交通事故発生時の対応マニュアル

当て逃げの時効|刑事・民事それぞれの期間と被害者の対応

当て逃げの時効|刑事・民事それぞれの期間と被害者の対応

この記事のポイント

  • 当て逃げは、物が壊れただけで加害者が逃げたケース。人がケガをして逃げればひき逃げとして別に扱われる
  • 刑事の公訴時効と、被害者が賠償を求める民事の消滅時効は、期間も起算点も別物
  • 民事の損害賠償請求権は「損害と加害者を知った時」から進むため、犯人が分からない間は時効が進まない
  • 相手が見つからない物損の当て逃げは、自分の車両保険での修理を検討することになる
  • 時効や賠償の見通しで迷ったら弁護士への相談が有効

当て逃げとは|ひき逃げとの違い

物損で相手が逃げたケースを当て逃げという

当て逃げとは、車やガードレールなどの物が壊れる事故を起こした人が、必要な対応をとらずにその場から立ち去ることをいいます。停めていた車にぶつけられて相手が名乗らず走り去った、というように、被害者にとっては相手が誰か分からないまま損害だけが残るのが特徴です。

人がケガをしたり亡くなったりした事故で逃げた場合は、当て逃げではなく「ひき逃げ」として、より重く扱われます。当て逃げはあくまで物の損害にとどまるケースを指すという区別を、まず押さえておきましょう。

被害者として気になるのは、「いつまでに動けば加害者の責任を問えるのか」という時効の問題です。時効には刑事と民事の二つがあり、それぞれ意味も期間も異なります。当て逃げの被害に遭ったときの初動の全般については当て逃げに遭ったときの対応もあわせて確認しておくと、動き方の見通しが立てやすくなります。

時効には「刑事」と「民事」の二種類がある

時効と一口に言っても、当て逃げでは二つの異なる時効を分けて考える必要があります。一つは、加害者を刑事責任に問えるかに関わる公訴時効です。これは国が加害者を処罰できる期間で、被害者が直接コントロールするものではありません。

もう一つは、被害者が加害者に修理費などの損害賠償を請求できる権利に関わる消滅時効です。こちらは被害者自身の権利の問題であり、賠償を受けられるかどうかに直結します。

この二つは期間も起算点も違うため、混同すると見通しを誤ります。次の章で、それぞれの期間と、いつから数え始めるのか(起算点)を整理します。

当て逃げの時効の期間と起算点

刑事と民事を分けて整理する

当て逃げの時効を考えるときは、刑事の公訴時効と民事の消滅時効を分けて理解することが大切です。それぞれの期間と起算点の目安を、表にまとめます。いずれも一般的な目安であり、成立しうる罪や事情によって変わることがあります。

当て逃げの時効の期間と起算点(目安)
区分 期間(目安) 起算点(数え始め)
刑事(公訴時効) 当て逃げで問われる道路交通法違反は比較的軽い罪で、3年が目安 事故・逃走の時(犯罪行為が終わった時)
民事・物損の賠償 損害と加害者を知った時から3年/事故の時から20年 加害者が分かった時(または事故の時)
民事・人身の賠償 損害と加害者を知った時から5年/事故の時から20年 加害者が分かった時(または事故の時)

表のとおり、刑事と民事では数え方がまったく異なります。とくに被害者にとって重要なのは、賠償を求める民事の消滅時効です。

刑事の公訴時効

当て逃げで加害者が問われる罪は、事故の際に必要な措置をとらなかったことや、警察への報告を怠ったことなどの道路交通法違反が中心です。これらは比較的軽い罪に位置づけられ、公訴時効は3年が一つの目安とされます。

公訴時効の起算点は、犯罪行為が終わった時、つまり事故を起こして逃げた時点です。この期間が過ぎると、原則として加害者を刑事責任に問うことが難しくなります。

ただし、当て逃げの態様によって、問われうる罪や時効の長さが変わることがあります。具体的にどの罪が成立し、時効がいつまでかは事案によって異なるため、詳細は警察や専門家に確認するのが確実です。

民事の消滅時効と起算点の注意

被害者が加害者に修理費などを請求する権利は、2020年4月に施行された改正後の民法に沿って考えます。物の損害については、被害者が「損害と加害者の両方を知った時」から3年、または事故の時から20年で時効にかかります。万一ケガを伴っていた場合の人身の損害は、知った時から5年、事故の時から20年です。

ここで重要なのが起算点です。民事の時効は「加害者を知った時」から進むため、当て逃げで犯人が分からない間は、3年(人身は5年)の期間は進行しません。後から防犯カメラや捜査で加害者が判明したときに、そこから数え始めるのが原則です。

つまり、「事故から3年たったからもう請求できない」と早合点する必要はありません。犯人が見つかっていなければ、その時点では時効はまだ進んでいないと考えられます。一方で、加害者が判明したら、そこからは期間が進むため、早めに請求へ動くことが大切です。

相手が見つからないときの対応

物損の当て逃げは自分の車両保険を検討

当て逃げで加害者が特定できない場合、加害者へ賠償を請求することはできません。人身事故であれば、自賠責の枠組みで救済する政府保障事業がありますが、これは人身の損害が対象で、物だけが壊れた当て逃げは対象外です。

そのため、物損の当て逃げで相手が見つからないときは、自分が加入している車両保険で修理することを検討するのが現実的な選択肢になります。車両保険の内容によっては、当て逃げによる損害が補償の対象になることがあります。

ただし、車両保険を使うと、原則として等級が下がり、翌年以降の保険料が上がります。修理費と保険料の上昇分を比べて、使うかどうかを判断するとよいでしょう。利用の可否や条件は契約により異なるため、保険会社に確認してください。

時効の完成が近いときにできること

加害者が判明していて、民事の消滅時効の期間が迫っている場合には、時効の完成を防ぐ手立てがあります。代表的なのは、加害者に対して裁判を起こす(訴えを提起する)方法で、これにより時効の進行が止まり、改めて数え直されます。これを時効の完成猶予・更新といいます。

また、加害者に対して内容証明郵便などで支払いを求める「催告」を行うと、その時から6か月間は時効の完成が猶予されます。ただし、催告だけでは確定的に延びるわけではなく、その6か月の間に裁判上の手続きをとる必要があります。

時効が本当に迫っているのか、どの手段をとるべきかの判断は、専門的な見極めが必要です。残り期間が短いと感じたら、自分だけで抱え込まず、早めに専門家へ相談することが、賠償を求める権利を失わないために大切です。

当て逃げの時効や賠償で困ったら

見通しの確認は弁護士に相談

当て逃げは、加害者が分からないことが多く、時効の数え方も刑事と民事で異なるため、被害者にとって判断が難しい場面が少なくありません。「もう時効だ」と思い込んで請求をあきらめてしまうと、本来受けられたはずの賠償を逃すおそれもあります。

相手が判明して賠償を請求したいとき、時効の起算点や残り期間の見通しが分からないとき、保険の使い方に迷うときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。証拠の整理から時効・賠償の見通しまで踏まえて対応を決めれば、適切な手段を取りやすくなります。