この記事のポイント
- 人身事故の行政処分は、刑事罰や民事賠償とは別に、公安委員会が運転免許に対して行う処分
- 事故の被害の程度などに応じた付加点数が、過去の点数に累積して免停・免許取消の基準に達する
- 前歴なしの場合、6点~で免許停止、15点以上で免許取消が一つの目安(点数や前歴により変動)
- 行政処分は加害者への処分であり、被害者の損害賠償は民事として別に請求する必要がある
- 賠償の進め方や金額でもめたら弁護士への相談が有効
人身事故の行政処分とは
刑事罰・民事賠償とは別物の処分
人身事故を起こした加害者には、性質の異なる3つの責任が生じます。刑事責任(罰金や拘禁刑などの刑罰)、民事責任(被害者への損害賠償)、そして行政責任です。このうち行政処分は、公安委員会が運転免許に対して行うもので、免許の停止や取消といった形をとります。
行政処分の目的は、危険な運転者に運転を控えさせ、交通の安全を守ることにあります。加害者を罰すること自体が目的の刑事罰とも、被害者の損害を回復する民事賠償とも、ねらいが異なります。そのため、3つの責任はそれぞれ別の手続きで進み、結果も連動するとは限りません。
被害者の立場からは、まずこの違いを押さえておくことが大切です。加害者がどれだけ重い行政処分を受けても、それによって被害者の治療費や慰謝料が支払われるわけではありません。賠償は、行政処分とは切り離して、民事で請求していくことになります。
人身事故で点数はどう付くか
付加点数の仕組みの概要
交通違反や事故には点数が割り当てられており、一定期間内に累積した点数で行政処分が決まります。人身事故の場合、信号無視や速度超過といった違反そのものの基礎点数に加えて、事故の結果に応じた「付加点数」が加算されるのが特徴です。
付加点数は、被害者のケガの程度と、事故が専らどちらの不注意で起きたかによって上下します。一般的な目安として、死亡事故では13~20点、治療期間が3か月以上または後遺障害が残る場合は9~13点、30日以上3か月未満で6~9点、15日以上30日未満で4~6点、15日未満で2~3点とされています。いずれもケースにより変動する目安です。
このように、被害が重いほど付加点数は大きくなり、一度の事故で免停や取消の基準に達することもあります。点数の正確な評価は警察・公安委員会が行うため、ここでは仕組みの概要を押さえておけば十分です。
累積点数と免停・取消の基準
前歴の有無で基準が変わる
行政処分は、その時点までに累積した点数の合計で判断されます。同じ点数でも、過去に処分を受けた「前歴」があるかどうかで、処分の重さが変わる点に注意が必要です。前歴があるほど、より少ない点数で重い処分につながります。
下の表は、前歴がない場合の累積点数と処分の目安です。実際の運用は個別の事情によって変わるため、あくまで目安として確認してください。
| 累積点数 | 処分の目安 |
|---|---|
| 6~8点 | 免許停止30日 |
| 9~11点 | 免許停止60日 |
| 12~14点 | 免許停止90日 |
| 15点以上 | 免許取消(欠格期間1年~) |
前歴がある場合は、これより少ない点数で免停や取消になります。また、免許停止になった人が停止処分者講習を受けると、停止期間が短縮されることがあります。免許取消になると、欠格期間が経過するまで再取得ができません。
行政処分が決まるまでの流れ
通知から処分までの手続き
人身事故を起こすと、捜査と並行して点数の評価が行われ、処分の対象になる場合は公安委員会から通知が届きます。免許停止や取消といった重い処分が想定されるときは、加害者に言い分を述べる機会が設けられます。
具体的には、免許停止などの場合は「意見の聴取」、免許取消など特に重い処分の場合は「聴聞」と呼ばれる手続きが用意されています。ここで加害者は、事故の状況や酌むべき事情を主張することができます。手続きを経て、最終的な処分の内容が決定されます。
被害者がこの行政手続きに直接関与する場面は多くありません。行政処分はあくまで加害者と公安委員会との間で進むものだからです。被害者としては、処分の有無や結果を待つよりも、自分の損害をどう回復するかに目を向けることが現実的です。
被害者から見た行政処分
賠償は民事として別に請求する
被害者が知っておきたいのは、加害者の行政処分と自分への賠償は別だということです。加害者が免停や取消になっても、それは免許への処分にすぎず、被害者の治療費や慰謝料が自動的に支払われるものではありません。
賠償は、加害者本人や加害者が加入する自賠責保険・任意保険に対して、民事として請求していくことになります。請求できる損害には、治療費、通院のための交通費、仕事を休んだことによる休業損害、慰謝料、後遺障害が残った場合の逸失利益、車などの物損が含まれます。これらは行政処分の重さとは関係なく、被害の実態に応じて算定されます。
よくある誤解として、「加害者が重く処分されたのだから賠償も十分されるはずだ」と考えてしまうことがあります。しかし両者は連動しません。行政処分の結果を被害者が直接動かすことはできない一方、賠償については被害者自身が主体的に動く必要があります。
被害者が賠償でとるべき具体的な行動
行政処分の行方を待たずに動く
被害者にとって大切なのは、加害者の行政処分がどうなるかを見守ることではなく、自分の損害を回復するために早めに動くことです。行政処分は加害者と公安委員会の間で進む手続きであり、その結論を待っていても賠償は一歩も進みません。
まず欠かせないのが、ケガの治療と記録です。事故直後は痛みを感じなくても、後日になって首や腰の痛みが出ることがあります。早めに整形外科を受診し、診断書をもらっておくことで、ケガと事故のつながりを裏づけられます。物損として処理されている場合でも、診断書を警察に提出すれば人身事故への切り替えにつながることがあります。
あわせて、相手の任意保険会社とのやりとりが始まります。提示される過失割合や賠償額は、必ずしも適正とは限りません。治療の途中で治療費を打ち切られそうになることもあります。こうした場面で安易に相手の提示を受け入れず、診断書や通院記録、ドライブレコーダーの映像などの客観的な証拠をそろえておくことが、適正な賠償につながります。
人身事故の処分や賠償で困ったら
賠償の進め方は弁護士に相談
人身事故では、加害者の行政処分の行方とは別に、被害者は自分の損害をどう回復するかという問題に向き合うことになります。相手保険会社から提示される過失割合や賠償額に納得できない、治療費を打ち切られそうだ、といった場面では、対応に迷うことも少なくありません。
そうしたときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。行政処分と賠償の違いを整理したうえで、適正な賠償の見通しを確認し、相手保険会社との交渉を任せることで、不利な条件で示談してしまうことを避けやすくなります。