交通事故の示談交渉に保険会社が乗り出してくるのはなぜ?
この記事のポイント
- 任意保険の対物賠償責任保険や対人賠償責任保険には、示談代行サービスがついている
- 自動車保険会社は、基本的に加害者の代理人である
- 自動車保険と示談交渉するときには、冷静に対応すること、交通事故の賠償金計算についての最低限の知識を身に付けておくこと、納得できないときには相手から提案された示談内容を受け入れないことが大切
- 自分の過失割合が0の場合や、相手方が無保険(任意保険に未加入)の場合、保険会社による示談代行が行われず本人対応になる
- 有利に示談交渉をすすめたいなら、治療を最後まで行うこと、後遺障害の等級認定を確実に行うこと、弁護士に対応を依頼することが有効
目次
交通事故の示談交渉とは?
交通事故の被害に遭ったら、いろいろな損害が発生します。これらの損害については、相手に支払い請求しないといけません。そのためには、まずは相手との話合いにより、賠償金の金額や支払い方法を決めます。このように、賠償金の支払いを決定するための話合いのことを「示談交渉」と言います。
交通事故では、多くのケースで被害者と加害者の双方が任意保険に加入しており、そのようなケースでは、保険会社同士が示談交渉を行うことが普通です。示談交渉によって、賠償金の項目と計算方法、過失割合が決定されます。
示談ができたら示談書を作成する
示談交渉によってお互いが合意したら賠償金の金額が確定します。すると、合意した内容で示談書を作成します。このとき、保険会社から、内容が記入してある示談書が送付されてきます。被害者がその内容に納得したら、示談書に署名押印をして示談書を返送します。すると、まとめて示談金(賠償金)を受けとることができます。
示談交渉に失敗するとどうなるの?
それでは、示談交渉に失敗するとどうなるのでしょうか?もし被害者が非常に不利な内容で示談をしてしまった場合には、示談がその内容で確定してしまうため、受けとることができる賠償金の金額が大きく減ってしまいます。たとえば、本来なら後遺障害が残っていて500万円の賠償金の請求ができるケースでも、示談交渉に失敗すると100万円しか受けとれなくなることもあります。
また、示談交渉をしてもお互いに意見が合わず、示談が成立しないケースもあります。この場合には、示談では賠償金の金額を決めることができないので、調停やADR、裁判などの別の手続きを利用して賠償金の請求をしなければなりません。このように、示談交渉に失敗すると、いろいろな不利益があるので、示談交渉をするときには、正しい対処方法を知って、上手に対処する必要性が高いです。
保険会社が示談交渉をする理由
ところで、交通事故の示談交渉をするとき、多くのケースでは被害者と加害者が直接やり取りすることはありません。保険会社が乗り出してくるので、基本的には保険会社を通じて交渉をすることになります。このように、保険会社が示談交渉に乗り出してくるのは、どうしてなのでしょうか?また、このことに問題がないのかも知っておくと役立ちます。そこで以下では、交通事故の保険会社の役割と、示談交渉に乗り出してくる理由について、説明します。
そもそも任意保険とは?
任意保険とは
そもそも、示談交渉に乗り出してくる自動車保険とは、どのようなものなのでしょうか?これは、自動車の運転者が自主的に加入する保険です。自動車を運転する際には、交通事故に遭うおそれがあり、その場合には、被害者に莫大な損害賠償金を支払わないといけなくなる可能性もあります。一般ではそのようなお金を支払うことが難しいので、ドライバーは自動車保険に加入しています。
任意保険に加入する理由
そして、自動車保険には自賠責保険と任意保険があります。自賠責保険とは、法律上加入が義務づけられている保険で、加入しないと罰則もあります。ただし、自賠責保険の限度額は非常に低いので、限度額を超える金額の賠償金が発生してしまうと、加害者は自分でその分の賠償金を支払わなければなりません。そうした支払いができないため、自己破産しなければならないケースもでてきます。
そこで、そのような状況に陥らないようにするため、多くのドライバーは別途自分の選択で自動車保険に加入しています。この場合の自動車保険は、加入が任意のため、「任意保険」と呼ばれます。世間一般で「自動車保険」と言うときには、この「任意保険」を指すことが多いです。そして、任意保険では、相手に発生した人身損害と物的損害について、保険会社が支払をしてくれる保険に加入することができます。それぞれ、対人賠償責任保険、対物賠償責任保険と言います。これらに加入していると、加害者になったときに自腹で賠償金を支払わなくて良くなるので、加害者にとてもメリットのある保険です。
これらの対人対物賠償責任保険には、任意保険の「示談代行サービス」がついているのです。
任意保険の示談代行サービスとは?
加害者が任意保険に加入しているとき、保険会社が示談交渉に乗り出してくるのは、任意保険に「示談代行サービス」がついているからです。示談代行サービスとは、自動車保険が、保険加入者の代わりに被害者と示談交渉をしてくれるサービスのことです。自動車保険で対人対物賠償責任保険に加入している場合、加害者が被害者に支払う賠償金は、自動車保険会社が支払うことになります。そこで、賠償金がいくらになるかということは、自動車保険が大きな利害関係を持つことになります。そこで、自動車保険が代わりに示談交渉をするサービスをつけています。これが、示談代行サービスです。
交通事故の示談代行サービスは、加害者になったときに、自分の自動車保険会社が代わりに被害者と交渉をしてくれるサービスです。
示談代行サービスのメリット
それでは、自動車保険の示談代行サービスには、どのようなメリットがあるのでしょうか?
これは加害者にとって非常に大きなメリットがあります。まず、自分で示談交渉をしなくて良くなるので、手間が省ける点が大きなメリットです。また、自動車保険により、相手に対して確実に支払をしてもらえるので、加害者自身が賠償金支払いの負担をする必要がありません。
被害者にとっても、一定のメリットがあります。加害者と直接やり取りをするとなると、お互いに素人なため、どのように示談を進めていって良いかがわからないことが多くなりますが、プロの保険会社が間に入ってくれることで、スムーズに示談交渉が進みます。また、相手に保険会社がついていたら、確実に示談金(賠償金)の支払いを受けられるので、賠償金が支払われないというリスクを避けることができます。
このように、自動車保険の示談代行サービスは、被害者にとっても加害者にとっても、一定のメリットがあるものです。
示談代行サービスのデメリット
それでは、示談代行サービスにデメリットはあるのでしょうか?
まず、加害者側から見たデメリットを見てみましょう。加害者にとって、デメリットはほとんどありませんが、たまに示談交渉を任せきりにしていると、自分の意図とは異なる方向で示談が進んでいってしまうこともあるので、注意が必要です。
また、被害者側にとって、示談代行サービスは不利益に働くことが多いです。被害者は1人の素人の個人であるのに対し、相手は自動車事故の扱いになれているプロの集団であり、大企業ですから、その力の差は歴然としています。そこで、被害者が示談交渉に臨むと、どうしても被害者の立場が不利になってしまうことが多いのです。被害者が相手の保険会社と示談交渉をするときには、特に不利にならないように十分注意しながら手続きを進めていく必要があります。
加害者側も、示談交渉を任せきりにしない
次に、自動車保険の示談代行サービスを利用する際の注意点をご説明します。まずは、加害者側の注意事項を確認します。加害者の場合、対人対物賠償責任保険に加入していたら、基本的に自動車保険が示談交渉に対応してくれて、すべての必要な手続きをしてくれるので、加害者自身は何もしなくても良い状態になります。
しかし、実際に何もせずに放置していると、問題が起こることもあります。具体的には、被害者の御見舞にも行かず何の連絡も入れないでいると、相手から「不誠実」と思われてしまうことが多いです。このように、いったん被害者の心情が悪くなってしまったら、相手がなかなか示談に応じてくれなくなって示談交渉が長引いてしまいますし、場合によっては裁判になる可能性も出てきます。
また、交通事故が刑事事件になった場合には、被害者による被害感情が情状に大きく影響します。被害者が「許します」とか「寛大な処分をお願いします」と言ってくれていたら、刑を軽くしてもらえる可能性が高くなりますが、反対に「厳罰を与えて下さい」などと言われてしまったら、刑がかなり重くなります。そこで、刑事事件でなるべく有利に手続きを進めたい場合には、被害者の被害感情を軽くしておくことが必要です。ここで、一度も御見舞に行っておらず、保険会社にまかせきりにしていた、ということになると、被害者の被害感情が厳しくなり、情状が悪くなって刑事責任が重くなってしまうおそれがあります。
このようなことを考えると、たとえ示談代行サービスがついていても、加害者として最低限の誠意を示しておくことが大切です。
示談交渉の心得
次に、被害者が自動車保険による示談代行を受ける際の注意点を説明します。
相手の言うことを鵜呑みにしない
この場合、とにかく相手の言うことを鵜呑みにしない姿勢が重要です。相手方は保険会社であり、毎日のように膨大な数の交通事故を処理しており、自社内にマニュアルも整備されています。担当者も専門的な教育を受けており、専門的な知識も豊富ですし、交渉にも慣れています。そこで、相手がしろうとの被害者の場合には、自社に有利になるような条件を一方的に突きつけてくることがあります。ところが、こうした場合、被害者は「相場」というものがわからないので、「それでいいか」と思って受け入れてしまいがちです。そうなると、本来請求できるはずの賠償金の金額よりも大きく減ってしまうのです。
たとえば、過失割合について、本来は加害者と被害者の割合が1:9のケースでも、相手の保険会社は平気で3:7などと言ってくることがあります。このとき、被害者が納得してしまったら、賠償金額が3割カットになってしまうので、本来の1割カットのケースと比べて大きく賠償金が減ります。
以上より、被害者が自分一人で対応する場合、相手の言うことをそのまま受け入れるのではなく、本当にそれでいいのかよく検討してから返答をする姿勢が重要です。
相手に構えすぎない、攻撃的にならない
示談交渉をするとき、相手の自動車保険に対し、必要以上に構えてしまったり攻撃的になってしまったりする人がいます。相手の言うことを一言一句疑ってかかったり、加害者に対する憎しみの気持ちを相手の保険の担当者にぶつけてしまったりするのです。しかし、このような対応をしても、問題の解決にはつながりません。
示談交渉を有利にすすめるには、相手の言うことを疑うのも良いですが、まずは自分で正しい知識を仕入れて自分の主張を組み立てることが大事です。そうしないと、話が前に進みません。たとえば、相手から話があるたびに「それはダメ、それもダメ」などと言っていても、「ではどうしたいのですか?」と聞かれたとき、「わからない」というのでは話が進まなくなってしまいます。
また、相手に対して必要以上に攻撃的になる必要はありません。相手は加害者ではなく、本来事故とは無関係な保険の担当者であり、保険会社の1サラリーマンに過ぎません。そのような人に対してどれだけ憤りをぶつけても何もならないことは明白です。むしろ、無駄な時間が経過して示談が成立せず、賠償金の支払いも受けられないので、よけいにイライラがつのるだけです。
賢く示談交渉をしたいなら、感情を抑えてビジネスライクに必要な事項のやり取りのみを行うべきです。
最低限の知識を身につける
被害者が相手の保険会社と示談交渉をするときには、知識を身に付けることが重要です。もともと相手は巨大企業で、交通事故のプロの会社ですから、交通事故の賠償金計算については豊富な知識を持っています。これに対し、被害者は素人でほとんど知識がないことから、大きな力の差が発生してしまいます。これによって、被害者が示談交渉で不利になることが多いのです。
そこで、自分で示談交渉をするときには、交通事故の賠償金計算方法の基本を調べて理解することが必要です。たとえば、以下のようなことが重要事項となります。
- 賠償金の計算方法は弁護士・裁判基準を使う
- 過失割合は裁判所の認定基準に適合したものを適用する
- 後遺障害の等級認定を確実に行う
- 休業損害や逸失利益の基礎収入を適切に計算する
もし、自分ではよくわからない場合には、交通事故に強い弁護士に相談することをおすすめします。
納得できない場合には了承しない
被害者が相手と示談交渉をするとき、相手から示談金額の提案を受ける機会があるものです。このとき、被害者としては、「それは少ないのではないか」と感じることがありますが、「仕方ないか」と思って受け入れてしまうケースも多いです。しかし、相手の提示した示談金に納得できないのであれば、示談を受け入れてはいけません。
実際に、相手が提示してくる金額は、低額な任意保険基準で計算されていることが多く、そもそもの金額が裁判基準より大きく減らされていることが多いです。また、被害者に大きく過失割合を割り当てることにより、さらに支払い額を減らされていることもよくあります。納得できないのに無理に示談してしまったら、本来受け取れるよりもかなり低い金額でしか賠償を受けられず、大変な損をしてしまうことになります。
そこで、被害者が自分で示談交渉をしているときに相手から示談金の提示を受けたら、すぐに受け入れるのではなく、まずは弁護士に相談してみることをおすすめします。弁護士であれば、裁判基準による適正な賠償金の計算方法をよく知っているので、それにあてはめて妥当な賠償金の金額を計算して提示してくれます。
保険会社は加害者の味方であることを理解する
被害者が保険会社と示談交渉をするとき、相手は加害者の味方であると言うことを忘れてはなりません。そもそも示談代行サービスは、加害者が加入している対人対物賠償責任保険に附随するもので、加害者が相手に支払う賠償金がある場合にその支払金額を決めるためのものなので、加害者のためのサービスだからです。被害者としては、相手が保険会社なので信頼してしまう人もいますが、保険会社はあくまで相手の言い分を代弁しています。
また、自分にも過失割合がある場合には、自分の保険会社が間に入ってくれますが、この場合の自分の保険会社も、被害者を守るという立場ではなく、加害者的立場で相手に支払う賠償金を決めるために間に入っているものです。そこで、自分の保険会社であっても、完全に自分を守ってくれて、被害者側の立場に立ってくれるわけではないので、注意が必要です。
示談交渉をするときに自分の自動車保険に頼れる部分には限度があるので、それを補うためには自分で知識をつけたり弁護士に相談したりする必要があります。
保険会社が示談交渉を急いでくることがある
被害者が自分で示談交渉をしているとき、相手が示談交渉を急いでいるように感じることがあります。相手がしきりに示談を急かしてきたら、どのように対処すれば良いのでしょうか?そもそもどうして相手が示談交渉を急ぐのか、そのわけを知っておきましょう。
加害者の刑事裁判の都合が影響している
交通事故の加害者は、事故の態様や結果によって、刑事裁判になることがあります。この場合、加害者には過失運転致傷罪や危険運転致傷罪が適用されて、懲役刑や罰金刑などの刑罰が科されます。そこで、相手としては、なるべく刑を軽くしたいと考えます。刑事事件で被害者がいる場合には、被害者と示談交渉ができていると、情状が良くなって刑が軽くなります。そこで、加害者が起訴されて刑事裁判になると、なるべく刑を軽くするために示談を急いでくることがあるのです。
示談を急かされた場合の対処方法
このような場合、被害者としても提示された示談金の金額に納得できて、それが適正な金額なのであれば、示談をしてしまってもかまいません。ただ、まだ治療が継続しており、いつまで治療が必要になるのかがわからない場合や、どのような後遺障害が残るのかがまったくわからないようなケースでは、早期に示談交渉に応じてしまうと、請求できるべき賠償金を請求できなくなってしまうおそれがあります。
加害者に与える刑罰との兼ね合いで判断する
また、相手の態度が非常に悪いなどの理由で、相手の刑事責任を軽くすることがどうしても受け入れられないケースもあるでしょう。そうした場合、刑事裁判が終わるまで示談が成立しなければ、相手の刑が軽くなることはありません。示談によって情状として斟酌されるためには、裁判が結審するまでの間に示談が成立する必要があるからです。裁判の終了後に示談が成立したとしても、相手の刑が軽くなることはありません。相手を許せないときには、相手の裁判が終了してから示談を成立させたら良いのです。反対に、相手に同情的な場合には、早めに示談を成立させてあげるという選択肢もあり得ます。
以上のように、相手との示談交渉に応じるべきかどうかは、ケースバイケースで対応すべきです。自分ではどう対応すべきかわからない場合には、弁護士に相談に行ってアドバイスをもらうことをおすすめします。
保険会社内部事情について
保険会社と示談交渉をするときには、保険会社の内部事情についてもある程度知っておくと役立ちますので、以下でご紹介します。
同じ保険会社だとどうなるのか?
交通事故が起こったとき、加害者の保険会社と被害者の保険会社が同じであることがあります。とくに最近では、保険会社の合併が進んだため、昔より同じ保険会社同士の示談交渉が行われることが増えています。必ずではありませんが、同じ保険会社同士の場合、なれあいが起こる可能性があります。加害者と被害者が同じ保険会社の場合、担当者も同じ保険会社ですから、支払い額をなるべく減らすために適当なところで示談してしまおう、ということになりがちです。
もちろんこのようなことは公にはされないのでわからないことですが、被害者の立場としては重大なことなので、示談交渉の行方や結論について、しっかりと監督しておく必要があります。
保険会社が示談を早く終わらせたい理由
保険会社には、示談交渉を早く終わらせたい理由があることも、知っておくべきです。まず、示談交渉が長引くと、支払いが必要になる示談金の金額が高額になりがちです。交渉期間が長くなると、被害者は自分でいろいろ調べたり弁護士に相談に行ったりして知恵をつけるので、簡単には合意してくれなくなります。さらに、被害者が弁護士に示談交渉を依頼してしまったら、高額な弁護士・裁判基準で賠償金が計算されてしまうので、大きく示談金の金額が上がってしまいます。このような理由で、保険会社としては早期に示談をまとめて低い金額で支払いを終えてしまいたいと考えるのです。
被害者にとってはまったく無関係な事情なので、相手の保険会社が示談を急いできても、そのペースに乗せられることなく、適正な方法で賠償金計算をしてもらうことが大切です。
保険会社が示談交渉してくれないケース
多くのケースでは自分の保険会社が示談代行してくれる
交通事故では、被害者であっても自分の保険会社が相手の保険会社と話合いをすすめてくれるので、被害者が直接相手の保険会社の担当者と話をしないことが多いです。自分の保険会社が間に入ると、最低限の相談はできますし、相手と直接話をしなければならないプレッシャーもありません。自分の保険会社が完全に「被害者の味方」ではないとしても、被害者の負担が相当軽くなることは事実です。
過失割合0のケースで示談代行してくれない理由
しかし、被害者の過失割合が0の場合には、自分の保険会社が示談交渉を代行してくれなくなります。その場合、被害者は本当に自分「一人」で相手の保険会社と話し合いをすすめていかなければなりません。このようなことはどうして起こるのでしょうか?
自動車保険の示談代行サービスは、加害者が相手に賠償金を支払う際、その支払い金額に利害関係のある自動車保険が示談を代行するというものです。つまり、自動車保険による示談代行が行われるとき、加入者が加害者であることが前提となっています。被害者にも過失割合がある限り、その過失割合の分については相手に賠償金を支払わなければなりません。そこで、その限度で自分の自動車保険にも利害関係が発生するので、自動車保険が示談交渉をしてくれます。
しかし、被害者の過失割合が完全に0のもらい事故などの場合には、被害者側の自動車保険は相手に対し、一切の支払いを行いません。そうなると、被害者側の自動車保険が示談交渉を代行する根拠がなくなって、示談代行を受けられなくなるのです。利害関係もない第三者が他人の問題で示談を代行することは、弁護士法違反になってしまいます。
示談代行サービスが受けられない場合の対処方法
そこで、被害者に過失割合がないとき、自分の自動車保険が示談代行してくれなくなりますが、こういった場合、被害者は大変不利になることが多いです。自分の自動車保険が間に入ってくれない場合、相手の保険会社と被害者との力の差がさらに大きく開いてしまうからです。被害者の過失割合が0の場合に不利にならないように示談をすすめるときには、弁護士に対応を依頼する必要性が極めて高くなります。
相手が無保険の場合にはどうなるの?
相手方が無保険だと保険会社が入ってくれない
以上のように、多くのケースでは、交通事故が起こると加害者側に自動車保険が介入してきて、示談代行が行われます。そこで、交通事故の示談交渉は相手の保険会社との間で行うことになります。しかし、相手の保険会社が示談交渉を代行してくれないことがあります。それは、相手が無保険のケースです。示談代行サービスは、自動車保険の中でも任意保険に附随するサービスなので、相手が任意保険に加入していない場合には、保険会社による示談代行が行われません。この場合には、被害者は相手(加害者)本人と示談交渉をしないといけなくなります。
どのように話を進めて良いのかわからない
加害者と直接交渉をすると、いろいろな問題が起こります。まず、お互いが素人のため、どのように示談をすすめていったらよいのかがまったくわかりません。お互いが賠償金の項目や計算方法を知らないため、まずはどのような賠償金が発生してどのように計算するのか、1から調べないといけません。しかも、それを素人の相手に納得させないといけないので、大変な負担になります。
加害者が逃げてしまうこともある
また、そもそも相手と連絡が取れないことも多いです。相手が逃げてしまって連絡先がわからないこともありますし、住所などがわかっていても相手に無視されることもあります。
相手と交渉ができたとしても、相手から「お金がないから支払えない」と言われてしまうケースも多いです。
支払いが受けられないことも多い
何とか分割払いの合意をしたとしても、途中で支払われなくなって被害者が泣き寝入り、ということもありますし、裁判を起こしても、結局差押えできる財産がなく、取りっぱぐれになることもよくあります。
このように、相手が無保険のケースでは、相手に保険会社の示談代行サービスがつかないため、被害者も大きな影響を受けることがあります。相手が無保険の場合、被害者が適正な賠償金の請求をするためには、交通事故問題に長けた弁護士に対応を依頼する必要性が高いです。
示談交渉が始まる時期は?
交通事故が起こったら、相手と示談交渉を開始すると思われていますが、示談交渉が開始するタイミングはいつなのかがわからない人が多いです。示談交渉が始まるタイミングは、交通事故の種類によって異なります。示談交渉を開始するためには、損害の全容が確定している必要があります。損害が確定していなければ、いくら支払うかを決めることができないからです。
物損事故のケース
物損事故の場合、車の修理費用の見積もりが出たタイミングで損害額が確定します。そこで、このタイミングで示談交渉を開始出来ます。交通事故後1ヶ月もしたら、示談ができることが多いです。
人身事故(死亡)のケース
人身事故の場合、傷害事故と死亡事故とで取扱が異なります。死亡事故の場合には、死亡して葬儀が行われたら、だいたいの損害額が確定します。ただ、実際には葬儀後すぐに示談を始めることは少なく、49日の法要が済んだ頃に示談交渉を開始することが多いです。
人身事故(傷害)のケース
人身事故の中でも傷害事故の場合、示談交渉が開始する時期が非常に遅くなります。傷害事故で損害額が確定するためには、被害者が通院を終了して完治または症状固定する必要があるからです。この時点までの治療費や通院交通費、付添看護費や休業損害、入通院慰謝料などが損害額に含まれますし、症状固定した時点で残っている症状について、後遺障害が認定されます。そこで、人身事故(傷害)の場合には、被害者が入通院治療を終了したタイミングで示談交渉を開始します。
ただ、傷害事故の場合、相手の保険会社が早期に示談をまとめたいため、通院治療途中でも無理矢理「症状固定した」と言ってきて、示談交渉を開始しようとすることがあるので、注意が必要です。このようなとき、治療を打ち切って示談交渉を始めてしまうと、請求できる賠償金の金額が大きく減らされてしまうおそれがあります。
示談交渉の時効は3年
損害賠償請求権の時効は3年
相手の保険会社と示談交渉をするとき、期限があることにも注意が必要です。交通事故で相手から示談金を受けとることができるのは、被害者が相手に対し、損害賠償請求権を持っているからです。交通事故で相手にけがをさせたり死亡させたりしたことは、不法行為になるので、それによって相手が被った物的損害や精神的損害などについては、加害者が賠償責任を負います。
ただ、この損害賠償請求権には、時効があります。その期間は損害及び加害者を知ってから3年となっています。そこで、通常の交通事故の場合、交通事故が発生してから3年間しか相手に対し、賠償金の請求ができないことになります。
人身事故で治療が長引いたときの注意点
人身事故の場合、治療期間が長引いて3年以内に示談交渉ができないこともあるので、注意が必要です。この場合には、すでに確定している損害についてのみ先に示談をしてしまい、残りは後で請求する、という解決方法をとったり、裁判をしたりすることで、時効を中断させる必要があります。治療を終了しないと示談ができないと思って3年以上経ってしまったら、相手から一切の賠償金支払いを拒絶されるおそれもあるので、注意が必要です。交通事故から時間が経過して時効が危ういと感じたら、弁護士に相談に行った方が良いです。
死亡事故の場合にも時効に注意が必要
また、時効との関連で問題になりやすいのは、死亡事故のケースです。死亡事故の場合、被害者本人は死亡しているため、示談交渉を行うのは遺族となります。遺族が複数いる場合、遺族の中での意思疎通がうまくいかず、連携して損害賠償請求をすることが難しくなることがあります。また、遺族の心痛が強く、交通事故の問題に関わりたくないために示談交渉を避けているうちにどんどん時間が経過してしまうこともあります。しかし、死亡事故の場合にも、交通事故後3年が経過したら時効が成立して、相手に賠償金請求ができなくなってしまいます。お金を支払ってもらっても被害者が戻ってくるものではありませんが、お金も支払われないとなると、本当に何の償いもなされないことになり、被害者も救われません。被害者のためにも、きちんと権利を主張して、支払いを受けるべきです。
示談交渉が負担になっていても、弁護士に対応を依頼したら手続きは全て弁護士がすすめてくれますし、精神的なサポートもしてもらえます。死亡事故のケースで、示談交渉に前向きになれない場合にも、一度弁護士の話を聞いてみることをおすすめします。
示談交渉を有利に進める方法
以下では、相手の保険会社と示談交渉をするときに、有利に進める方法をご紹介します。
治療は症状固定まで続ける
示談交渉を有利に進めるための鉄則として、示談前の治療期間を十分にとることがあげられます。交通事故の示談交渉は、症状固定したときに開始されますが、治療期間が長引いてくると、相手の保険会社から「そろそろ症状固定しましょう」「治療は終わって示談しましょう」などと言われることがあります。そして、被害者が納得しないでいると、治療費の支払いを打ち切られることもあります。
治療を打ち切ると、賠償金が低くなる
しかし、相手から治療の終了を打診されても、治療費の支払いを打ち切られても、治療を打ち切ってはいけません。先にも説明しましたが、交通事故の賠償金は、治療期間によって金額が異なってきます。治療費は症状固定までの分が支払われますし、入通院慰謝料も症状固定までの期間に応じて計算されるため、通院期間が長くなると金額が上がります。
よって、治療を途中で打ち切ってしまったら、それまでの分の治療費しか支払われませんし、入通院慰謝料も低くなります。また、症状固定していないのに治療をやめてしまったら、適切に後遺障害の認定を受けることもできなくなるので、後遺障害慰謝料や逸失利益の支払いも受けられなくなります。
治療費を打ち切ると言われたときの対処方法
そこで、相手の保険会社が「症状固定しましょう」などと言ってきても、決して応じてはいけません。まずは医師に「いつ症状固定しますか?」と聞いてみて、医師の判断を仰ぎ、医師が「症状固定しました」と判断するまで治療を続けるべきです。相手の保険会社が治療費の支払いを打ち切ってきた場合には、自分の健康保険や労災保険を利用して通院を継続しましょう。このようにして自分で支払った治療費については、後で示談をするときに、相手の保険会社に対してまとめて請求することができます。また、健康保険を利用してきちんと通院していたら、その分の期間も入通院期間に含めてもらえるので、入通院慰謝料の金額も上がります。
病院から健康保険を使えないと言われたときの対処方法
なお、病院によっては健康保険の利用を認めないところもありますが、法令上や制度上そのような制限はないので、遠慮する必要はありません。まずは病院と交渉をして、それでもダメなら別の健康保険が利用できる病院に転院すると良いでしょう。
症状固定したら後遺障害の等級認定を受ける
後遺障害等級認定とは
示談交渉を有利に進めるためには、後遺障害の等級認定手続きも重要です。交通事故によってけがをしたとき、通院治療を継続しても完治せず症状が残った場合には、その症状について後遺障害が認められます。後遺障害には重い方から1級から14級までの等級があり、それぞれの等級に応じて後遺障害慰謝料と逸失利益の支払いを受けることができます。ただ、これらの支払いを受けるためには、それぞれの等級の後遺障害の認定を受けなければなりません。後遺障害の等級認定請求ができるのは、治療が終了して症状固定した後です。
そこで、治療が終了して症状固定したときに後遺障害が残っていたら、必ず後遺障害の等級認定請求をしなければなりません。後遺障害の等級認定をしたい場合には、まずは病院の医師に依頼して、「後遺障害診断書」を作成してもらう必要があります。これについては、自動車保険に書式があるので、取り寄せると良いでしょう。
事前認定と被害者請求
そして、後遺障害等級認定請求の方法には、事前認定と被害者請求の2種類があります。事前認定とは、相手の保険会社に後遺障害等級認定を依頼する方法で、被害者請求とは、被害者が自分自身で相手の自賠責保険に対して後遺障害の等級認定申請をする方法です。事前認定の場合には、相手の保険会社に後遺障害診断書を渡すだけで良いので、手続きは非常に簡単です。ただし、後遺障害の認定という重大な事項について、相手方である相手の保険会社に任せてしまうことになるので、非常に大きな不安があると言えます。
これに対し、被害者請求の場合には、被害者が自分で必要な書類や資料を集めた上で、相手の自賠責保険や損害保険料率算定機構という専門の機関とやり取りしないといけないので、非常に手間がかかり面倒です。ただ、確実に後遺障害の認定を受けたいのであれば、できれば被害者請求を利用した方が確実です。
被害者請求するなら弁護士に依頼しよう
被害者請求をするときには、専門的な知識やノウハウがある方が圧倒的に有利になるので、交通事故問題に強い弁護士に対応を依頼するとメリットが大きいです。
示談交渉を弁護士に依頼する
相手との示談交渉を有利に進めたい場合には、示談交渉を弁護士に依頼することが役立ちます。その理由については、以下で項目を分けて説明します。
弁護士に示談交渉を依頼すると有利になる理由
弁護士に示談交渉を依頼すると、どのような理由で有利になるのでしょうか?以下で順番にご説明します。
弁護士・裁判基準で計算できる
弁護士に示談交渉を依頼すると、賠償金の金額を高額な弁護士・裁判基準で計算できます。交通事故の賠償金の計算方法には、自賠責基準と任意保険基準、弁護士・裁判基準という3種類があり、この中でも弁護士・裁判基準が最も高額になります。たとえば後遺障害慰謝料の場合、弁護士・裁判基準で計算すると、他の2つの基準で計算する場合と比べて金額が3倍程度になることも多いです。そこで、弁護士・裁判基準で賠償金を計算すると、賠償金の金額が全体として大きくアップします。
被害者が相手の保険会社と示談交渉をすると、どうしても自賠責基準や任意保険基準で賠償金を計算されてしまうので、賠償金の金額が下がってしまいます。弁護士に示談交渉を依頼すると、当然に弁護士・裁判基準が適用されて、大きく示談金がアップするメリットがあります。
過失割合が小さくなる
弁護士に示談交渉を依頼すると、被害者側の過失割合が小さくなることが多いです。過失割合とは、交通事故の結果にどちらがどれだけの責任があるかという割合です。交通事故被害に遭った場合でも、被害者に過失割合があれば、その過失割合の分は請求できる金額が減額されてしまいます。
たとえば、損害額が全体として500万円のケースでも、過失割合が2割なら、相手に性急できる金額は500万円×0.8=400万円となってしまいます。過失割合が3割なら、500万円×0.7=350万円となります。
そこで、示談交渉を有利にすすめたいなら、なるべく自分の過失割合を小さくする必要があります。ここで被害者が自分で示談交渉をしていると、相手が不当に高い過失割合を割り当ててくるので、大きく過失相殺されて、示談金の金額が大きく減らされてしまうのです。弁護士に依頼すると、裁判所で採用されている過失割合の認定基準を使って過失割合を認定してくれるので、適切な過失割合が適用されて、被害者の過失割合が小さくなります。このことにより、過失相殺があまり行われず、相手に支払ってもらえる示談金が高額になります。
有利な資料を揃えて適切な主張立証ができる
弁護士に示談交渉を依頼すると、適切に主張と立証ができることも大きなポイントです。示談をすすめるときには、正確な知識とその使い方が重要です。被害者がひとりで対応していると、どのタイミングでどのような主張をして良いかわかりませんし、どのような資料を集めたら良いのかなどもわかりません。資料の収集方法もわからないことが多いでしょう。
これに対し、弁護士であれば、相手のペースに乗せられず、法的な知識とノウハウによって、交渉自体を有利に進めることができます。また、事案に応じて適切な証拠資料などを収集してくれるので、被害者が有利になります。弁護士にしか利用できない弁護士法23条照会という方法を使って、加害者の刑事記録である実況見分調書を取り寄せることにより、交通事故の状況を明らかにすることも可能です。
このように、弁護士に示談交渉を依頼すると、有利な資料を集めて、適切な主張と立証をすることにより、示談交渉を有利にすすめることができます。
保険会社が介入しない場合にも有利になる
交通事故が起こったとき、示談交渉に保険会社が関与しないケースがあります。1つは被害者の過失割合が0のケースです。この場合、被害者側に保険会社が関与しないので、被害者は自分一人で相手の保険会社に対応しなければなりません。もう1つは、加害者が無保険のケースです。この場合、加害者側に保険会社がつかないので、被害者は、相手本人と直接交渉しなければなりません。
このようなとき、弁護士に示談交渉を依頼すると、非常にメリットが大きいです。被害者の過失割合が0のとき、弁護士に対応を依頼すると、弁護士が必要な手続きを全て進めてくれますし、相手の保険会社に対しても適切な請求をしてくれるので、被害者が知識不足によって損をすることがありません。また、加害者が無保険の場合、弁護士に依頼すると、加害者ときちんと交渉をして、早期に示談金を回収してくれます。加害者が支払いに応じない場合や無視する場合などには、裁判を起こして賠償金を回収することも可能です。
示談交渉に保険会社が関与しない場合には、弁護士の力を借りる必要性が、より高くなります。
弁護士に依頼して、示談交渉を有利に進めよう
以上のように、交通事故が起こった場合には、基本的に、自動車保険が示談交渉を代行します。被害者が示談交渉に臨むときには、相手に対して構えすぎず、攻撃的にならず、冷静に対応をすることが大切です。そして、自分でも交通事故の賠償金の計算方法について調べて最低限の知識をつけておくことが必要です。そして、納得できない場合には、示談を受け入れるのではなく弁護士に相談をしてアドバイスをもらいましょう。
示談交渉は、弁護士に依頼するといろいろなメリットがあります。示談交渉を弁護士に依頼すると費用がかかりますが、今は多くの人が交通事故の弁護士費用特約をつけているので、特約を利用したら被害者自身の弁護士費用の負担がなくなって安心です。相手が無保険のケースや被害者の過失割合が0の場合には、なおさら弁護士に対応を依頼する必要性が高いです。相手との示談交渉について悩みや疑問があるなら、まずは一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。
- 保険会社の対応に不満がある。
- 保険会社の慰謝料提示額に納得がいかない。
- 過失割合に納得がいかない。
- 後遺障害の認定を相談したい。
「交通事故の示談交渉」記事一覧
- 2017年3月30日
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