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交通事故による精神的損害への賠償~慰謝料が増額されるケース・減額されるケース

この記事のポイント

  • 交通事故の慰謝料は、人身事故の場合にのみ発生する。
  • 交通事故の慰謝料の種類は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料、死亡慰謝料の3つ。
  • 慰謝料の金額は、定額化されている。
  • 慰謝料の増額事由としては、離婚や結婚の破談、流産や中絶、退職、留年、退学や入学ができなくなったことなどがある。
  • 慰謝料の補完作用によっても慰謝料が上がる可能性がある。
  • 交通事故の結果について、被害者に責任があると、慰謝料が減額される。
  • 素因減額によって慰謝料が減額されることがある。
  • 損益相殺や過失相殺によっても慰謝料が減額される。
  • 高額な慰謝料を支払ってもらうためには、弁護士に示談交渉を依頼すべき。

交通事故の慰謝料とは

慰謝料は、損害賠償金の一部にしか過ぎない

一般的に、交通事故に遭ったら、加害者に慰謝料を請求する、というイメージがあります。そこで、なるべく高額な慰謝料を請求したいと考える被害者が多いです。ただ、慰謝料については、正確に理解されていないことが非常に多いです。慰謝料とは、精神的損害に対する賠償金のことです。このように言われても、ピンとこないかもしれないので、もう少し深く説明します。

交通事故に遭ったら、いろいろな損害が発生します。病院に通ったら診療費や薬代、通院のための交通費などが必要ですし、仕事を休んだら休業損害も発生します。交通事故で後遺障害が残って仕事ができなくなったら、失われた収入分も損失になります。今挙げたような損害は、すべて「精神的損害」とは異なるものです。たとえば、治療費や交通費などは「実費」ですから、「精神的損害」でないことは明らかです。そこで、これらはすべて交通事故の「損害賠償金」ではあっても「慰謝料」とは違うものです。

慰謝料は、あくまで精神的損害に対する賠償金なので、交通事故の賠償金全体の中では一部にしかすぎません。ただ、慰謝料が数千万円以上の高額になることもあるので、なるべく高額に認定してもらう必要性は高いです。

慰謝料は、被害者の収入や年齢によって大きく変わらない

また、慰謝料は被害者の収入や年齢によって、大きな影響を受けません。このことも一般的に誤解されていることが多いです。たとえば、主婦は会社役員より慰謝料が低くなると思われていることなどがあります。しかし、交通事故によって精神的苦痛を受けるのは、会社役員でも主婦でも子どもでも同じです。そこで、慰謝料の金額自体は、事故前の収入や立場によって変わらず、どのような人でもだいたい同じような金額を請求することができます。

慰謝料は、定額化されている

さらに、交通事故の慰謝料は定額化されています。たとえば、同じような期間入通院した人の入通院慰謝料はだいたい同じくらいの金額になりますし、同じ後遺障害が残った人の場合には、だいたい同じくらいの後遺障害慰謝料が認められます。このように、交通事故で同じような境遇になった人が同じ程度の慰謝料を受けられるようにすることで、交通事故被害者の公平がはかられています。

慰謝料を請求できる根拠

それでは、交通事故の被害に遭ったら、どうして相手に慰謝料を請求できるのでしょうか?法的な根拠があるのか、あるとしたらどのようなものとなっているのか、確認しましょう。

交通事故で相手に損害を与えることは、法的には不法行為と評価されます(民法709条)。そして、不法行為が行われたら、被害者は加害者に対し、損害賠償請求をすることができます。このとき、具体的な費用の支出などの財産的損害だけではなく、精神的苦痛についても賠償の対象として認められています(民法710条)。そこで、交通事故被害に遭った人は、不法行為にもとづく損害賠償請求権の行使として、精神的損害に対する賠償金である慰謝料を請求することができるのです。

慰謝料が発生する交通事故の種類

交通事故の被害者が加害者に対して慰謝料請求ができると言っても、どのような種類の事故でも慰謝料が発生するわけではありません。そこで、以下では慰謝料が発生する事故がどのようなものか、確認しましょう。

人身事故(傷害)

まずは、人身事故(傷害)のケースです。これは、交通事故で被害者がけがをしたけれども、死亡しなかった事案です。手をすりむいた程度の軽傷でも人身傷害事故ですし、全身に麻痺が残るような重傷でも、死亡さえしなければ人身傷害事故です。その意味で、人身傷害事故の範囲は非常に広いです。

そして、この場合には慰謝料が発生します。発生する慰謝料の種類は、入通院慰謝料と後遺障害慰謝料です。ただし、後遺障害慰謝料については、後遺障害が残った事案でのみ発生します。このことについては、後述します。

人身事故(死亡)

次に、人身事故(死亡)のケースがあります。これは、交通事故で被害者が死亡した場合の人身事故です。事故現場で即死した場合はもちろん死亡事故になりますし、即死せずにしばらく治療を継続した後に死亡した場合にも死亡事故扱いとなります。

死亡事故の場合にも、慰謝料が発生します。この場合の慰謝料の種類は死亡慰謝料ですが、治療を継続してから死亡した場合には、入通院慰謝料も発生します。

物損事故の場合には慰謝料がもらえない

交通事故には、物損事故の類型があります。物損事故とは、車が毀れるなどの物的損害のみが発生した交通事故のことです。車が毀れても、人が傷ついたら人身事故になるので、物損事故というのは、人の生命や身体に損害がまったくなかった場合の交通事故ということです。

基本的に慰謝料が発生しない

そして、物損事故の場合には、慰謝料が発生しません。どんなに高額な高級車であっても、珍しいクラシックカーなどであっても、車が毀れただけでは慰謝料を請求することは認められないので、注意が必要です。このこともあり、物損事故の場合には、相手に請求できる賠償金の金額が、全体として低額になることが多いです。交通事故に遭って、少しでもけがをしていたり、身体に衝撃を受けたりしてむちうちになっている可能性がある場合などには、必ず人身事故として届けを出しておく必要があります。

大切な車や思い入れのある愛車が毀れた場合

物損事故では慰謝料が発生しません。しかし、壊れた車が自分にとって非常に大切な車であることがあります。親からもらった遺産であったり、思い出の詰まった車であったり、初めて購入した車で、中身を入れかえながら長年使ってきた車であったり、ほしい車を探し求めて中古車市場でようやく発見して、高額な費用を出して購入した車であったりもします。このように、特別な車が壊れた場合には、精神的苦痛も大きいため、慰謝料が支払われることがないのかが問題です。

これについては、「不可能」というのが答えです。被害者にとっては納得できないかもしれませんが、車が毀れたことによる精神的苦痛は、慰謝料が発生するほどのものではないと考えられているからです。人身事故なら、手をすりむいただけでも慰謝料が認められるので、それと比べると不均衡だと思われるかもしれませんが、交通事故では「人身事故」と「物損事故」で取扱を分けて慰謝料を定額化しているので、このような結果となります。物損事故の取扱になったら、相手に慰謝料を請求することは諦めなければなりません。

ペットが死亡した場合

次に、ペットが死亡したケースを見てみましょう。ペットは、家族と同然のように思って大切にしている人が多いです。中にはペットに遺産を残そうとする人もいます。大切なペットが交通事故で死亡したら、相手に慰謝料請求ができるのでしょうか?

これについても、「不可能」です。法律上、ペットは「物」という取扱をされます。そこで、ペットが死んでも物損事故扱いにしかなりません。被害者にとっては大切な家族でも、法律的に見ると物が壊れた場合と同じ評価となります。ペットが死亡したときに相手から支払いを受けられるのは、ペットの時価です。血統書付きの珍しいペットなら、ある程度の支払をしてもらえるかもしれませんが、それでも10万円~20万円程度にしかならないでしょう。

ペットの死亡・後遺障害で慰謝料が認められた事例

ただし、例外的にペットの死亡やけがのケースで慰謝料が認められた裁判例もあります。たとえば、以下のようなものです。

名古屋高裁平成20年9月30日
交通事故により、ペットが後ろ足麻痺の障害を負った事案です。ここで裁判所は、飼い主2名に対し、合計40万円の慰謝料を認めました。

東京高裁平成16年2月26日
交通事故によってペットが死亡した事案で、5万円の慰謝料が認められました。

このように、高額ではありませんが、ペットの死亡や後遺障害により、慰謝料が認められることは稀にあります。

ペットの治療費

また、ペットがけがをした場合、ペットの治療費が支払われます。動物病院では健康保険が利用できないため、ペットの治療費は非常に高額になることが多いですが、その場合、相手の保険会社から費用を出してもらえるので、救いがあります。

ペットの治療費は、物損に対する損害賠償金の扱いになるので、相手の「対物賠償責任保険」から支払われます。人間のけがの治療費の場合の「対人賠償責任保険」ではありません。そこで、相手が自賠責保険にしか加入していない場合や、対物賠償責任保険の限度額が足りない場合には、ペットの治療費が支払われない可能性があります。

家が壊された場合

物損事故では基本的に慰謝料が認められませんが、例外的に支払いが認められることがあります。それは、家が壊された場合です。この場合、加害者の不法行為が悪質で、被害者の受ける不利益が非常に大きいので、慰謝料認められる余地があるのです。具体的には、以下のような事例があります。

東京地裁八王子支部昭和50年12月15日
早朝に、砂利を積んだ大型貨物自動車が住居に飛び込んだ事故です。この事案では、裁判所は、家の修理費用と家具の損傷費用の他、10万円の慰謝料を認めました。

大阪地裁平成元年4月14日
この事案では、車両が店舗兼居宅に突入しました。裁判所は、居住者の命の危険もあったことや、生活の平穏が害されたことなどに鑑みて、家の修繕費用などの財産的損害の他、30万円の慰謝料支払いを認めました。

お墓が壊された事例

交通事故で、お墓が壊された場合に慰謝料が認められた事例もあります。

大阪地裁平成12年10月12日
この事案では、自動車が霊園内の墓石にぶつかり、墓石が倒壊して骨壺が外に出てしまいました。そこで、墓石の所有者に対し、慰謝料10万円が認められました。

以上のように、物損の場合、基本的に慰謝料は認められませんが、社会通念上も、物や動物の毀損によって大きな精神的苦痛を被ることが当然と考えられるようなケースでは、例外的に慰謝料が認められることがあります。

慰謝料を請求できるかどうかわからないなら、弁護士に相談しよう!

以上のように、交通事故が起こったとき、慰謝料が発生するケースと発生しないケースがあります。ただ、自分では、慰謝料が発生するのかわからないことがありますし、発生するとしても、どのくらい請求できるのかがわからないことも多いです。さらに、慰謝料が発生するケースであっても、そのことを法的な根拠をもってしっかりと主張しない限り、相手や裁判所に認めてもらうことはできません。

そこで、相手に慰謝料を請求したい場合には、まずは弁護士に相談しましょう。慰謝料が発生するのかどうかがわからない場合にも、まずは弁護士に聞いてアドバイスをもらうと、請求漏れを防いで取り残しを防ぐことができます。

交通事故の慰謝料の種類

お金

次に、交通事故で発生する一般的な慰謝料の種類を見てみましょう。

入通院慰謝料

まずは、入通院慰謝料があります。これは、交通事故でけがをしたときに病院で治療をした場合に発生する慰謝料のことです。傷害慰謝料とも呼ばれます。入通院をした期間に応じて、定額によって計算されます。治療内容によって金額が変わることは基本的にありません。

後遺障害慰謝料

後遺障害慰謝料とは、交通事故によって後遺障害が残った場合に認められる慰謝料のことです。後遺障害とは、交通事故でけがをして、治療をしたけれども完治せずに残ってしまった症状のことで、内容と程度に応じて1級から14級までの等級があります。そこで、等級が重くなると、認められる後遺障害慰謝料の金額も高額になります。

同じ等級になるとだいたい同じ金額の後遺障害慰謝料が認められる仕組みになっています。

死亡慰謝料

死亡慰謝料とは、交通事故で被害者が死亡したときに発生する慰謝料のことです。死亡により、被害者は重大な精神的苦痛を被ると考えられているのです。死亡慰謝料の金額も定額化されています。ただし、被害者が扶養していた人がいるかどうかによっても金額が異なります。たとえば、一家の大黒柱の人の場合、独身者や子どもなどより高額になります。

慰謝料の計算方法

それでは、それぞれの慰謝料の計算方法はどのようになっているのでしょうか?基本的な方法を理解しておきましょう。交通事故の損害賠償金の計算方法には自賠責基準と任意保険基準、弁護士基準の3種類があるので、以下で順番に確認しましょう。

自賠責基準とは

交通事故の慰謝料計算方法の1つ目として、自賠責基準があります。これは、自賠責保険が賠償金を計算するときに利用する基準です。自賠責保険は最低限度の被害者の救済を目的とする保険なので、その計算基準である自賠責基準による慰謝料の金額は、他の2つの基準と比べて低額になります。

入通院慰謝料

自賠責基準による入通院慰謝料の金額は、以下の通りです。
1日4200円×治療日数
治療日数については、以下の2つの数字のうち、低い方の数字を採用します。

  • 実通院日数×2
  • 入通院の期間

たとえば、3ヶ月間(90日)のうち、実通院日数が35日なら、35日×2=70日が90日より少なくなるので、70日を採用しますし、実通院日数が50日なら、50日×2=100日より90日が少なくなるので、90日が採用されます。

後遺障害慰謝料

自賠責基準による後遺障害慰謝料の金額は、等級によって異なりますが、以下の通りです。

1級 1100万円
2級 958万円
3級 829万円
4級 712万円
5級 599万円
6級 498万円
7級 409万円
8級 324万円
9級 245万円
10級 187万円
11級 135万円
12級 93万円
13級 57万円
14級 32万円

死亡慰謝料

自賠責基準による死亡慰謝料には、本人の慰謝料と遺族の慰謝料があります。本人の慰謝料は一律で350万円と、非常に低くなっています。

遺族の慰謝料は、遺族の人数と被扶養者がいるかどうかで異なります。遺族が1人なら550万円、2人なら650万円、3人なら750万人です。遺族に被扶養者がいる場合、遺族が1人なら750万円、2人なら850万円、3人なら950万円となります。

任意保険基準とは

次に、任意保険基準について説明します。任意保険基準とは、任意保険会社が自社内で定めている独自の基準のことです。これを利用するのは、任意保険会社が被害者と示談交渉をするときです。この場合、最低限の保障しかしない自賠責基準よりは高額でも、裁判になった場合に使われる基準よりは低い基準を利用することにより、なるべく支払額を抑えることが任意保険会社の目的です。

そこで、任意保険基準は、自賠責基準よりは高額になりますが、弁護士基準よりは低くなります。被害者が自分で示談交渉をすると、低額な任意保険基準で計算されるため、慰謝料の金額が相場よりもかなり下げられてしまうことが多いので、注意が必要です。

入通院慰謝料

任意保険基準による入通院慰謝料は、入通院の期間によって異なります。治療期間が長くなればなるほど高額になりますし、同じ期間なら通院期間より入院期間の方が高額になります。各保険会社によって異なることもありますが、概ね次の表の通りになります。
自賠責保険よりは多少高い数字になることが多いです。

入院 1ヶ月 2ヶ月 3ヶ月 4ヶ月 5ヶ月 6ヶ月 7ヶ月 8ヶ月 9ヶ月 10ヶ月
通院 25.2 50.4 75.6 95.8 113.4 128.6 141.2 152.4 162.6 170.2
1ヶ月 12.6 37.8 63 85.6 104.7 120.9 134.9 147.4 157.6 167.6 173.9
2ヶ月 25.2 50.4 73 94.6 112.2 127.2 141.2 152.5 162.6 171.4 176.4
3ヶ月 37.8 60.4 82 102 118.5 133.5 146.3 157.6 166.4 173.9 178.9
4か月 47.8 69.4 89.4 108.4 124.8 138.6 151.3 161.3 168.9 176.4 181.4
5ヶ月 56.8 76.8 95.8 114.6 129.9 143.6 155.1 163.8 171.4 178.9 183.9
6ヶ月 64.2 83.2 102 119.8 134.9 147.4 157.6 166.3 173.9 181.4 185.4
7ヶ月 70.6 89.4 107.2 124.3 136.7 149.9 160.1 168.8 176.4 183.9 188.9
8ヶ月 76.8 94.6 112.2 128.6 141.2 152.4 162.6 171.3 178.9 186.4 191.4
9ヶ月 82 99.6 116 131.1 143.7 154.9 165.1 173.8 181.4 188.9 193.9
10ヶ月 87 103.4 118.5 133.6 146.2 157.4 167.6 176.3 183.9 191.4 196.4

後遺障害慰謝料

任意保険基準による後遺障害慰謝料の金額は、だいたい以下のとおりです。

1級 1300万円
2級 1120万円
3級 950万円
4級 800万円
5級 700万円
6級 600万円
7級 500万円
8級 400万円
9級 300万円
10級 200万円
11級 150万円
12級 100万円
13級 60万円
14級 40万円

死亡慰謝料

任意保険基準による死亡慰謝料の金額は、被害者の立場によって異なりますが、具体的にはだいたい以下に近い数字となります。

  • 一家の大黒柱の場合、1700万円程度(1350~2000万円)
  • 配偶者の場合、1450万円程度(1250~1600万円)
  • 18歳未満で未就労の場合、1400万円(1150~1600万円)
  • 高齢者(65歳以上)の場合、1250万円(1050~1400万円程度)

弁護士基準とは

弁護士基準とは、裁判所で利用されている基準です。過去の判例の積み重ねと交通事故事件の研究によって、法曹が適切と考えるものを作っています。そこで、本来ならこの裁判基準を使って慰謝料をはじめとした賠償金の計算をすべきと言えます。

弁護士基準は、弁護士が相手の保険会社と示談交渉をする際にも利用します。そこで、被害者が自分で示談交渉をしているときに、弁護士に対応を依頼すると、利用する基準が低額な任意保険基準から弁護士基準に変わるため、賠償金が大きく跳ね上がるケースが多いです。以下では、弁護士基準による、それぞれの慰謝料の金額を確認しましょう。

入通院慰謝料

弁護士基準における入通院慰謝料も、他の基準と同様、入通院の期間によって異なります治療期間が長くなると、慰謝料の金額が上がりますし、同じ期間なら通院期間より入院期間の方が金額が上がります。

また、弁護士基準の場合には、通常のけがの場合と軽傷の場合とで、金額が異なります。
軽傷のけがとは、自覚症状しかないむちうちなどのケースです。
具体的な金額は、以下の通りです。

通常のケガのケース
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 53 101 145 184 217 244 266 284 297 306 314 321 328 334 340
1月 28 77 122 162 199 228 252 274 191 303 311 318 325 332 336 342
2月 52 98 139 177 210 236 260 281 297 308 315 322 329 334 338 344
3月 73 115 154 188 218 244 267 287 302 312 319 326 331 336 340 346
4月 90 130 165 196 226 251 273 292 306 316 323 328 333 338 342 348
5月 105 141 173 204 233 257 278 296 310 320 325 330 335 340 344 350
6月 116 149 181 211 239 262 282 300 314 322 327 332 337 342 346
7月 124 157 188 217 244 266 286 304 316 324 329 334 339 344
8月 139 170 199 226 252 252 274 292 308 320 328 333 338
9月 139 170 199 226 252 274 292 308 320 328 333 338
10月 145 175 203 230 256 276 294 310 322 330 335
11月 150 179 207 234 258 278 296 312 324 332
12月 154 183 211 236 260 280 298 314 326
13月 158 187 213 232 262 282 300 316
14月 162 189 215 240 264 284 302
15月 164 191 217 242 266 288
軽傷のケース(他覚症状がなく、自覚症状しかないむちうちなど)
入院 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 13月 14月 15月
通院 35 66 92 116 135 152 165 176 186 195 204 211 218 223 228
1月 19 52 83 106 128 145 160 171 182 190 199 206 212 219 224 229
2月 36 69 97 118 138 153 166 177 186 194 201 207 213 220 225 230
3月 53 83 109 128 146 159 172 181 190 196 202 208 214 221 226 231
4月 67 95 119 136 152 165 176 185 192 197 203 209 215 222 227 232
5月 79 105 127 142 158 169 180 187 193 198 204 210 216 223 228 233
6月 89 113 133 148 162 173 182 188 194 199 205 211 217 224 229
7月 97 119 139 152 166 175 183 189 195 200 206 212 218 225
8月 103 125 143 156 168 176 184 190 196 201 207 213 219
9月 109 129 147 158 169 177 185 191 197 202 208 214
10月 113 133 149 159 170 178 186 192 198 203 209
11月 117 135 150 160 171 179 187 193 199 204
12月 119 136 151 161 172 180 188 194 200
13月 120 137 152 162 173 181 189 195
14月 121 138 153 163 174 182 190
15月 122 139 154 164 175 183

後遺障害慰謝料

弁護士基準による後遺障害慰謝料の金額は、以下のとおりです。幅があるのは、同じ等級でも事案によって柔軟な数字を当てはめるための調整であり、()内が標準額となります。

1級 2600~3000万円(2800)
2級 2200~2600万円(2370)
3級 1800~2200万円(1990)
4級 1500~1800万円(1670)
5級 1300~1500万円(1400)
6級 1100~1300万円(1180)
7級 900~1100万円(1000)
8級 750~870万円(830)
9級 600~700万円(690)
10級 480~570万円(550)
11級 360~430万円(420)
12級 250~300万円(290)
13級 160~190万円(180)
14級 90~120万円(110)

死亡慰謝料

弁護士基準による死亡慰謝料の金額は、被害者がどのような立場であったかによって異なります。幅があるのは、事案によって柔軟な解決を図るためです。具体的な金額は、以下の通りです。

  • 一家の大黒柱の場合、2800万円〜3600万円程度
  • 母親や配偶者の場合、2000万円〜3200万円
  • 独身の男女の場合、2000万円~3000万円程度
  • 高齢者の場合、1800万円〜2400万円程度
  • 子どもの場合、1800万円〜2600万円程度

高額な慰謝料を請求したいなら、弁護士に依頼しよう!

以上のように、交通事故の損害賠償金計算方法には3種類があり、弁護士基準が最も高額となります。より高い慰謝料の支払いを受けるためには、弁護士に相談して弁護士基準を使ってもらうことが必須です。交通事故の被害に遭ったら、自分で示談交渉をすると低額な任意保険基準を当てはめられて不利になるので、必ず弁護士に示談交渉を依頼しましょう。

慰謝料が増額されるケース

困る

以上のように、慰謝料の計算方法は定型化、定額化されていますが、具体的な事案に応じて増減額が行われることがあります。そこで、以下では慰謝料が増額されるケースにどのようなものがあるのか、見てみましょう。

離婚した

まずは、交通事故によって離婚に至ったケースです。交通事故でけがをすると、仕事ができなくなったり、日常生活に支障が出たりして、家族にも大きな負担をかけることになります。家族関係が不和になることもありますし、相手のために別れようと考えることもあります。離婚によって家族がばらばらになり、子どもとも会えなくなる例もあります。

このように、交通事故によって離婚を余儀なくされた場合、被害者の心痛は通常より大きくなるので、慰謝料が増額されやすいです。

結婚が破談になった

交通事故で重大な後遺障害が残ったら、結婚が破談になることがあります。相手に一生介護をさせることは申し訳ないと考えることもありますし、相手から断られることもあります。このように、後遺障害が残った上、結婚までできなくなってしまったら、被害者の心痛は甚大になるため、慰謝料の金額が上がります。

退職した

交通事故によって、退職を余儀なくされることがあります。けがの影響で休業期間が長くなりすぎて、仕事に戻れなくなることもありますし、後遺障害が残ったために今までと同じ仕事ができなくなることもあります。自営業者の場合にも、廃業するケースがあります。

このように、仕事を失った場合、慰謝料が増額されます。自営業者の場合には、既に投資をしていたり事業のために借入をしていたりすると、さらに慰謝料が増額されやすいです。

流産、中絶した

流産・中絶すると慰謝料が上がる

妊婦が交通事故でけがをしたときにも、特に流産をしたり中絶が必要になったりした場合には、慰謝料が上がりやすいです。交通事故の損害賠償について、胎児は既に生まれたものとみなす、という規定があるため、事故当時は胎児であっても、その後に無事に生まれた場合には、子ども自身に慰謝料請求権があります。そこで、奇形などの事故の影響がある場合、子ども自身が相手に対し、慰謝料請求をすることができます。

しかし、流産や中絶の場合には、子どもは生まれてこなかったわけですから、子ども自身に損害賠償請求権が認められません。そこで、母親である妊婦に慰謝料を認める必要性が高くなります。一般的な感覚としても、事故で流産や中絶に至った場合、母親の心痛は大きいものです。

流産・中絶の場合の慰謝料の決め方

流産や中絶した場合、胎児の月齢や妊婦の身体に対する影響の程度などを考慮して、慰謝料の金額が決められます。たとえば、妊娠2か月の被害者が交通事故で転倒して切迫流産した事案で、210万円の慰謝料が認められた例などがあります。

妊婦はレントゲン検査ができないため、中絶を余儀なくされるケースがある

中絶の場合には、さらに別の問題があります。一般的にレントゲン検査をすると奇形児が生まれる可能性が高くなるので、妊婦が腹部のレントゲン検査を受けることは禁止されているからです。交通事故に遭うと、治療のためにどうしてもレントゲン検査が必要になることが多いので、妊婦が腹部やその周辺にけがをすると、中絶を余儀なくされることがあります。この場合、慰謝料も増額されますし、中絶にかかった費用も賠償の対象となります。

留年した、退学した

学生が交通事故の被害に遭うと、勉強を続けられなくなることがあります。けがの治療が長期に及ぶことによって留年してしまうこともありますし、場合によっては学校をやめないといけないこともあります。このような場合にも、人生に与える影響が大きく被害者の心痛が大きくなるため、慰謝料が増額されます。

入学、留学ができなくなった

被害者が大学などへの入学を予定していたり、海外留学する予定があったりするときに事故に遭うと、入学や留学ができなくなることもあります。いったん入学が取りやめになったら、次の機会を得ることが難しくなることも多いです。また、入学や留学のために既に費用を支払っていることもありますし、入学試験のために高額な費用をかけてきたという例もあるでしょう。

このように、入学や留学ができなくなった場合には、慰謝料が増額されやすいです。また、既に支払った入学金があって、その返還を受けられないケースなどでは、その分も損害として認められます。

相手の誠意がない

交通事故の加害者は、事故対応を保険会社に任せて放置することがあります。死亡事故や重大な後遺障害が残ったような事故を起こしても、一度も見舞いに来ないという例もあります。このように、加害者が不誠実な態度をとった場合には、慰謝料が増額されることがあります。

加害者の中には「賠償金さえ支払ったら責任を果たしているのだから、それ以上に御見舞に行かないからと言って支払額が増えるのはおかしい」と考える人もいますが、そのようなことは通用しません。実際に、裁判が行われたとき、加害者の不誠実さを考慮して慰謝料を増額する判断が出されています。そこで、加害者の態度が不誠実だと感じているなら、慰謝料の増額を主張することを考えましょう。

加害者の中には、任意保険に加入しなかったり、ときには自賠責保険にすら加入しないままで運転していたりして、もともと必要な支払いをする意思を持っていない人もいますが、そのような加害者の態度を不誠実だとする考え方もあります。

事故態様が悪質

加害者が特に危険な方法で運転していたなど、事故態様が悪質な場合にも、慰謝料増額事由になります。たとえば飲酒運転、無免許運転、薬物を摂取しながら運転していたようなケースです。また、ひき逃げ事案でも慰謝料が増額される可能性があります。

自動車を運転するときには、危険な運転をしないことはもちろんのこと、道路交通法を守って慎重に対応することが重要です。

慰謝料の補完作用による増額

慰謝料が増額される例として、慰謝料の補完作用によるケースがあります。慰謝料の補完作用とは、交通事故で立証される範囲内では被害者に対する賠償金が十分とは言えない場合に、慰謝料によって補完するという考え方です。

交通事故の被害者がいろいろな損害を受けていても、必ずしもすべて立証できるとは限りません。立証できないことは裁判では認められませんが、そうはいっても損害が推測できるのにまったく認めないことが不合理になるケースもあります。このような場合、慰謝料の金額を柔軟にとらえることによって被害者の救済をはかることを、慰謝料の補完作用と言います。

たとえば、逸失利益や休業損害などの損害を被害者が明確に立証できないけれど、おそらく損害があるのではないかと考えられるケースなどにおいて、慰謝料が増額される例などがあります。また、外貌醜状の後遺障害が残った場合、具体的な労働能力喪失がないために逸失利益は認めなくても、慰謝料を増額することによって調整を図ることもあります。

このような考え方は、裁判をするときのみならず、示談交渉をするときにも通用します。相手に慰謝料を請求するときには、慰謝料によって他の損害賠償の不足分を補完する目的についても留意して進めましょう。

近親者の慰謝料によって、慰謝料が増額されるのか?

交通事故が起こったとき、慰謝料が認められるのは被害者だけとは限りません。近親者にも固有の慰謝料が認められることがあります。このことにより、全体の慰謝料が増額されることがあるのでしょうか?

固有の慰謝料が認められる近親者の範囲

そもそも、どのような場合に近親者の慰謝料が認められるのかが問題です。民法711条は、不法行為が行われたとき、被害者の親や配偶者、子どもに固有の慰謝料を認めています。そこで、交通事故によって被害者が死亡する死亡事故のケースでは、被害者の親や配偶者、子どもに固有の慰謝料が認められます。

それでは、親や子ども、配偶者以外の人には、固有の慰謝料が認められないのかが問題になります。この点、裁判においては、民法711条に定める範囲以外の親族についても、固有の慰謝料を認める例があります。たとえば、兄弟姉妹や祖父母には固有の慰謝料が認められやすいです。さらに、婚姻届を出していない内縁の妻や事実上の養親、養子などの場合にも、民法711条に準じて固有の慰謝料が認められます。

全体の慰謝料が増額されるのか?

それでは、近親者の固有の慰謝料が認められることによって、全体としての慰謝料が増額されるのでしょうか?たとえば、一家の大黒柱が死亡した場合の死亡慰謝料の基準額は3000万円程度ですが、これに近親者の固有の慰謝料を足すことによって、3200万円や3500万円などになるのか、という問題です。

これについては、否定されています。死亡慰謝料については、全体として平準化すべきという考え方があるため、本人の慰謝料と近親者の固有の慰謝料を合計した金額が一定になるように評価されます。たとえば、被害者にしか慰謝料が発生しないケースでは被害者の慰謝料を3000万円としますが、配偶者と子どもがいる場合、本人の慰謝料を2600万円、配偶者の慰謝料を200万円、子どもの慰謝料を200万円などとして、合計が3000万円になるように調整することなどがあります。このように、死亡慰謝料が一定になるのは、どうしてなのでしょうか?

被害者が死亡した場合、相続人が死亡慰謝料請求権を相続しますが、そうなると、相続人は被害者本人の慰謝料と自分の慰謝料の合計を相手に請求することになります。この場合、遺族の慰謝料が加算されることによって全体の慰謝料の金額が上がることになると、事案によって慰謝料の金額が大きく異なることになってしまい、ケースごとのバランスがとれなくなって、不公平になるおそれがあります。そこで、同じような交通事故では同じ程度の死亡慰謝料額になるように、遺族固有の慰謝料と本人の慰謝料を足した金額が、全体として同じくらいの金額になるように調整されています。

以上により、遺族の慰謝料が認められる場合、単身者よりは死亡慰謝料が高額になりますが、同じような立場の被害者の場合には、遺族がたくさんいるからといってその分慰謝料が高額になることは、基本的には起こりません。

死亡以外のケースは?

後遺障害でも近親者に慰謝料が認められる場合がある

近親者の慰謝料に関連して、被害者が死亡しなかったケースにおける取扱方法が問題になります。民法711条は、被害者が死亡した場合に近親者の慰謝料を認めていますが、死亡しなかった場合でも、重大な後遺障害が残ったケースなどでは民法711条を類推適用して、近親者に固有の慰謝料が認められます。慰謝料が認められる範囲は、死亡の場合に準じます。ただし、後遺障害の場合に近親者に慰謝料が認められるのは、死亡に準じるほど重大な精神的損害が発生する場合に限られます。たとえば被害者が後遺障害1級や2級となって、一生介護を要する状態になったケースなどにおいて、親や子ども、配偶者などに固有の慰謝料が認められます。

後遺障害の場合、慰謝料の全体額がアップする

この場合、近親者の固有の慰謝料を合計することによって全体としての慰謝料の金額が上がるのかが問題となります。後遺障害が原因で近親者の固有の慰謝料が認められる場合には、死亡慰謝料のケースとは異なり、慰謝料の金額の調整が行われません。そこで、本人の慰謝料に足して、近親者の慰謝料が認められることになり、結果として慰謝料全体の金額がアップする可能性があります。これは、どうしてなのでしょうか?

後遺障害の場合、本人の慰謝料は本人が取得しますが、近親者の慰謝料は近親者が取得します。死亡の場合のように、相続人がまとめて取得して相手に請求する、ということにはなりません。そこで、それぞれに慰謝料を認めても、他の事案と不均衡にはならないと考えられているからです。たとえば、子どもが交通事故で重度の後遺障害を負った事案において、母親に800万円の固有の慰謝料を認めた例などもあります。

このように、後遺障害の場合には、近親者が慰謝料請求をすることによってより高額な慰謝料を獲得できる可能性があるので、押さえておくと良いでしょう。

慰謝料を適切に増額させたいなら、弁護士が必要!

以上のように、慰謝料を増額させる要因には非常にさまざまなものがあります。
被害者にとっては、そもそもどのような増額事由があって、自分のケースでどのような増額事由があてはまるのか、わからないことが普通です。自分では増額事由に気づかない場合、それを主張しないままになるので、本来より慰謝料が低くされてしまいます。
そこで、適切に増額事由を考慮して、高額な慰謝料を請求するためには弁護士に依頼することが必要です。

慰謝料が減額されるケース

反対に、慰謝料が減額されるケースとしてはどのようなものがあるのか、見てみましょう。

好意同乗、無償同乗

好意同乗、無償同乗とは

好意同乗とは、友人の好意で車に乗っていて交通事故に遭ったケース、無償同乗とは、無償で車に乗せてもらっていて交通事故に遭ったケースのことです。

基本的に、誰かの車に乗せてもらっていて、運転者の過失によって事故が起こったときには、自分がけがをしたら、運転者に対して慰謝料請求できます。運行供用者責任や不法行為責任が発生するからです。

ただ、この場合には運転者がどのような人であったかが問題になります。まったく関係のない人(たとえばタクシーやバスなど)の場合、運転者の過失がある限り、賠償金の支払い請求が認められることは理解しやすいです。これに対し、友人などの好意により無償で車に乗せてもらっていたようなケースでは、全ての責任を運転者に科すのが妥当ではないと考えられます。そこで、発生した損害を運転者と被害者とで分け合うべきだと考え、まったくの第三者に対して慰謝料請求をする場合よりも金額を下げられます。この場合、「過失相殺」を類推適用することにより、減額をします。これが好意同乗や無償同乗の考え方です。

近年では、好意同乗や無償同乗の減額は限定的

昔の判例では、好意同乗や無償同乗があると、慰謝料を減額することが多く見られました。ただ、最近はその傾向に変化が起こっており、単に好意によって同乗していたり無償で同乗していたりしただけでは、減額は行わないようになってきています。それより一歩進んで、さらに被害者が危険を承知で車に乗っていたというような、被害者に責任を負わせるべき特殊な事情がある場合に減額を認める扱いになってきています。

好意同乗・無償同乗による減額が認められるケース

好意同乗や無償同乗の場合、具体的にはどのようなケースで減額顔痕割れるのでしょうか?

まず、同乗者が運転を邪魔したり、危険な運転を煽ったりした場合のように、同乗者自身が交通事故の発生や拡大に関与していた場合(危険関与増幅型)には、同乗者の帰責跡性を認めて賠償金を減額します。

また、運転者が飲酒していたり、薬物を摂取していたり無免許であったりすることを知りながらあえて同乗した場合など、事故や損害発生の蓋然性があることを承知して同乗した場合にも、同乗者の帰責性を認めて慰謝料をはじめとした賠償金を減額します。

たとえば、飲酒していた友人の車に乗っていて事故が起こったケースにおいて、賠償金が25%減額された事案や、雨が降っている中で高速で車を走らせている友人に頻繁に話しかけて、注意をそらせたために事故が起こったとして、賠償金が30%減額された事例などがあります。

素因減額

慰謝料が減額される要因としては、素因減額もあります。素因減額とは、被害者がもともと持っていた性質によって交通事故の損害が発生したり拡大したりした場合に賠償金を減額することです。このとき考慮される素因としては、被害者の体質的な素因である身体的素因と、被害者の心因的な素因があります。

身体的素因について

身体的素因とは、被害者のもともとの持病などの疾患や身体的特徴などのことです。これらによって、損害が拡大すると、素因減額が行われます。たとえば、被害者がもともと腰痛や椎間板ヘルニアなどの持病を抱えていた場合に事故に遭ってむちうちになったら、その被害が拡大することがあります。このような、事故前からの既往症がある場合には、具体的なケースごとに減額をするかどうかや、どのくらいの割合で減額するかを決定します。

素因減額をするには、その素因によって損害が拡大したことが必要になるため、その疾患がなかったとしても同じ程度の損害が発生したと言える場合には、素因減額は行われません。また、疾患ではない単なる身体的特徴に過ぎない場合、極端な肥満などの特別の事情がない限り、素因減額はされません。たとえば、最高裁において、被害者の首が長くて頸椎不安定症があったケースにおいて、首が長いことは疾患ではなく、その特徴が損害の拡大に寄与したとしても、賠償額を定める際に考慮すべきではないと判断されています(平成8年10月29日)。

心因的素因について

心因的素因とは、被害者の特異な性格や回復への意欲の欠如、神経症やうつ病の既往症などのことです。通常予想される程度を超える反応をしたために被害が拡大した場合に、心因的素因による減額が行われます。たとえば、事故が軽微で、通常は心理的な影響が及ばないものであるにもかかわらず、被害者が治療意欲を持たなかったり落ち込みが激しかったりするため、一般的に相当とされる治療期間を大きく超過した場合などに、心因的素因による減額が行われやすいです。

ただ、事故後にうつ病になったからといって、心因的素因による減額をすべきだ、ということではありません。事故後に気分が落ち込むことは通常のことですし、それまで元気だった人が事故後にうつ病になることも普通にあります。保険会社は、被害者がうつ病などを発症すると、すぐに「心因的素因による減額」を主張してきますが、そのような主張には理由がないことも多いです。

損益相殺

慰謝料の減額事由としては、損益相殺もあります。損益相殺とは、被害者が交通事故によって利益を得たときに、その利益分を損害賠償金から差し引くことです。交通事故によって被害者が利益を受けるというと奇妙な感じがするかもしれませんが、利益と言っても得をしたというものではありません。たとえば健康保険からの給付金を受けたり、自賠責保険から支払いを受けたりすることがあり、そのようなものを賠償金から差し引くということです。損益相殺の対象になる利益は、交通事故と相当因果関係にある範囲のものです。

損益相殺の対象になるもの

具体的には、以下のようなものが損益相殺の対象となり、受取によって賠償金が減額されます。

  • 受取済の自賠責保険金
  • 受取済の政府保障事業による補償金
  • 受取が確定している(または受取済の)社会保険の給付金

労災や厚生年金、国民年金、健康保険などのことです。

  • 所得補償契約にもとづく保険金
  • すでに受領した所得補償保険金
  • 人身傷害特約にもとづく保険金

損益相殺の対象にならないもの

次に、損益相殺の対象にならないものを確認しましょう。

  • 香典や見舞金
    金額が一般の社交儀礼の範囲を超えた高額になっている場合には、損害賠償の一部とみなされて減額の対象になります。
  • 生命保険金
    最高裁判所は、生命保険が損益相殺の対象にならないと判断しています(昭和39年9月25日)。生命保険金は、交通事故以外の死亡原因によっても同じように支払われる性質のものだからです。
  • 搭乗者傷害保険金
  • 自損事故保険金
  • 生活保護による給付金
  • 労働福祉事業の特別支給金や特別支給年金など(労働災害補償保険法23条)。
  • 支給が未確定な将来分の社会保険給付金
    労災や厚生年金、共済年金などのうち、まだ支給されていないものです。

過失相殺

過失相殺が行われる場合にも、慰謝料が減額されます。過失相殺とは、被害者の過失割合に応じて、相手に請求できる賠償金を減らされることです。たとえば、被害者と加害者の過失割合が3:7なら、被害者が相手に請求できる慰謝料の金額は7割に減らされてしまいます。過失相殺は、事故の状況によって決まるため、なるべく過失相殺をされないためには、事故状況を適切に主張立証して、自分に有利に過失割合を認定してもらう必要があります。

過失相殺と損益相殺の順序

交通事故で過失相殺と損益相殺の両方が問題になる場合、このうちどちらを先に適用するかが問題になります。被害者にとっては、過失相殺前に損益相殺をする方が、請求できる金額が多くなって有利になります。

この点、最高裁は、先に過失相殺をした後に損益相殺をするという、過失相殺後控除説を採用しています(労災保険給付に関する例として平成元年4月11日、政府保障事業に関する例として平成17年6月2日)。そこで、基本的には、過失相殺を先に行ってから損益相殺をするものと考えるべきです。ただし、地裁レベルでは、健康保険の傷病手当金や高額療養費について、先に損益相殺をしてから過失相殺をするという、過失相殺前控除説を採用した例もあります(名古屋地判平成15年3月24日)。

以上によると、損益相殺と過失相殺の順序については、必ずしも固まっているとは言い切れません。傾向的に、自賠責保険や政府保障事業による補償金、任意保険、労災保険からの支払い金がある場合には、過失相殺をしてから、損益相殺を行う順序になりますが、少なくとも健康保険による給付金については、先に損益相殺をしてから過失相殺を行うという考え方を採用する例があります。

高額な慰謝料を請求する方法

慰謝料の増額事由や減額事由はさまざま

以上のように、交通事故の慰謝料は、基本的には定型的に計算されますが、事案によっては増額されることも減額されることもあります。増額される事由としては、離婚、退職、結婚の破談、留年などの被害者の辛い体験によるものが多いです。交通事故によってこのような辛い思いをしたなら、その旨を主張して、適正に慰謝料を増額して支払ってもらうべきです。また、相手に誠意がない場合や他の損害賠償金の補完として増額される場合、近親者が慰謝料請求をすることによっても慰謝料が増額される可能性があります。

反対に、友人の車に乗っていたり、自分に身体的や心因的な素因があったりしたときには、自分にも交通事故の責任があると判断されて慰謝料が減額されてしまうおそれもあります。過失相殺や損益相殺も問題になります。

適切に慰謝料を請求するためには弁護士が必要

弁護士

このように、慰謝料を適切に計算して、高額な支払をしてもらうためには、弁護士の力を借りることが必要です。被害者は、自分ではどのような慰謝料の増額要因があるかがわかりませんし、相手から慰謝料の減額を主張されたとき、それが正しいものかどうかも判断できません。適切な主張をせず、相手に言われるまま示談してしまったら、本来得られるはずの慰謝料を支払ってもらえなくなってしまいます。

弁護士に示談交渉を依頼したら、高額な弁護士基準で計算できることはもちろんのこと、適切に慰謝料増額事由を考慮して、相手からの慰謝料減額事由に反論することにより、より高い慰謝料を獲得することができます。今、交通事故に遭って相手の保険会社と慰謝料について示談交渉をしているなら、すぐに弁護士に相談に行って、慰謝料が適切かどうか確認することをお勧めします。

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