この記事のポイント
- 被害者請求とは、被害者が加害者側の自賠責保険会社へ直接、損害の支払いを求める手続き
- 加害者の協力を待たずに進められ、加害者が任意保険に入っていない場合などに役立つ
- 請求には支払請求書・交通事故証明書・診断書・診療報酬明細書などの書類が必要
- 当面の費用は仮渡金で先に受け取れる。請求権の時効は原則3年なので早めの対応が大切
- 必要書類や後遺障害の立証でつまずいたら弁護士への相談が有効
自賠責保険の被害者請求とは
被害者が直接請求できる仕組み
自賠責保険への被害者請求とは、交通事故の被害者が、加害者側が加入している自賠責保険会社に対して、直接、損害の支払いを求める手続きです。自動車損害賠償保障法(自賠法)16条にもとづく被害者の権利で、加害者を通さずに自分から請求できる点に特徴があります。
自賠責保険は、すべての自動車やバイクに加入が義務づけられた強制保険で、交通事故の被害者を最低限救済することを目的としています。本来は加害者が被害者に賠償し、その分を自賠責保険から受け取るのが基本の形ですが、それでは加害者が動かないと被害者がいつまでも支払いを受けられません。
そこで、被害者の側から自賠責保険会社へ直接請求できる道が用意されています。これが被害者請求です。加害者が賠償に応じない場合や、連絡が取りにくい場合でも、被害者が自分の判断で手続きを進められる点が、大きな意味を持ちます。
加害者請求との違い
自賠責保険への請求には、被害者請求のほかに、加害者側がいったん被害者へ支払ったうえで自賠責保険会社に請求する「加害者請求」があります。どちらの方式で進めるかによって、誰が手続きの主体になるかが変わります。
被害者請求は、被害者が主体となって書類をそろえ、直接請求します。加害者の協力を待つ必要がない一方、書類の準備は自分で行うことになります。加害者請求は加害者が主体ですが、加害者が動かなければ進みません。
| 項目 | 被害者請求 | 加害者請求 |
|---|---|---|
| 請求する人 | 被害者本人 | 加害者(賠償を支払った側) |
| 加害者の協力 | 不要 | 必要 |
| 向いている場面 | 加害者が任意保険未加入・非協力のとき | 加害者が賠償に応じているとき |
加害者が任意保険に加入していない場合や、賠償に非協力的な場合には、被害者請求が現実的な選択肢になります。自分のペースで手続きを進められるため、被害者の立場では押さえておきたい仕組みです。
被害者請求の手続きの流れと必要書類
請求から支払いまでの流れ
被害者請求は、おおまかに「書類をそろえる」「自賠責保険会社へ請求する」「調査を経て支払いを受ける」という流れで進みます。まず、加害者が加入している自賠責保険会社を確認し、その会社へ請求することになります。保険会社は交通事故証明書などで確認できます。
次に、必要な書類を集めて請求します。書類が保険会社に届くと、損害保険料率算出機構の調査事務所による調査が行われ、事故とけがの関係や損害の内容、金額が確認されます。後遺障害がある場合は、この調査で等級の認定も行われます。
調査の結果にもとづいて、自賠責保険会社から支払いが行われます。傷害分の支払限度額は被害者1名あたり120万円で、この範囲で治療費・休業損害・慰謝料などがまかなわれます。後遺障害や死亡の場合は、別の限度額が適用されます。
主な必要書類
被害者請求では、損害の内容を裏づける書類をそろえる必要があります。事案によって求められる書類は変わるため、詳細は請求先の自賠責保険会社に確認してください。
| 書類 | 役割 |
|---|---|
| 保険金(損害賠償額)支払請求書 | 請求の基本書類 |
| 交通事故証明書 | 事故の発生を証明する |
| 診断書・診療報酬明細書 | けがの内容と治療費を示す |
| 休業損害証明書 | 仕事を休んだ収入減を示す |
| 印鑑証明書 | 請求者本人の確認 |
| 後遺障害診断書(後遺障害がある場合) | 後遺障害の内容を示す |
書類の不備があると、調査や支払いが遅れます。とくに診療報酬明細書や休業損害証明書は、勤務先や医療機関に作成を依頼する必要があるため、早めに動くことが大切です。
仮渡金と時効に注意
当面の費用は仮渡金で先に受け取れる
被害者請求の支払いは、調査を経てから行われるため、けがをした直後の治療費や生活費にすぐ充てられるわけではありません。そこで、当面の出費に備えて、損害賠償額が確定する前に一定額を先に受け取れる「仮渡金」の制度があります。
仮渡金は、最終的に支払われる損害賠償額の一部を、先に受け取る位置づけです。受け取った額は、後で確定する損害賠償額から差し引かれます。事故直後にまとまった出費があるときの、当座の助けになる仕組みです。
利用できる金額や手続きの細かな扱いは、けがの程度などによって異なります。仮渡金を使いたい場合は、請求先の自賠責保険会社に手続きを確認するとよいでしょう。
請求権の時効は原則3年
被害者請求には期限があります。請求権の時効は原則として3年とされており、これを過ぎると請求できなくなるおそれがあります。せっかくの権利を失わないよう、期限の管理が重要です。
時効の起算点は、損害の種類によって異なるとされています。一般に、傷害分は事故が起きた日から、後遺障害分は症状固定の日から、死亡分は死亡した日から数え始めると考えられています。治療が長引くケースなどでは、起算点の考え方に注意が必要です。
時効が迫っている場合や、起算点の判断に迷う場合は、早めに対応することが欠かせません。手続きに時間がかかる書類もあるため、期限ぎりぎりに動き出すのは避けたいところです。なお、後遺障害が残ったときの被害者請求の進め方については被害者請求による後遺障害の手続きもあわせて確認してください。
つまずきやすい点と被害者請求の意義
よくあるつまずきと注意したいこと
被害者請求で最も多いつまずきが、書類の不備や不足です。必要な書類が一つでも欠けると、調査や支払いが止まってしまいます。何が必要かを最初に確認し、計画的にそろえることが、スムーズに進めるコツです。
次に注意したいのが、時効の見落としです。治療や示談交渉が長引くうちに、気づけば3年が近づいていた、ということが起こり得ます。事故からの経過期間を意識し、早めに準備を始めましょう。
後遺障害の立証も、つまずきやすいポイントです。後遺障害の等級は、提出した診断書や検査結果をもとに判断されます。症状を裏づける資料が不十分だと、本来認められるはずの等級が認められないこともあります。自己判断で書類を簡単に済ませてしまうのは避けたいところです。
被害者請求が役立つ場面
被害者請求は、加害者が任意保険に加入していない事故で、とくに大きな意味を持ちます。任意保険会社が窓口になってくれないケースでも、被害者が自分で自賠責保険から最低限の補償を受けられるからです。
また、加害者側の任意保険会社が提示する内容に納得できないとき、まず自賠責分を被害者請求で確保し、不足分を別途交渉する、という進め方をとることもあります。手元の補償を先に固められる点が、被害者の安心につながります。
一方で、自賠責はあくまで最低限の補償であり、限度額を超える損害は別に加害者側へ請求する必要があります。被害者請求を入り口としつつ、損害全体をどう回復するかを見通しておくことが大切です。
自賠責の請求や賠償で困ったら
手続きや賠償は弁護士に相談
被害者請求は被害者の大切な権利ですが、書類の準備や後遺障害の立証、時効の管理など、自分だけで進めるには負担の大きい場面もあります。とくに後遺障害が残るケースや、損害が自賠責の限度額を超えるケースでは、進め方の見通しが結果を左右します。
必要書類のそろえ方に迷うとき、後遺障害の等級や賠償額に納得できないときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。被害者請求と加害者側への賠償請求の両面から見通しを確認したうえで対応を決めれば、受け取れる補償を漏らさず進めやすくなります。