交通事故発生時の対応マニュアル

交通事故の略式起訴とは|流れと罰金・正式裁判との違い

交通事故の略式起訴とは|流れと罰金・正式裁判との違い

この記事のポイント

  • 略式起訴(略式手続)は、簡易裁判所が書面審理で罰金・科料を科す簡略な刑事手続き
  • 科しうるのは100万円以下の罰金または科料で、被疑者の同意が前提になる
  • 公開の法廷は開かれず短期間で終わるが、罰金でも前科はつく
  • 略式命令に納得できなければ、受け取ってから14日以内に正式裁判を求められる
  • 略式の罰金は国に納めるもので被害者への賠償ではない。賠償でもめたら弁護士相談が有効

交通事故の略式起訴とは

書面審理で罰金を科す簡略な手続き

交通事故で加害者が起訴される場合、その方法には正式裁判と略式起訴(略式手続)の2つがあります。略式起訴とは、簡易裁判所が公開の法廷を開かず、書面の審理だけで罰金または科料を言い渡す簡略な刑事手続きです。比較的軽微な事件で多く用いられます。

略式手続で科すことができるのは、100万円以下の罰金または科料に限られます。拘禁刑(旧・懲役刑)のような身体を拘束する刑を科すことはできません。そのため、人身事故のうち被害が比較的軽く、加害者が事実を認めているようなケースで選ばれやすい手続きです。

重要なのは、略式起訴には被疑者本人の同意が必要だという点です。検察官が略式起訴を選ぼうとしても、被疑者が同意せず正式裁判を望めば、通常の公開の裁判で審理されることになります。略式は、当事者にとっても手続きが早く終わるという利点があるため、同意のうえで進むのが一般的です。

略式起訴の流れ

送検から罰金納付まで

略式起訴は、いくつかの段階を経て進みます。流れを押さえておくと、加害者がどの段階にいるのかを理解しやすくなります。

まず、警察の捜査を経て事件が検察官に送られます(送検)。検察官が捜査の結果をもとに、罰金が相当で略式手続が適すると判断すると、被疑者に略式手続でよいかを確認し、同意を得たうえで簡易裁判所に略式起訴(略式命令の請求)を行います。

その後、簡易裁判所が書面を審理し、罰金などを命じる「略式命令」を出します。被疑者は命令にしたがって罰金を納付し、これで手続きは終了します。正式裁判のように何度も法廷へ足を運ぶ必要がなく、短期間で決着するのが特徴です。

正式裁判との違い

略式起訴と正式裁判は、同じ「起訴」でも手続きの性質が大きく異なります。違いを整理すると、次の表のようになります。

略式起訴と正式裁判の違い(目安)
項目 略式起訴 正式裁判
公開の法廷 開かれない(書面審理) 開かれる
科しうる刑 100万円以下の罰金・科料のみ 拘禁刑・罰金など
被疑者の同意 必要 不要
期間 短期間で終わりやすい 比較的長くなりやすい

略式命令の内容に納得できない場合、被疑者は命令を受け取った日から14日以内に、正式裁判を求めることができます。この期間内に正式裁判の請求がなければ、略式命令が確定します。

略式起訴が選ばれやすいケース

略式起訴は、すべての交通事故で使われるわけではありません。書面審理で罰金を科すという性質上、一定の条件を満たす比較的軽い事件で選ばれやすい傾向があります。

典型的なのは、被害者のケガが比較的軽く、加害者が事故の事実や過失を認めているケースです。事実関係に大きな争いがなく、罰金が相当と見込まれる事案であれば、当事者の負担が少ない略式手続が適していると判断されやすくなります。加害者が前科のない初犯で、反省して被害者との示談に応じているような事情も、この方向に働くことがあります。

逆に、死亡事故や重い後遺障害が残る事故、飲酒運転やひき逃げなど悪質性の高い事案では、罰金にとどめず拘禁刑などを科すべきとして、略式ではなく正式裁判が選ばれやすくなります。加害者が事実を否認している場合も、書面だけでは審理できないため正式裁判になります。どの手続きになるかは、検察官が事案ごとに判断します。

略式命令に不服があるとき

略式命令は短期間で決着する反面、書面だけで判断されるため、加害者が言い分を十分に述べられないまま結論が出ることもあります。そのため、内容に納得できないときの救済手段として、正式裁判を求める権利が用意されています。

正式裁判を請求すると、公開の法廷で改めて審理が行われ、加害者は自分の主張を述べる機会を得られます。ただし、正式裁判では略式よりも重い刑が科される可能性もあるため、請求するかどうかは慎重に判断されます。

被害者の立場からは、加害者が正式裁判を選んだ場合、審理が長引くことがある点を知っておくとよいでしょう。とはいえ、刑事手続きの長短は、被害者自身の賠償請求とは別の問題です。賠償は刑事の結論を待たずに、民事として並行して進めることができます。

略式の罰金でも前科はつく

「軽い手続き」でも有罪である

略式起訴は手続きが簡略なため、軽く受け止められがちですが、罰金が確定すれば前科がつきます。前科とは、起訴されて有罪(罰金以上の刑)が確定した記録を指し、略式命令による罰金もこれに含まれます。

これは、行政処分でいう「前歴」とは別の概念です。前歴は免許の点数制度上の記録であり、前科は刑事手続き上の有罪の記録です。略式罰金を納めれば、行政上の処分とは別に、刑事上の前科が残ることになります。

このため、略式手続を提案された加害者が、内容に納得できないのに安易に同意してしまうと、後で前科が残ったことに気づくこともあります。手続きの軽さと、結果の重さは必ずしも一致しない点に注意が必要です。

被害者から見た略式起訴

罰金は賠償ではない

被害者がまず理解しておきたいのは、略式起訴で科される罰金は国に納められるものであり、被害者への賠償ではないということです。加害者が罰金を払っても、その金銭が被害者に渡るわけではありません。

被害者が治療費や慰謝料などの賠償を受けるには、刑事手続きとは別に、加害者本人や加害者の自賠責保険・任意保険に対して民事で請求する必要があります。刑事の罰金と民事の賠償は、まったく別の制度として動いていると考えてください。

一方で、被害者の意向が刑事手続きに影響することもあります。被害者の処罰感情が強いか、加害者との間で示談が成立しているかといった事情は、検察官が起訴・不起訴や手続きの選択を判断するうえでの材料になります。示談の際に加害者を許す意思(宥恕)を示すかどうかも、判断に影響しうるとされています。

交通事故の刑事手続きや賠償で困ったら

賠償の進め方は弁護士に相談

略式起訴は手続きが早く終わる反面、被害者から見ると「加害者がどう処分されたか」が見えにくく、自分の賠償がどう進むのかと切り分けて考える必要があります。罰金が科されても賠償は別であり、被害者は民事で動かなければ損害は回復されません。

賠償の進め方や金額に不安があるとき、相手保険会社との交渉に行き詰まったときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。刑事手続きと賠償の関係を整理したうえで、適正な賠償の見通しを確認して対応を決めると安心です。