交通事故発生時の対応マニュアル

危険運転致死傷罪とは|過失運転致傷との違いと重い刑罰

危険運転致死傷罪とは|過失運転致傷との違いと重い刑罰

この記事のポイント

  • 危険運転致死傷罪は、飲酒や著しい高速度など特に危険な運転で人を死傷させたときに成立する重い罪
  • 過失運転致死傷罪が「不注意」を処罰するのに対し、危険運転致死傷罪はより悪質・危険な運転を対象とする
  • 刑罰は過失運転致死傷罪より格段に重く、負傷で15年以下の拘禁刑、死亡で1年以上の有期拘禁刑など
  • 成立要件が厳格で、過失運転にとどまるか危険運転になるかは捜査・裁判で大きく争われる
  • 被害者は処罰感情の表明や賠償請求で関与できる。対応に迷ったら弁護士への相談が有効

危険運転致死傷罪とは

特に危険な運転を重く処罰する罪

危険運転致死傷罪は、自動車の運転による特に危険な行為で人を死傷させた場合に成立する罪で、自動車運転処罰法(自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律)に定められています。通常の不注意による事故を処罰する過失運転致死傷罪とは別に、悪質・危険な運転を強く非難するために設けられた類型です。

この罪が問題になるのは、飲酒運転やあおり運転、極端な速度超過など、結果の重大さに加えて運転態様そのものが強く責められるケースです。ニュースで大きく報じられる重大事故の多くで、この罪が成立するかどうかが焦点になります。

被害者やその家族にとっては、加害者がどの罪で処罰されるかは大きな関心事です。同じ「死傷させた」結果でも、過失運転致死傷罪と危険運転致死傷罪では、加害者に科される刑の重さが大きく変わるためです。

2条の類型(特に危険な運転)

自動車運転処罰法2条は、特に危険性の高い運転の類型を列挙しています。代表的なものとして、アルコールや薬物の影響で正常な運転が困難な状態での走行、進行を制御することが困難なほどの高速度での走行、運転技能のない無資格での走行などがあります。

さらに、人や車の通行を妨害する目的での割り込みや幅寄せ(いわゆるあおり運転に通じる類型)、赤信号をことさらに無視して高速度で進入する行為、通行禁止道路を高速度で走行する行為なども含まれます。これらはいずれも、運転者が危険を認識しながらあえて行う点で悪質性が高いとされます。

これらの類型に当てはまり、その結果として人を死傷させた場合に、2条の危険運転致死傷罪が成立し得ます。どの行為がこの類型に該当するかは、運転の具体的な状況に照らして判断されます。

3条の類型(影響を受けた状態での運転)

自動車運転処罰法3条は、2条より一段階手前の状態を対象にしています。具体的には、アルコールや薬物の影響により、正常な運転に支障が生じるおそれがある状態で走行し、その影響により正常な運転が困難な状態に陥って人を死傷させた場合などです。

また、一定の病気の影響により正常な運転に支障が生じるおそれがある状態での運転も、この3条の対象に含まれます。2条が「正常な運転が困難な状態」を要求するのに対し、3条は「支障が生じるおそれ」という、やや緩やかな要件で危険運転を捉えようとするものです。

3条の刑罰は2条より軽く設定されていますが、それでも過失運転致死傷罪より重い扱いです。飲酒運転による事故では、この2条と3条のどちらに当たるか、あるいは過失運転致死傷罪にとどまるかが、しばしば争点になります。

過失運転致傷との違いと刑罰の重さ

刑罰を比較する

危険運転致死傷罪の最大の特徴は、刑罰の重さです。過失運転致死傷罪が7年以下の拘禁刑(旧・懲役刑)または100万円以下の罰金であるのに対し、危険運転致死傷罪には罰金刑がなく、拘禁刑のみが定められています。下の表で両者を比較します。

危険運転致死傷罪と過失運転致死傷罪の刑罰の比較(目安)
罪名 刑罰
危険運転致死傷罪(2条) 負傷は15年以下の拘禁刑、死亡は1年以上の有期拘禁刑(1年以上20年以下)
危険運転致死傷罪(3条) 負傷は12年以下の拘禁刑、死亡は15年以下の拘禁刑
過失運転致死傷罪(5条) 7年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金(情状により刑の免除も)

このように、危険運転致死傷罪には罰金で済む選択肢がなく、拘禁刑が前提です。過失運転致死傷罪では略式起訴による罰金で終わることもありますが、危険運転致死傷罪ではそうした処理は想定されていません。罪名が一つ変わるだけで、加害者の刑事責任は大きく変わります。

故意的な危険運転か、不注意か

両罪を分ける本質的な違いは、運転態様の悪質性にあります。過失運転致死傷罪は、前方不注視や安全確認の怠りといった「不注意(過失)」を処罰する罪です。多くの一般的な人身事故は、この過失運転致死傷罪で処理されます。

これに対して危険運転致死傷罪は、飲酒・著しい高速度・あおり運転など、危険な行為をあえて行った点を強く非難する罪です。「うっかり」ではなく、危険を生み出す運転そのものが問われるため、量刑も格段に重くなります。

被害者側から見れば、加害者の運転がどちらに当たるかは、処罰の重さを左右する重要な分かれ目です。飲酒や暴走など悪質な事情があった場合は、その事実を捜査機関に正確に伝えることが、適正な処罰につながります。

危険運転致死傷罪は成立のハードルが高い

立証の難しさが争点になる

危険運転致死傷罪は刑が重いぶん、成立要件が厳格に定められており、立証のハードルが高いという特徴があります。たとえば「正常な運転が困難な状態」や「制御困難な高速度」といった要件は、客観的な証拠で裏づける必要があります。

そのため、明らかに危険な運転に見えても、要件を満たす証拠が十分でないとして、過失運転致死傷罪での起訴にとどまることがあります。被害者や遺族にとっては、結果の重大さに比べて加害者の処罰が軽く感じられ、納得しにくい場面が生じやすい部分です。

この成立の可否をめぐっては、ドライブレコーダーの映像、事故現場の状況、加害者の飲酒検知の結果、速度を示す記録などが重要になります。どの罪で起訴するかは検察官が判断しますが、被害者側が把握している事実や証拠を提供することが、判断材料を充実させることにつながります。

被害者ができること

処罰感情の表明と刑事手続きへの関与

危険運転による重大事故では、被害者や遺族が刑事手続きに関与できる場面があります。まず、捜査段階では、被害の実情や加害者への処罰感情を、供述や上申書という形で捜査機関に伝えることができます。これらは、起訴の判断や量刑に影響し得る材料です。

公判(裁判)段階では、一定の重大事件について被害者参加制度を利用できる場合があります。被害者参加人として法廷で意見を述べたり、加害者に質問したりすることが認められることがあり、被害者の声を裁判に反映させる手段になります。

また、検察官に対して、把握している事実や厳正な処罰を望む気持ちを伝えることも考えられます。こうした関与をどう進めるかは専門的な判断を要するため、早い段階で弁護士に相談しておくと、手続きの見通しが立てやすくなります。

賠償は刑事とは別に民事で進める

注意したいのは、加害者が刑事責任を問われることと、被害者が賠償を受けることは別の問題だという点です。加害者が重い刑を受けても、それによって治療費や慰謝料が自動的に支払われるわけではありません。賠償は、民事の損害賠償請求として別途進める必要があります。

危険運転による事故は被害が重く、後遺障害や死亡に至ることも少なくありません。そのため、賠償額も高額になりやすく、相手側との交渉も複雑になりがちです。治療費、休業損害、慰謝料、後遺障害が残った場合の逸失利益など、請求できる項目は多岐にわたります。

慰謝料の算定基準には、自賠責保険の基準・任意保険会社の基準・過去の裁判例をもとにした基準の3種類があり、裁判例をもとにした基準がもっとも高い水準になりやすいとされています。ただし、どの事案でも金額が上がるとは限らず、被害の程度によって結果は変わります。重い被害ほど、適正な賠償額を見極めることの重要性が増します。

危険運転の事故で困ったら

刑事も賠償も弁護士に相談

危険運転致死傷罪が問題になるような事故は、加害者の処罰をめぐる刑事手続きと、被害者の賠償をめぐる民事の交渉が同時に進み、被害も重大になりがちです。どの罪で起訴されるか、被害者としてどう関与できるか、賠償をどう請求するかなど、判断に迷う場面が多いはずです。

加害者の処罰や提示された賠償額に納得できないとき、刑事手続きへの関与を考えているときは、交通事故にくわしい弁護士に相談することをおすすめします。刑事と民事の両面から見通しを確認したうえで対応を決めれば、被害者として取り得る手段を漏らさず進めやすくなります。