、不利な条件で示談してしまうことを避けやすくなります。