この記事のポイント
- ながら運転とは、スマホ操作・通話・画面注視など、運転に集中していない状態での運転
- ながら運転には行政・刑事・民事の3つの責任が生じ、被害者が関わるのは民事の損害賠償
- 被害者は治療費・通院交通費・休業損害・慰謝料・物損などを請求できる
- 加害者がながら運転だった事実は、過失割合の修正に影響することがある(断定はできない)
- 過失割合や賠償でもめたら弁護士への相談が有効
ながら運転とは何か
運転に集中していない状態での運転
ながら運転とは、スマートフォンの操作や通話、メッセージの確認、カーナビや動画の画面注視など、運転以外の動作に気を取られたまま車を走らせる状態を指します。視線や注意が前方からそれるため、ごく短時間でも重大な事故につながりやすい危険な運転です。時速60キロで走行していれば、わずか2秒の脇見でも車は30メートル以上進んでしまいます。
近年は道路交通法の改正でスマホの「ながら運転」に対する罰則が強化され、取り締まりも厳しくなりました。それでも、信号待ちの惰性でスマホを手に取る、ナビを操作しながら発進する、といった行為は後を絶ちません。
危険性が広く知られている一方で、加害者本人に「少しだけだった」という油断があることが多く、被害につながりやすいのがこの類型の特徴です。
典型的に起こりやすい3つの状況
ながら運転による事故は、注意が前方からそれることで起こります。代表的なパターンを具体的に挙げると、次のような状況です。
ひとつ目は、前方不注視による追突です。スマホを見ている間に前の車が減速・停止していることに気づかず、そのまま突っ込んでしまうケースで、ながら運転の事故ではもっとも多い形です。
ふたつ目は、歩行者や自転車の見落としです。横断歩道を渡る歩行者や、左側を走る自転車に気づくのが遅れ、巻き込みや衝突につながります。三つ目は、信号や標識の見落としで、赤信号や一時停止を見落として交差点に進入し、出会い頭の事故を起こすパターンです。
ながら運転に生じる3つの責任
行政・刑事・民事の責任が重なる
ながら運転で事故を起こした加害者には、性質の異なる3つの責任が生じうる点を押さえておくと、賠償交渉の全体像がつかめます。それぞれ目的も手続きも別物です。
行政上の責任は、運転免許に関する処分です。違反点数の加算や反則金、悪質な場合は免許の停止・取消につながります。刑事上の責任は、国による処罰で、人を死傷させれば過失運転致死傷罪などに問われることがあります。
そして被害者が直接関わるのが、民事上の責任、つまり損害賠償です。行政・刑事の責任が問われるかどうかとは別に、被害者は加害者側へ損害の賠償を請求できます。
3つの責任の整理
| 責任の種類 | 内容(概要) | 被害者との関係 |
|---|---|---|
| 行政上の責任 | 違反点数の加算・反則金、免許停止や取消など | 被害者は直接関与しない |
| 刑事上の責任 | 過失運転致死傷罪などによる処罰 | 被害届・供述で関わることがある |
| 民事上の責任 | 治療費・慰謝料など損害の賠償 | 被害者が請求する中心部分 |
刑事手続きで加害者が処罰されても、それで被害者への賠償が自動的に支払われるわけではありません。賠償は民事の問題として別に進める必要があります。
被害者が請求できる損害の内訳
ケガがある場合に請求できるもの
ながら運転による事故でケガを負った場合、被害者はその内容に応じてさまざまな損害を請求できます。代表的なのは、治療にかかった治療費と、通院のための通院交通費です。これらは実際にかかった費用が基本になります。
仕事を休まざるを得なかった場合は、休んだことによる収入の減少を休業損害として請求できます。自営業者や主婦(主夫)でも、一定の考え方に基づいて認められることがあります。
そして、ケガをしたことによる精神的・肉体的な苦痛に対しては、慰謝料を請求できます。入通院の期間や程度に応じて算定されるのが一般的です。
後遺障害が残った場合・物損
治療を続けても症状が残り、後遺障害と認定された場合には、後遺障害に対する慰謝料や、将来得られたはずの収入の減少分である逸失利益が問題になります。これらは金額が大きくなりやすく、算定も複雑になるため、詳細は専門的な判断が必要になります。
車の修理費や、壊れた所持品などの物的損害も、物損として請求の対象です。買い替えが必要なほどの損傷であれば、その評価をめぐって争いになることもあります。
慰謝料には自賠責保険の基準、任意保険会社の基準、過去の裁判例に基づく基準があり、裁判例に基づく基準で算定したほうが金額が高くなる傾向があります。ただし、常に金額が上がるわけではなく、ケガの程度や通院期間に応じて結果は変わります。
ながら運転は過失割合に影響することがある
悪質性が修正要素になりうる
加害者がながら運転をしていたという事情は、前方不注視の程度が大きいとして、過失割合の修正に影響することがあります。たとえば追突事故では、もともと追突した側の過失が大きいうえに、ながら運転という著しい前方不注視が加わることで、加害者側の過失がより重く評価される方向に働きうる、という考え方です。
ただし、過失割合は事故全体の状況から総合的に判断されるため、ながら運転であれば必ず加害者の過失が増える、と断定はできません。あくまで修正の一要素であり、ケースにより変動します。
| 場面 | 過失割合への影響(目安) |
|---|---|
| 追突事故で加害者がスマホ操作中 | 加害者側の過失がより重く見られる方向に働きうる |
| 歩行者・自転車の見落とし | 前方不注視として加害者に不利な要素となりうる |
| 被害者側にも信号無視等の落ち度 | 被害者側にも過失がつき、相殺される |
上の内容は目安で、ケースにより変動します。実際にはドライブレコーダーの映像や双方の動きから個別に判断されます。
事故直後に被害者がとるべき行動
ながら運転を疑う事故でも、被害者がとるべき初動は他の事故と共通します。まずは安全な場所に移動し、ケガ人がいれば救急へ連絡したうえで、警察(110番)に届け出ます。これにより交通事故証明書が取得でき、賠償請求の基礎になります。
次に、相手の連絡先・車両情報・保険会社を控え、現場や損傷箇所をスマホで撮影しておきます。可能であれば、事故直後の加害者の様子(スマホを手にしていたなど)も記録やメモに残しておくと、後の交渉で役立つことがあります。
痛みが軽くても、その日のうちか翌日には整形外科を受診し、診断書をもらっておきましょう。受診が遅れると、事故とケガの因果関係を疑われ、賠償の対象にされにくくなることがあります。
立証の難しさと揉めやすいポイント
加害者が「ながら運転」を認めないことが多い
ながら運転の事故で難しいのは、加害者がスマホを使っていた事実を認めないことが多い点です。手元の操作は外から見えにくく、本人が否定すれば証明のハードルが上がります。「前を見ていた」と主張されると、ながら運転を前提とした過失割合の主張が通りにくくなります。
そのため、ドライブレコーダーの映像、同乗者や周囲の目撃証言、状況によっては通話・通信の記録などが手がかりになります。事故直後に確保できる情報は、できるだけ早く押さえておくことが大切です。
相手保険会社との間では、過失割合だけでなく、治療費の打ち切り時期や慰謝料の水準をめぐっても見解が分かれやすく、被害者本人だけでの交渉は不利になりがちです。
ながら運転の事故でもめたら
過失割合・賠償は弁護士に相談
ながら運転の事故は、加害者がその事実を認めず、過失割合や賠償額で争いになることがあります。被害が大きい場合は賠償額の算定も複雑になり、当事者だけで適正な金額を見極めるのは簡単ではありません。
提示された過失割合や賠償額に納得できないときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。証拠の評価や見通しを確認したうえで対応を決めると、不利な示談を避けやすくなります。